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米大統領選、第三の候補ネーダー氏をめぐる争い
持田直武 国際ニュース分析

2004年10月25日 持田直武

第三の候補ラルフ・ネーダーが接戦州で民主党ケリー候補の票を喰い、ブッシュ大統領の再選に貢献する気配が強まっている。接戦はフロリダ州はじめ9州、民主党はネーダーの封じ込めをねらい、一方共和党は漁夫の利を求めて、ともにあの手、この手の動きを続けている。二大政党制の思わぬ落とし穴が支持率1%のネーダーをキングメーカーにしそうなのだ。


・フロリダ州の再現を恐れるケリー陣営

 投票日まで1週間余、接戦の様相が続いている。24日のワシントン・ポストの支持率調査では、ブッシュ支持49%対ケリー支持48%。一方、ニューヨーク・タイムズによれば、選挙人獲得予想数はケリー225人、ブッシュ213人で、ケリーのほうが現時点では12人上回っている。

 同紙の州別調査によると、

・ ケリーの勝利が確実な州、9州(カリフォルニア、ニューヨーク、イリノイなど)と首都ワシントン
・ ケリーが勝利しそうな州、7州(メーン、ミシガンなど)
  この結果、ケリーが獲得する選挙人の合計225人。

・ ブッシュ勝利が確実な州、20州(テキサス、インディアナ、ジョージアなど)
・ ブッシュが勝ちそうな州、 5州(ミズーリ、ノースカロライナなど)
  この結果、ブッシュが獲得する選挙人の合計213人。

 どちらが勝つか判断できない接戦州は9州、選挙人の合計100人。接戦州を選挙人の多い順に挙げると、フロリダ(27人)、オハイオ(20人)、ミネソタ(10人)、ウイスコンシン(10人)、コロラド(9人)、アイオワ(7人)、オレゴン(7人)、ネバダ(5人)ニューメキシコ(5人)

 民主党が恐れているのは、これらの州で前回2000年選挙のフロリダ州のような事態が起きることだ。同州で、共和党候補ブッシュの得票は民主党ゴア候補の得票をわずか537票上回るだけだった。一方、民主党と支持層が重なるネーダー候補の得票は97,488票。もし、同候補が立候補していなければ、その票の多くはゴアに流れ、ゴア大統領が誕生している筈だった。今回も、接戦になればなるほど、ネーダーがケリー候補の票を喰い、ブッシュ再選に貢献することになりかねない。


・支持率1%のキングメーカー

 ネーダー候補は日本でも知られている消費者運動の活動家である。プリンストン、ハーバードの両大学で学び、プリンストンで教壇に立ったこともある弁護士。大企業の横暴から消費者を護ることをモットーに活動し、1960年代から当選を度外視して連続大統領選挙に立候補してきた。今回は無所属で支持率は1%か、せいぜい2%。しかし、前回の接戦州フロリダ、ニューハンプシャーの両州で、得票は1%台だったが、民主党ゴア候補の票を喰い、ブッシュ勝利の原因をつくった。結果として、支持率1%のキングメーカーになったわけだ。

 今回の選挙で、同じことが起きそうな接戦州は、調査するメディアによって違うが、ニューヨーク・タイムズは9州、CNNは12州をあげている。10州前後、選挙人100人余りが、キングメーカー、ネーダーの得票によって去就が決まるかもしれないのだ。民主、共和両党がこれを黙って見ているはずがない。民主党はまず、ケリー候補が5月にネーダーとトップ会談。ネーダーの立候補辞退をねらったが、説得に失敗。次の手段として、選挙管理委員会がネーダー候補の立候補を受け付けないよう裏工作を始めた。

 米の選挙制度では、候補者は政党の予備選挙で選ばれるか、規定以上の支持者の署名を集めて提出することが条件。この条件が満たされないと、州の選管が候補者名簿に掲載しない。ネーダー候補は無所属のため支持者の署名を集めることになったが、これを全米50州と首都ワシントンで行なうには、膨大な資金と人手が必要。選挙制度が民主、共和の既成二大政党だけを念頭につくられ、無所属の個人の進出や新党の結成を妨げていると云われるゆえんだ。ネーダー候補は消費者運動の支持者の協力で署名集めをしたが、これだけでは人手不足、そこに民主、共和両党が介入する余地ができた。


・ミッキー・マウスのサインもあるデッチアゲ署名簿。

 ネーダー候補は州ごとに規定の署名を集め、これまでにオクラホマ州を除く全米49州と首都ワシントンの選挙管理委員会に立候補の届出をした。しかし、選管が正式に受け付けて候補者名簿に掲載したのはフロリダ州はじめ34州だけ、名簿に掲載しないが、有権者が投票用紙の余白にネーダー候補の名前の書き込みを認めた州が8州、その他の州は受け付けを拒否したため訴訟になっている。

 ペンシルベニア州も裁判所の決定で立候補の受け付けを拒否し、訴訟になった。同州は選挙人21人を抱え、選挙の去就に大きな影響を持つため、ブッシュ、ケリー両候補が何回となく遊説していることで知られる。裁判所の決定の理由は、ネーダー候補が提出した支持者4万人余りの署名の70%が無効、残った有効な署名では州が規定する支持者の数に達しないというのだ。ネーダー候補は決定を不服として正式訴訟に持ち込んだが、投票日も近づき時間切れは避けられそうもない。

 裁判所の説明によれば、署名簿には、ミッキー・マウスという署名や電話帳をABC順に写したもの、住所が川の真ん中になっているものなどがあり、明らかに無効とわかるものだという。ネーダー候補の選対は、ホームレスに報酬を渡して書名集めをした。それを知った民主党関係者がその倍額の報酬を彼らに渡してひと目でニセとわかる署名をデッチあげたらしいという。ペンシルベニア州は一時、最も厳しい激戦州と云われていたが、この裁判所の決定が出た10月13日以後、ケリー候補が優勢となり、現在は同候補が勝ちそうな州に数えられている。


・結果を左右するのは結局党利党略か

 共和党が署名集めや法廷闘争でネーダー陣営に肩入れしていることも常識になっている。その結果、ペンシルベニア州以外の接戦州9州では、ネーダー候補が候補者名簿に掲載され、いわゆるネーダー効果が起きて、ブッシュ再選に貢献する可能性が強いとみられている。共和党はネーダーの最大の攻撃対象だったが、今やその政党の党利党略に利用され、ブッシュ再選に貢献するかもしれないという皮肉な役回りになった。これを回避するため、彼は立候補を辞退するという見方もあった。しかし、選挙戦がさらなる接戦状況を示すに至って、その時を失ったようだ。

 投票日まで、残すところ1週間余。1年余りもかけた選挙戦もようやく終わりを迎える。イラク問題、テロ対策など、政策論争もあったが、それよりも相手の人格攻撃、メディアを利用した情報操作が目立った。そして、最後は選挙制度の落とし穴とも云うべき、第三の候補の立場に付けこむ。選挙とはこんなものという見方もあるかもしれないが、民主主義政治の基礎と云うべき選挙がこれでまかり通るということでは、今後ブッシュ政権が中東に民主主義拡大を叫んでも、冷たい反応が返るだけということになるだろう。


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