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中朝韓3国の新協力体制が浮上
持田直武 国際ニュース分析

2005年11月7日 持田直武

中国と韓国が北朝鮮に対し巨額な経済支援を開始する。中国は胡錦涛国家主席の訪朝の際、20億ドルを約束した。また、韓国もエネルギーや農業分野に今後5年間に50億ドル余りの支援を決定。計画段階の支援を含めれば、支援総額は200億ドルを超えるという。6カ国協議への影響は必至。経済制裁をしても、効果がないことになりかねない。


・中国の朝鮮半島新戦略は経済優先

 中国が朝鮮半島に対する新戦略を打ち出した。10月28日からの胡錦涛国家主席の訪朝は、金正日総書記と会談してそれを伝えることだった。同主席に同行した王家瑞共産党対外連絡部長は30日、北京での記者会見で、訪朝で主席は1)核問題の平和解決と、2)経済協力促進を確認し、3)中朝関係の今後の発展方向を明示した、と指摘して、核問題と経済協力促進が新戦略の両輪であることを示した。朝鮮中央放送も、胡錦涛主席が金正日総書記との会談で、「中朝の親善強化はわれわれの確固不動の戦略的方針」と発言したと伝えた。

 だが、この核と経済のうち、中国は当面の力点を経済協力に置く様子も見える。王家瑞部長によれば、金正日総書記は首脳会談で、核放棄を約束した6カ国協議の共同声明を「履行すると真剣に約束した」という。しかし、日米が要求している核廃棄の手順について、金総書記がどう発言したのか、王部長は明らかにしなかった。ワシントンでは27日、北朝鮮の韓成烈国連次席大使が「核廃棄は軽水炉建設のあと」と主張、廃棄の手順公表を拒否したばかりだった。中国がこうした北朝鮮の従来からの姿勢に配慮していることも明らかなのだ。

 中国は核問題には慎重だが、経済協力には積極的だ。中国は胡錦涛主席の訪朝中、北朝鮮の重工業部門の再建を目的とする経済技術協力協定に調印した。具体的な内容は公表されていないが、共同通信によれば、総額20億ドル規模という。両国は1992年、中国が韓国と国交を樹立したことが原因で関係が冷却、経済協力件数も大幅に減少した。20億ドルという巨額な経済協力協定はそれ以来のもので、この面での両国の関係復活を示している。


・中国の当面のねらいは鉱物資源など原材料の輸入

 王家瑞部長は30日の記者会見で、「北朝鮮国民の生活を改善する分野にも経済協力を広げる」と説明、協力が重工業分野にとどまらないことを強調した。しかし、当面は北朝鮮の鉱物資源の開発に協力し、採掘した鉱石を中国に輸入、中国東北地方の経済発展に役立てる計画のようだ。香港の新聞、大公報が11月2日に報じたところによれば、中国企業は北朝鮮最大の鉄鉱脈を持つ茂山鉱山の開発権を取得するなど、この面での活動をすでに始めている。

 それによれば、茂山鉱山は鉄鉱石の埋蔵量30億トン、吉林省の中国企業3社が採掘権を獲得し、今後50年にわたって採掘する計画という。また、10月初めには、北朝鮮最大の無煙炭鉱山である龍登炭鉱が中国の非鉄金属企業大手の五鉱グループと合弁会社を設立することで合意。今後、1日100万トンの無煙炭を生産し、中国に供給する計画を明らかにしている。北朝鮮政府もこうした中国企業の誘致に最近は積極的で、9月には、長春で開かれた北東アジア投資・貿易博覧会に大規模な代表団を派遣し、積極的な投資誘致活動を展開した。

 こうした中国企業の動きは約2年前から目立ちはじめ、中朝国境の橋は鉱物資源を積んだトラックの列が頻繁に通過するようになった。このため、北朝鮮の中国向け鉄鉱石の輸出は03年、36万トンだったが、04年には104万トンに急増。亜鉛、鉛、無煙炭なども同じように増えた。中国政府は国境の交通渋滞を緩和するため新たな橋の建設や鉄道の敷設も計画、北朝鮮側と交渉しているという。経済発展を続ける中国にとって、北朝鮮はすぐ近くにある資源大国である。今後、東北地方の開発のためにも、北朝鮮との協力は欠かせないということになる。


・韓国も大規模援助を計画

 この中国の動きとともに、韓国の北朝鮮支援の動きも見すごせない。11月2日の朝鮮日報(電子版)によれば、韓国政府は電力、農業、水産分野など、6分野で今後5年間に5兆2500億ウオン(約50億ドル)の支援をする計画という。韓国はこれまでコメと肥料、それに南北協力資金として毎年約2兆ウオン(20億ドル)を支援している。今回決めたのは、それに上乗せするもので、5年間の長期にわたって、このように巨額の支援を計画するのは初めて。しかも、このほかにも、計画段階の支援計画もあり、すべてを実行すると総額200億ドルを超える膨大な額になるという。

 韓国政府のねらいは、これら支援によって、北朝鮮の経済近代化をはかり、朝鮮半島に平和を定着させることだという。その具体策として、電力などのエネルギー分野、運送などの流通分野、通信分野に集中的に投資をして、北朝鮮に対し核廃棄を促がす誘引策にもする計画だと説明している。また、これら支援事業を開始する時期については、6カ国協議で核廃棄について原則的な合意が成立し、具体的な履行計画が決まった時点から始めるという。

 中国と韓国のこの新しい動きが6カ国協議にどう影響するか、今後の関心の的になるのは間違いない。中朝の協力姿勢が北朝鮮を強気にするのは明らかだからだ。そして、その兆しは早くも見えている。9日から始まる第5回協議を前に、米は北朝鮮に対して核廃棄の手順を示すよう要求したが、上述のように北朝鮮の韓成列国連次席大使は拒否した。平壌で胡錦涛・金正日両首脳が会談する前日のことだった。これは、首脳会談でも「核廃棄は軽水炉提供のあと」という従来の主張を変えないことを示した発言だったと見てよいだろう。


・軽水炉建設完了まで北朝鮮の核保有を容認か

 6カ国協議は、日米、中朝韓、それに距離を置いてロシア、という3局状態になってきた。日米は軽水炉問題、核の廃棄と経済協力開始の時期など、重要項目でほかの4カ国と距離があることがますます明白になった。中国と韓国が今のような経済協力推進の姿勢を続ければ、日米の経済制裁を脅威とは思わないだろう。日米が制裁をしても、中国と韓国が対米貿易で稼いだドルを北朝鮮につぎ込んで、経済制裁を無力にするという、皮肉なめぐり合わせになってきたのだ。北朝鮮が「核廃棄は軽水炉提供のあと」という主張を変えないのは、この変化を見てのことだ。

 中韓は、北朝鮮の核そのものの脅威よりも、核施設の事故を恐れているという見方も無視できない。事故を起こす可能性の多い現在の黒鉛炉に代えて、安全な軽水炉を建設するのが、中韓にとって焦眉の急になっている。それに経済協力が進めば、電力はいくらあっても足りない状態になる。そのためにも、早急に軽水炉を建設したい。前回の6カ国協議直前から、軽水炉問題が急浮上し、中国が米の反対を押し切って共同声明の原案に加えたことを考えると、そんな背景があったと考えたとしても不思議ではないところがある。

 軽水炉を建設するとすれば、10年から13年かかるという。中韓はその間、北朝鮮の核保有を認める姿勢になったのか。もし、そうなったとしても、今のブッシュ大統領がそれを撥ね返す力を持っているか、疑問なのだ。


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