メインページへ戻る

米大統領選展望、ブッシュ大統領の再選か
持田直武 国際ニュース分析

2004年1月11日 持田直武

米大統領選は共和党ブッシュ、民主党ディーンの対決になりそうだ。現職大統領に対し、無名に近いバーモント州前知事の挑戦である。ブッシュが史上空前の資金を確保、党組織を固めたのに対し、ディーンはインターネットを活用、グラスルーツ掘り起こしをねらう。イラク情勢、景気の動向にもよるが、現状ではブッシュ有利だ。


・保守派の大同団結がブッシュを支える

 米国は九〇年代から国論二極化の政治状況が進んだ。極の一方には保守派、もう一方に穏健派だ。9・11テロ事件がこの状況を変えたかにみえたが、今また二極状態に戻った。ブッシュ大統領のイラク政策がこれに拍車をかけている。保守派は、同大統領がイラク攻撃で示した決断力、信念、倫理観を賞賛し、大統領として国家の命運を託すに足るとみる。一方、穏健派は、同大統領が内政、外交の両面で米国を間違った方向に導いていると危惧している。

 ブッシュ大統領の強みは、保守派を確実に掌握したことだ。保守系キリスト教各派や企業経営者、納税者団体など、ワシントンの中枢からグラスルーツまで、共和党を支える組織を幅広く傘下に収めた。そして、政権に密着しているネオ・コン(新保守主義者)や保守系シンクタンクがこれら団体に定期刊行物を配布、意思統一をはかっている。また、有力団体の代表は毎週、ホワイトハウスのカール・ローブ大統領再選担当顧問と会合を開き、選挙戦略を練る。この保守派の大同団結は八〇年代のレーガン政権以来で強力な集票マシーンである。

 もう一つのブッシュの強みは、豊富な資金を確保できることだ。03年度の献金額は1億3,000万ドル、夏の党大会までに1億7,000万ドル、最終的には2億ドルを集めるのが目標という。候補者には連邦選管から公的資金が出るが、ブッシュ陣営はこれを断った。公的資金を受けると、支出を4,500万ドル以下に制限される。そこで、これを断って制限なしに使う選択をした。前回の選挙でも、ブッシュ陣営は公的資金を断り、1億ドルを集めて使ったが、今回の目標はこの2倍である。


・無名のディーンの看板はイラク戦争反対

 この共和党ブッシュに対し、民主党ディーンはさまざまな面で対称的である。ブッシュは東部の名家の長男だが、ディーンはニューヨークの3部屋のアパートで誕生。ブッシュが大州テキサスの知事、次は大統領と注目された頃、ディーンは小州バーモントの知事、全国的知名度はゼロに近い。ブッシュが保守派知事として凶悪犯を容赦なく死刑にしたが、リベラル派知事のディーンは同性愛者に市民婚(Civil Union)を全米で初めて公認し、同姓カップルの市民権を法制化した。

 イラク戦争では、ブッシュは最高司令官として攻撃命令を出す立場。一方、ディーンは有力候補の中でただ1人、戦争反対を訴えた。4月初旬、バグダッドが陥落し、米国民はブッシュの決断を賞賛し、支持率は70%を超えるが、反戦候補ディーンは低迷を続ける。7月初旬のタイム誌の調査では、ディーン支持は10%、民主党候補の中ではリーバーマン、ケリーの両上院議員、ゲッパート下院議員に次いで4番手だった。

 ディーン支持が上向くのは、その後、イラク派遣米兵の戦死者が湾岸戦争の147人を超え、ブッシュのイラク政策に疑問が濃くなってからだ。8月下旬のニューズウイークの調査では、ブッシュの再選反対が49%に上り、初めて再選支持44%を上回る。そして、12月初旬にはブッシュ対ディーンの支持率の差は52対44と8%まで迫った。12月中旬のフセイン元大統領の身柄拘束がこの流れに歯止めをかけ、一時ブッシュ60対ディーン34の大差になるが、04年1月初めのタイム誌の調査では、51対46の5%差まで迫っている。


・インターネットを多用するディーンの選挙作戦

 ディーンにとって最初の試金石は、1月19日のアイオワ州党員集会、続いて27日のニューハンプシャー州予備選挙だ。地元調査機関によれば、アイオワ州ではディーンは支持率29%、2位ゲッパートに4%差でトップ。ニューハンプシャー州ではディーン45%、2位ケリー上院議員13%に大差をつけている。この勢いが続けば、ディーンは7月の民主党大会で大統領候補の指名を獲得できる。しかし、ブッシュに対抗するには力不足は否めない。共和党が保守派主導でブッシュ支援態勢を固めたのに対し、民主党はまだ足並みが揃っていない。

 民主党も労働組合や人権団体など各種組織を傘下に持ち、グラスルーツは共和党以上に幅広い。しかし、労働組合がディーン支持派とゲッパート下院議員支持派に分裂。党幹部の中では、ゴア前副大統領がディーン支持を打ち出したが、クリントン前大統領はクラーク元NATO軍司令官の選対に自派の選挙専門家を派遣して肩入れ。一方、ケネディ上院議員はケリー上院議員を支援するなど足並みが揃わない。7月の党大会で一本化するとしても、民主党が出遅れたことは間違いない。

 ディーンはこの党組織に頼らず、インターネットで直接有権者に訴えて成功した。共和党、民主党のライバル候補からの批判、中傷に対し、インターネットで即座に反論。中傷のテレビ・コマーシャルが流れれば、直ちに主な支持者の携帯電話に反論のメッセージを送り込む。同時に、献金を求めることも忘れない。ブッシュ陣営が総額2億ドルを目標に設定した時、ディーン陣営はすかさず「有権者200万人がディーンに100ドルずつ献金すれば、ブッシュは落選する」というキャッチフレーズをインターネットで流して支持を募った。

 この作戦が功を奏し、献金額は昨年末までに4,100万ドルを超え、民主党候補のトップに躍り出た。一般有権者がインターネットの呼びかけに答え、100ドル、200ドルと献金する。上限2,000ドルの献金が多いブッシュ陣営には総額では及ばないが、献金者数は多く、1人が1票を持つ選挙では有利というのが、ディーン陣営の計算である。このインターネット利用は、2000年の予備選挙で共和党のマケイン候補が初めて採用し、注目された。今回、ディーン陣営が成果を上げれば、今後さらに普及するだろう。


・ブッシュ陣営の不安はイラクと景気

 現状では、現職ブッシュが有利だが、不安がないわけではない。一つはイラク情勢、もう一つは景気だ。中でも、イラク情勢は成り行き次第で致命傷になりかねない。戦争の大義名分、大量破壊兵器は見つからない。フセイン政権とアル・カイダなど国際テロ組織との関係も確固とした証拠が出ない。大規模戦闘には勝ったものの、テロに悩まされ、米兵の犠牲は増加する。12月13日のフセイン元大統領の拘束で、低迷していた支持率は持ち直したが、時限爆弾を抱えた状況は続くとみなければならない。

 イラクと並んで、もう一つのブッシュの鬼門は景気の動向だ。二度の大型減税が景気を刺激し、回復軌道に乗ったかに見えるが、先行きに対する不安は多い。減税とイラク関連費で財政赤字は膨らむ一方。03年度には、3,742億ドルの赤字、04年度はこれが4,800億ドルに膨らむ。実は、同大統領就任時、議会予算局は03年度から08年度までの累積黒字が2兆9,000億ドルに達するとのバラ色の予測をした。ところが、実際は赤字が1兆9,000億ドルも累積する見通しである。

 累積赤字の急激な膨張が経済のバランスを崩して金利上昇を生み、景気低迷を招かないのかとの不安がある。減税は一握りの富裕層を潤すだけで、低所得層は恩恵にあずかれない。むしろ、景気低迷の結果、職を失う恐れが増すという不満もある。現職ブッシュとしては、イラクと景気、この2つを大過なく治め、民主党に攻撃の標的を与えないことが肝要だ。今のところ、イラク情勢は小康状態、景気も上向きの動きを重ねている。ブッシュ陣営にとっては、願ってもない状況である。


掲載、引用の場合は持田直武までご連絡下さい。


持田直武 国際ニュース分析・メインページへ

Copyright (C) 2004 Naotake MOCHIDA, All rights reserved.