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ブッシュ政権2期目の課題、北朝鮮政策
持田直武 国際ニュース分析

2004年11月8日 持田直武

ブッシュ政権1期目の北朝鮮政策は消極的の一語に尽きた。2期目がこの繰り返しで済むはずがない。北朝鮮の核弾頭とミサイルを量産する動きを止めなければならないからだ。6カ国協議で成果があがらない場合、国連安保理への付託。その一方で、PSI(拡散防止構想)による海上封鎖や、あたらしく制定した北朝鮮人権法で金正日体制を揺さぶることになるだろう。同時に、最近日増しに北朝鮮寄りになる韓国との意見調整も極めて重要な鍵になる。


・1期目、北朝鮮問題は3大重要課題に入らず

 パウエル国務長官は10月18日、USA Today紙のインタビューで、米外交が現在直面する3大重要課題として、イラク、アフガニスタン、パレスチナを挙げた。北朝鮮の核兵器開発問題は入っていない。9・11事件後、テロ対策が焦眉の急だったこともあるが、北朝鮮問題が等閑視されてきたことは間違いない。大統領選挙戦で、民主党のケリー候補はブッシュ政権が北朝鮮と交渉もせず、核兵器の数を増やすのを見過ごしたと批判したが、そう言われて当然のところもある。

 ブッシュ政権一期目が発足した01年1月、米情報機関は北朝鮮が核爆弾を1個か2個製造可能なプルトニウムを保有していると推定していた。それが、最近の情報機関の推定では、少なくとも8個分のプルトニウムを保有するほか、新たにウラン濃縮によって07年までに最多で6個の核弾頭用の濃縮ウランを保有する可能性があるという。しかも、北朝鮮はすでにNPT(核拡散防止条約)から脱退、国際監視団も追放し、核兵器開発は完全に野放し状態である。

 これに対し、ブッシュ政権1期目は北朝鮮との直接交渉を拒否し、文字通り6カ国協議一本槍だった。議長国中国は努力をしているが、協議は遅々として進まず、隔靴掻痒の感はまぬかれない。最近では、参加国の意見の食い違いも目立つようになった。日本は、拉致問題に対する北朝鮮の対応に不満を強め、単独で経済制裁を発動する準備をしている。だが、韓国はむしろ北朝鮮寄りの姿勢を日々強めている。ブッシュ政権が6カ国協議を提唱したのは02年10月、北朝鮮のウラン濃縮疑惑の浮上がきっかけだったが、このまま成果があがらなければ、同協議は崩壊しかねない。


・6ヶ月間進展がなければB計画の発動か

 ブッシュ大統領は4日、再選が決まったあとの記者会見で、2期目の最重要課題として「対テロ戦争の継続と米国民の安全確保」をあげた。その一環として、イラク、アフガニスタンを含む拡大中東地域の自由と民主化を支援するという。しかし、北朝鮮問題には言及しなかった。記者団から質問も出なかった。米国内がまだ9・11事件の後遺症を引きずり、ブッシュ政権は中東地域を優先、ジャーナリズムも北朝鮮の核開発に大きな関心を払っていないことがわかる。

 しかし、何時までもこれで済むはずはない。6カ国協議が進展しない場合、ブッシュ政権は何らかの手を打たなければならなくなる。インターナショナル・ヘラルド・トリビューン紙は11月5日、その場合ブッシュ政権は「B計画」を発動するという韓国の専門家の意見を伝えている。その骨子は、問題を国連安保理に付託し、同時に日米オーストラリアなど15カ国で構成するPSI(核拡散防止構想)を実施、北朝鮮を実質的に海上封鎖することだという。また、新年から発効する「北朝鮮人権法」に基づいて、金正日体制を揺さぶることもこれに加わる。

 ワシントン・ポスト紙のウッドワード記者は韓国中央日報のインタビューで、ブッシュ政権は2期目発足6ヶ月以内にあたらしい外交努力を始めるだろうが、「武力行使はしない」との見通しを述べている。しかし、北朝鮮はかねてから「国連付託とPSI実施」を宣戦布告とみなすと公言しており、事態が緊迫し、不慮の事態に発展しないとも限らない。韓国にはこの懸念が強く、日米の説得にも拘わらずPSIに参加しない。また、中国も同じ懸念を持つほか、北朝鮮人権法が脱北者の北朝鮮脱出を加速させ、中朝国境地帯で治安が混乱することを強く警戒している。


・盧武鉉政権下の韓国の変貌と懸念

 韓国がこのように日米の動きに一歩距離を置く背景には、北朝鮮に対する認識の大きな変化がある。盧武鉉大統領は10月12日、訪問先のベトナムで記者会見し、「北朝鮮の核問題は、米国が重要視し、厳しい状況にあるため、対立的ことばが行きかっているが、問題は構造的に安定している」との見方を示した。同大統領はさらに「韓国、中国、日本、ロシアなどはすべて北朝鮮に極端な選択を強いる、いかなる環境にも反対している」とも述べた。いわば、核問題は構造的に安定しているのに、米国だけが問題視して、厳しいことばが行きかっているという、米国悪玉論である。

 6カ国協議を開始した頃、中国とロシアは北朝鮮との歴史的関係もあって米国と違う立場をとることもあった。これに対し、日米韓は政策調整グループを組織し、水も漏らさぬ結束ぶりだった。この頃に較べ、盧武鉉大統領の上記の発言はいかに韓国の変化が大きいかを示している。この変化は外交面のみでなく、韓国国内では一般的なことになりつつある。例えば、与党ウリ党が国家保安法の廃棄を主張し、盧武鉉大統領も賛成する動き、あるいは高校の教科書が、朴正熙政権時代のセマウル運動(農村近代化運動)を権力維持の手段と糾弾し、その一方で金日成主席の千里馬運動(大躍進運動)を社会主義建設に大きな役割を果たしたと評価する、など一連の動きに見ることができる。

 中でも、国家保安法の廃棄は韓国建国以来の反共路線の変更であり、今後の対北朝鮮政策に大きな影響を与えることは間違いない。同法は韓国建国後の1948年、北朝鮮との対決を背景に制定したもので、国内を反共産主義で意思統一し、スパイの摘発などに役立った。しかし、同時に民主化運動の弾圧の道具にもなった。現在の与党ウリ党の議員の中には、同法で苦しめられた民主化運動経験者が多く、同党が多数を占める国会の現状では、野党ハンナラ党の反対を押し切って廃止される公算が大きいという。

 9月30日付けの中央日報の調査によれば、韓国国民の75%は「北朝鮮が核を保有している」と思っているが、62%は「さして深刻な脅威とは考えていない」という。こうした韓国の現状を見れば、同国は大統領をはじめ、与党、世論ともに北朝鮮認識を大転換しつつあると思わざるをえない。ブッシュ政権があらたな北朝鮮政策に踏み出すには、これを十分考慮に入れざるをえないだろうし、同時にそれは日本についても同じことが言える。


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