メインページへ戻る

イランの核疑惑と日本の油田契約
持田直武 国際ニュース分析

2004年9月24日 持田直武

イランがIAEA(国際原子力機関)理事会の決議を無視してウラン転換実験を開始した。核の平和利用の権利を主張して強硬策に出たものだが、このまま実験を続ければ、米ブッシュ政権と衝突するのは必至。同政権はかねてから国連安保理付託、経済制裁の発動を主張しており、そうなれば、日本はイランと結んだアザデガン油田契約の破棄を迫られる。


・国内の世論を背景にIAEA決議に公然と叛旗

 イランのアガザデ原子力庁長官は21日、「濃縮ウランの原料、六フッ化ウランを作るためのウラン転換実験を開始した」と発表した。IAEA理事会が18日、ウラン濃縮関連活動の全面停止を要求する決議をしてから3日後、イランはこれを拒否したことになる。理由について、ハタミ大統領は22日の記者会見で、「イランはNPT(核拡散防止条約)で核兵器開発を禁止されているが、核の平和利用の権利は認められている。ウラン転換実験は平和利用が目的で、IAEAの査察にも全面的に協力する」と述べた。IAEAは平和目的の核開発については禁止できないとの見解なのだ。

 イランがこのような主張を展開する背景には、IAEA内部にこれに同調する意見があることも見逃せない。同理事会は18日に採択した決議で、イランのウラン濃縮関連活動に深刻な懸念を表明し、同活動の全面停止を要求。11月25日の次回理事会で、必要ならさらなる措置をとると述べ、国連安保理付託、制裁検討へと進むことも示唆している。この決議に対して、理事国のブラジル、南アフリカなど第三諸国はウラン濃縮関連活動を全面停止すれば、平和目的の核開発も禁止することになるとの疑問を表明。採決が土曜日までもつれ込んだ。

 イラン国内でも、権力を握る宗教指導者や政府関係者、それに世論に大きな影響力を持つラフサンジャニ元大統領などがこぞって平和目的の核開発の権利を主張。同元大統領は17日テヘラン大学で開かれた数万人の抗議集会で、「IAEAが平和目的の核開発を禁止するのは越権行為」と非難し、ハーグの国際司法裁判所に提訴すべきだと呼びかけた。イラン政府の強硬姿勢は、こうした内外の動きを背景にしているが、この動きを続ければ米ブッシュ政権と対決するだけでなく、これまで柔軟対応を主張してきた英仏独3カ国との軋轢も避けされなくなる。


・米にとっての懸念はイスラエルへの影響

 イランは石油大国だが、その枯渇に備えるとの理由で核エネルギーの開発にも乗り出した。このためにロシアの支援で原子力発電所を建設しているほか、国内のウラン鉱開発、精錬施設、濃縮施設など、すでに国内8箇所に関連施設を建設。イラン独自の核エネルギー・サイクルを目指している。1970年には、NPTにも加盟、IAEAに核関連活動を申告し、査察を受けてきた。しかし、その申告が正確でなかったことが02年8月、反体制派の告発がきっかけでわかり、核兵器開発の疑惑が膨らむ。

 ブッシュ大統領は02年1月の年頭教書で、イランをイラク、北朝鮮とともに「悪の枢軸」と呼んだことにみられるように早くから核開発を警戒していた。米国にとって、イランは1979年の米大使館員人質事件以来の宿敵である。80年代、レーガン政権はレバノンに海兵隊を派遣するが、狙いはイランが支援するテロ集団ヒズボラーの根拠地を潰すことだった。同集団はレバノンの基地からイスラエル攻撃を繰り返し、これは現在も続いている。イランが核兵器を持てば、イスラエルの安全が脅かされるとの懸念は想像以上に根強い。

 ブッシュ政権内には、今回のIAEA理事会でイラン問題を国連安保理に付託するべきだという意見も強かった。しかし、英仏独3カ国がイランの出方を見るよう主張したほか、ブラジルなど第三諸国が平和目的の核開発を認めるべきだと主張したため、安保理付託は見送りとなった。しかし、イランが現在のようにIAEA決議を無視してウラン濃縮関連活動を続ければ、安保理付託、制裁検討という成り行きは避けられない。IAEAが動かなければ、イスラエルは1981年にイラクの核施設を爆撃したように、今度はイランの核施設を爆撃しかねないという見方もある。


・日本のアザデガン油田契約の破棄問題も浮上

 国連安保理がイラン制裁を発動すれば、日本がイランと結んだアザデガン油田の契約破棄問題も浮上する。この問題について、ボルトン米国務次官は6月15日の上院外交委員会の証言で、「契約はイランの核兵器開発放棄が前提になっているはずだ」と述べ、イランが核開発を続ける場合、契約を解除すべきだとの見解を示した。また、パウエル国務長官も8月12日の日本報道陣との会見で、「イランが核兵器を開発しようとしているとき、日本が投資するべきなのかどうか、判断するよう望みたい」と述べ、契約再考を要求した。

 同油田はイラク国境沿いにあり、中東でも有数の埋蔵量を持つ巨大油田。今年2月に日本の企業連合が開発権を獲得し、石油公団傘下の国際石油開発が契約に調印した。開発費は関連事業も含めると5千億円、生産のピーク時には日量26万バレル、昨年の輸入日量の6.5%を期待できるという見方もある。日本はアラビア石油が保有していたカフジ油田を00年に失って以来、自主開発油田を持てなかった。それだけにアザデガン油田にかける期待は大きく、失うのは惜しい。米政府関係者の中には、アザデガン油田を手放せば、代わりにイラク、あるいはリビアの油田を斡旋する動きもあるというが、確実ではない。

 それに日本が安易にその申し出に乗れば、イランは反発し、日本を信用しなくなるだろう。IAEA理事会が終わったあとの23日、ブラジル、メキシコ、ニュージーランド、スウェーデンなど7理事国の外相は連名でインターナショナル・ヘラルド・トリビューン紙に寄稿、米英仏ロ中の核保有国5カ国に対して「核の拡散防止だけでなく、5カ国の核軍縮も必要だ」と訴えた。IAEA理事会が米、英仏独、それに上記のブラジルなどの第三諸国に3分された状況にあることがわかる。イランはこの状況や、米国がイラクに足を取られて動けない状態にあることなどを見て、今後も強気を続けるだろう。日本も米依存ばかりでは乗り切れないことになる。


掲載、引用の場合は持田直武までご連絡下さい。


持田直武 国際ニュース分析・メインページへ

Copyright (C) 2004 Naotake MOCHIDA, All rights reserved.