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北朝鮮の核危機(20) 強硬な日米、柔軟な韓中ロ
持田直武 国際ニュース分析

2004年3月1日 持田直武

6カ国協議で、米朝間の溝はむしろ深まった。北朝鮮はウラン核開発を完全否定、放棄の対象も核兵器計画だけに限定した。米は完全で、検証可能、不可逆的な核放棄を主張し、平和利用も認めないとの強硬姿勢を変えない。一方、韓国は北朝鮮が全面放棄を約束すれば、核凍結の段階でエネルギー支援をすると提案し、これを中ロが支持した。強硬な日米、柔軟な韓中ロの違いが顕著になった。


・北朝鮮は交渉のハードルを高める

 6カ国協議の対立の1つは、北朝鮮が何を放棄するのかをめぐるものだ。米は今回の協議で、北朝鮮のプルトニウム核開発とウラン核開発の双方を完全、検証可能、不可逆的な方法で放棄すべきだと従来からの主張を展開した。これに対し、北朝鮮はまずウラン核開発の存在を否定。次に、放棄するのは(プルトニウム)核兵器開発だけで、平和利用の核開発は維持すると主張し、従来からの姿勢を変えた。

 米はこの北朝鮮の変化に反発しているが、6ヶ国協議参加国の中には、理解を示す意見もある。ロシアのロシュコフ外務次官は26日、ニューヨーク・タイムズのインタビューに答え、「北朝鮮は核兵器放棄の用意はできたが、核開発すべてを放棄する考えはない。それを要求するのは現実的ではない」と述べ、米の姿勢を批判した。また、中国は28日の議長声明で「核兵器のない朝鮮半島の実現」と述べ、北朝鮮の核兵器開発放棄の主張に沿った表現をした。中国は去年8月の第1回協議の際に出した「共通認識」では、「朝鮮半島の非核化」と表現していた。

 北朝鮮は94年の米朝枠組み合意で、「朝鮮半島の非核化に関する南北共同宣言の実施のための措置を絶えず講ずる」と約束した。北朝鮮のウラン核開発はこの非核化の約束を破ったものとして、米は完全放棄を要求している。しかし、この南北共同宣言の非核化とは、核兵器のない朝鮮半島を意味し、北朝鮮が平和利用を主張する余地がある。米側は、北朝鮮が今になってこれを主張しだしたのは、平和利用を名目にウラン核兵器開発を続行するためではないかと警戒しているのだ。


・もう1つの対立、核放棄が先か、援助が先か

 北朝鮮は第1回6カ国協議いらい核問題を一括妥結方式と同時行動方式で解決するよう主張している。核放棄や経済協力、国交正常化など懸案問題を一括して合意、それらを米朝双方が段階的に実施するという方式である。この提案に従えば、最初の段階では北朝鮮が核計画の放棄を宣言し、米はエネルギーや食料支援をする。そして、外交関係の樹立や経済協力を進め、最後の段階で、北朝鮮は核施設を解体し、米は枠組み合意で約束した軽水炉原発を完工するとなっている。つまり、核の完全放棄の前に、外交関係や経済協力は軌道に乗ることになる。

 これに対し、米の主張は北朝鮮が最初に核を完全放棄することだ。北朝鮮が約束を破る前の状態に戻ることが先決で、米がその前に経済協力をし、いわば約束破りの行為に報酬を与えるようなことはしないというのが基本姿勢である。ケリー国務次官補は今回の協議初日の25日、日米韓3国が合意した「調整された3段階の行動計画」を正式に提案した。日米韓の合意ということもあって柔軟な面もあるが、核放棄が先決という米の基本姿勢は変わっていない。その主旨は次のようなものだ。

 まず、大前提として、北朝鮮が核兵器開発計画を完全で、検証可能、不可逆的に廃棄する約束をすること。北朝鮮がこれに応じれば、米は第1段階の措置として、北朝鮮に対して多角的な安全の保証を検討する準備をする。第2段階として、検証によって廃棄の進行が確認できれば、米は廃棄に必要な技術的、経済的な支援を準備し、北朝鮮のエネルギー需要を満たす方法を検討する。また、第3段階として、廃棄作業が終わりに近づいた時点で、米は北朝鮮と外交関係の樹立、朝鮮戦争の休戦協定を恒久的なメカニズムに変えるなどの包括的な交渉に入る。


・韓国は独自の案を提案、中ロも支持

 一見してわかるように上記の「調整された行動計画」は、検討する準備をする、交渉に入る、などの表現が多い。北朝鮮の核放棄が確認できれば、米も対応措置の行動に移る準備をするという姿勢である。第1段階の措置として、検討の準備をする「安全の保証」についても、これが効力を持つのは、北朝鮮の核放棄が確実になってからだという。北朝鮮はこうした米側の姿勢を「北朝鮮をまず武装解除し、それから交渉しようとするもの」と非難、これも対立点の1つとなっている。

 このような米朝の対立の一方で、韓国が今回の6カ国協議に新提案をした。3段階で問題解決を目指すもので、第1段階では、北朝鮮が完全で、検証可能、不可逆的な核放棄の約束をすれば、日米韓中ロが安全の保証を与える。第2段階として、北朝鮮が核放棄を前提に核開発を凍結し、国際機関の査察を受ければ、韓中ロの3国がエネルギー支援をする。3段階として、北朝鮮が核放棄を完了すれば、北朝鮮の安全を文書で保証し、米国は同国をテロ支援国家のリストからはずすという内容である。

 日米韓3カ国合意の「調整された3段階の行動計画」が北朝鮮の核放棄完了まで支援をしない可能性も予見できるのに対し、この韓国の提案は第1段階で安全の保証を与え、第2段階ではエネルギー支援を実施するなど、北朝鮮提案の同時行動原則に近い。北朝鮮がこの韓国提案にどう答えたが不明だが、中国とロシアはこの韓国提案を支持した。一方、ワシントン・ポストによれば、ブッシュ政権はケリー国務次官補に対して、この韓国提案に中立的な立場をとるよう指示したという。


・北朝鮮は拉致問題の取り上げに反対しなかった

 韓国はこの提案を23日ソウルで開いた日米韓3カ国局長級協議で説明した。しかし、日米は支持を留保、結局中ロが支持し、5ヶ国の意見ははっきり分裂した。韓国は日米韓3カ国の「調整された3段階の行動計画」に加わりながら、一方ではそれとは相容れない部分を含む独自の提案をすることになった。米との同盟関係と北朝鮮同胞との間で綱渡りをする韓国の姿が現れている。

 日本は拉致事件を「関連する諸懸案」という文言で議長声明に入れることに成功した。この問題を日本が持ち出すことに強く反対していた北朝鮮が、この議長声明を認めたのは意外というほかない。北朝鮮のねらいは、国交正常化後に予想される日本の膨大な経済協力にある。それを早く獲得するため、正常化の前提となる拉致問題を解決したいとのあせりがあるようだ。最近、拉致被害者家族の帰国問題で日本側にしきりに秋波を送るのもそのためだ。

 北朝鮮は拉致、核開発の両問題に対して、現状では同じような原則論を展開し、固い姿勢をみせている。しかし、独裁国家はある日突然手のひらを返したように変わることがある。これは02年9月の小泉訪朝で、北朝鮮が拉致を認めた例で経験済みだ。それを促すためにも、圧力は必要になる。ただ、テーブルをはさんで座るだけでは、相手は動かないと思わなければならない。

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