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イラク戦後復興、ブッシュ政権の正念場
持田直武 国際ニュース分析

2003年7月31日 持田直武

ブッシュ政権がイラク戦後復興で苦境に立った。治安が悪化、ゲリラ攻撃で米兵の犠牲が連日伝わる。長期駐留で経費が嵩み、財政赤字の膨張は必至。国際社会の支援が欲しいが、仏、独など主要国は冷たい。開戦時、同政権が国連を軽視し、強気の攻撃に踏み切ったことが裏目に出ている。


・国防総省、3つの見込み違いを認める

 ウオルフォビッツ国防副長官は7月23日の記者会見で、開戦前のブッシュ政権の予測は3つの点で間違っていたと述べた。間違いの1つは、イラク軍の一部が寝返って米軍に協力すると予測したこと。2は、戦闘終了後、イラク警察が治安維持に協力すると予測したこと。3は、フセイン政権の残存勢力がゲリラ攻撃をすると予測できなかったこと。以上の3点である。

 また、同副長官はこの攻撃には、カネで雇われた若者が動員されていると述べた。米兵1人を狙撃するごとに500ドルを貰う契約だという。連続する襲撃の背後で、カネを払っている組織があるのだ。米軍当局によれば、こうしたイラク側の襲撃は1日平均12回。これによる米兵の死者は、ブッシュ大統領が大規模戦闘の終結宣言をした5月1日から7月29日現在で50人。イラク戦争開始以来の死者は166人にのぼり、湾岸戦争の死者147人をはるかに超えた。

 イラク占領軍は現在米軍14万7,000人、英軍など19カ国の軍隊約1万3,000人で、合計16万人。この兵力で日本の1.1倍もあるイラク全土の治安を維持するのはもともと無理なのだ。ウオルフォビッツ副長官の発言は、イラク軍の寝返りや、警察の協力が見込めるという甘い予測をしたことが、この手薄な態勢につながったと率直に認めたものだ。同副長官はこの結果、治安回復と復興事業が遅れ、米軍の駐留が長引くとの見通しも示した。


・国際社会の協力でも見込み違い

 ブッシュ政権はこの窮状打開のため2つの対応策を進めている。1つはイラク人の治安部隊を組織して、米軍が担っている治安維持活動を肩代わりさせること、もう一つは、各国からの軍隊派遣を募ることだ。このうち、イラク人の治安部隊は、5大隊計7,000人を募集し、45日間の訓練のあと各地に配属する。そして、現在米軍が守っている発電施設や弾薬庫などの重要施設の警備にあたる予定という。

 もう1つ、各国からの軍隊派遣は、ブッシュ政権が声高に呼びかけているものの、結果ははかばかしくない。7月28日の国務省の発表によれば、これまでに派遣を約束した国は、すでに派遣している英国、ポーランドなども含め30ヶ国。日本はイラク復興支援特別措置法がようやく成立したばかりで、まだ派遣は決定していないが、国務省はすでに派遣を約束した国30カ国の中に入れている。平和国家日本の参加は、逡巡する国には、格好のおとり商品となるとの判断なのだ。

 去就が注目されるフランスは、国連が戦後復興の中心的役割を果たすなどの条件が満たされていないとして軍隊派遣を拒否。ドビルパン外相は7月24日、ラジオのインタビューで「イラクの治安維持と戦後復興を保障できるのは国連だけであり、国連だけが国際社会全体の協力を確保できる」と強調。この意見にはドイツ、ロシアなども同調している。また、インドも7月14日、国連決議がないとの理由で、議会が派遣を拒否。インドの去就は他の中立諸国にも影響するだけに、ブッシュ政権にとっては手痛い拒否だった。

 7月19日のニューヨーク・タイムズは、ブッシュ政権幹部の中に、国連決議を求めるべきだという主張が強まったと伝えた。ブッシュ大統領がホワイトハウスでアナン国連事務総長と会談したほか、ライス補佐官が国連安保理事国の大使と一連の会談をしたことも、この動きの1つとみられた。しかし、チエイニー副大統領はじめ政権内の強硬派が反対し、まだ決定には至らないという。ニューヨーク・タイムズは「強硬派は無能な国連に助けを求めるのは屈辱と考えているのだ」と伝えた。


・ブッシュ政権には頭の痛い復興関連経費

 ブッシュ政権が国連に目を向けるのは、各国の軍隊派遣確保のためだけではない。米軍の駐留経費と復興事業費が予想をはるかに超えることが確実となり、これにも国際社会の支援が欲しいからだ。ラムズフェルド長官が7月13日NBCテレビで明らかにしたところによれば、駐留経費は1ヶ月約40億ドル、年間480億ドルに達する見通しだ。しかも、米軍は短くても2年、長ければ4年の駐留が必要だという。

 この駐留経費に加えて、イラク戦後復興と日常の行政をまかなう予算が必要になる。イラク占領当局のブレマー行政官によれば、イラク社会のインフラ施設はフセイン政権時代に荒廃、これを正常化するには今後4年間、水の供給施設に160億ドル、電力供給施設に130億ドルなどの巨費が必要と見積もっている。当面の目標は、これらのインフラを開戦前の状態に戻すことだが、これにも最低2ヶ月かかる。このほか、ブレマー行政官は今年後半の行政費として60億ドルが必要との見積もりを出した。

 問題はこれら諸経費の財源をどこに求めるかである。当面は、米銀行に凍結されているフセイン政権の資産17億ドル、開戦前イラクが売った石油代金16億ドル、フセイン大統領が開戦直前持ち出そうとした9億ドルの現金など合計76億ドルがある。しかし、これは今年後半の復興と行政費用に充当すれば、ほとんど底をつく。ブッシュ政権は開戦前、イラクの石油輸出が復興費をまかなう有力財源になると期待したが、治安の悪化、採掘施設の荒廃などで、この予測ももう1つの見込み違いだった。

 ブッシュ政権はこのため10月にニューヨークで国際会議を開催し、各国に資金協力を呼びかける準備を始めた。6月の準備会合の段階で関心を示した国は50ヶ国にのぼったが、その多くはイラクの復興支援には反対しないが、米英軍の占領に協力することは避けたいという国が多いという。軍隊派遣の場合と同様、復興支援にも国連決議があるほうが、各国とも協力しやすいのだ。


・与党内からも批判噴出

 7月28日付けのタイムの世論調査によれば、「イラクにアメリカ人の命とカネをかける価値があると思うか」という質問に対して、イエスと答えたのは49%。ノーが45%だった。開戦直後の3月27日は、ノーが33%だったが、戦争が終わった今になってノーが確実に増えている。ブッシュ政権が開戦前、フセイン政権の脅威を誇張して攻撃を正当化したことや、イラク現地から米兵の犠牲が連日報じられることが、ボディーブローのように効いてきたのだ。

 今後、駐留が長引き、戦費が膨張するようなことになれば、ブッシュ政権はさらに苦しい立場に追い込まれかねない。上院外交委員会は7月29日、ホワイトハウスのボルトン予算管理局長とウオルフォビッツ国務副長官を招いて公聴会を開催、戦後復興の見通しを聞いた。しかし、2人は治安状況が流動的なこと、国際社会の支援取り付けが進行中などの理由を挙げ、具体的な見通しを示さなかった。このため、与党共和党のルーガー外交委員長さえも「ブッシュ政権は進路を見失ったようだ」と批判した。

 実は、ブッシュ政権が進路を見失ったと疑われるのはイラク問題だけではない。7月15日のワシントン・ポストによれば、ペリー元国防長官は同紙のインタービューに答え、ブッシュ政権は北朝鮮の核危機でも「統制力を失いつつある」との危機感を表明した。そして、ブッシュ政権が今のような無為無策を続ければ、米軍は今年中に再度戦争をしなければならなくなると警告した。9・11事件からまもなく2年、大統領選挙まであと1年余り、ブッシュ大統領は正念場に立ったということだろう。


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