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ブッシュ政権、アラスカ石油開発に動く
持田直武 国際ニュース分析

2005年1月31日 持田直武

ブッシュ大統領念願のアラスカ石油開発が動き出す気配になった。昨年の選挙で、上院の開発推進派議員が増え、開発許容に向けた法改正の可能性が高まった。推進派は、ピーク時には日量150万バレル、現在のサウジアラビアからの輸入量に匹敵する生産を期待でき、価格安定につながると主張。だが、環境保護派は、地球に残った最後の自然が消えると反対。成り行きは予断を許さない。


・米国内の石油生産の急速な減少に危機感

 上院エネルギー天然資源委員会のドメニチ委員長(共)は1月4日、今年度の最優先課題として、アラスカの北極圏国立自然保護区(ANWR)の石油開発計画推進を挙げた。同計画は、ブッシュ大統領が01年の就任直後、チェイニー副大統領に指示して策定した新エネルギー戦略の核心部分。しかし、民主党や環境保護団体が自然を破壊すると強く反対して議会審議が難航。03年には下院を通過したものの、上院で共和党内にも反対が出て、賛成48対反対52で否決された。しかし、去年の選挙で、共和党が上院で議席を55に増やし、開発推進の機運が一気に高まってきた。

 アラスカの油田地帯はボーフォート海に面して3地域に分かれる。西側にNPRA(国立石油保全)地区、中央がプルドー・ベイ地区、東側にANWR(北極圏国立自然保護区)地区の3つだ。このうち、開発可能な中央のプルドー・ベイ地区は、68年に試掘に成功、アンカレッジ東のバルデス港からパイプラインを敷設し、ピーク時には日量200万バレル、米国の全石油生産の4分の1を生産した。しかし、NPRA、ANWRの両地区は、アイゼンハウアー政権時代やカーター政権時代に環境保護のため開発を禁止、あるいは禁止区域を拡大。そして、これに不満な開発推進派と環境保護派の争いが続いてきた。

 ブッシュ政権の新エネルギー戦略は、この開発禁止2地区のうちANWR地区の開発推進を目指している。この背景には、米国内の原油生産の急速な減少がある。ピーク時、200万バレルを生産したプルドー・ベイ地区の産出が最近は日量100万バレル以下に減少、15年後には30万バレル台に落ちる。この他の国内油田も減少傾向が続き、80年代に日量800万バレル台だった米国の産出量は最近500万バレル台に落ちた。その一方、消費は増加の一途をたどり、現在2,000万バレル台。この差額分は輸入に頼らざるをえないが、その輸入先の確保にも不安が出てきた。


・石油消費大国、中国の台頭に危機感

 不安の第一は、経済発展著しい中国が石油消費大国として台頭、米国と輸入先を争う動きを見せていることだ。米の原油輸入先のトップはカナダで日量160万バレル。同国はアルバータ州の油田から国境越えのパイプラインを敷設、輸出の大半を米国に送っている。ところが最近、中国の産業使節団が頻繁に油田地帯を訪問。ニューヨーク・タイムズによれば、中国が20億ドルの投資をするのと引き換えに、カナダは日糧100万バレルを中国向け輸出にまわすという大規模計画が進行中という。米国の裏庭に手強いライバルが出現したことになる。

 中国は国内の原油生産360万バレルに対して、需要は660万バレル。日本の需要560万バレルを抜いて、米国に次ぐ世界第二の石油消費大国となった。しかも、10%近い経済成長を続け、2020年には石油消費が倍増するとの見通しだ。この中国の台頭は、世界の石油需給の態様を大きく変えることは間違いない。世界の消費は04年、日量8,200万バレルだったが、2030年には中国の消費増もあって50%増加して1億2,100万バレルに膨張するという。大方の予想は、需給は逼迫すると見ており、これが、米国内のアラスカ油田開発推進の動きを勢いづけている。

 米内務省の資料によれば、ANWR地区の採掘可能埋蔵量は103億バレル、米国内の全油田の確認埋蔵量の約半分に相当する。今年中に議会が開発法案を可決すれば、7−10年後には、1日150万バレルの生産が期待できるという。開発推進派はこれを突破口にして、ANWR地区の西側にあるNPRA地区の開発解禁も目指しており、内務省も近く同地区で試掘を認める動きをしている。NPRAには原油20億バレルのほか、天然ガスが35兆立方フィート埋蔵されているという。ブッシュ大統領としては、任期中にこれらの開発を軌道に乗せ、将来のエネルギー見通しを確かなものにしたいという考えだろう。


・開発推進派ブッシュと環境派ケリーの2度目の衝突

 だが、開発反対派も簡単に引き下がる陣容ではない。中心は民主党大統領候補だったケリー上院議員、それにケネディ上院議員。推進派はブッシュ、チェイニーという石油業界出身の正副大統領で、昨年の選挙の対決再現になる。大統領選挙では、アラスカ石油開発は表面に出なかったが、議会選挙では争点になった州も多かった。アラスカ州は、開発推進派の共和党上院議員と知事が揃って当選。一方、サウス・ダコタ州では、反対派の民主党ダシェル上院院内総務が落選。同院内総務は反対派の総帥として03年11月、開発解禁を盛り込んだエネルギー法案の否決に手腕を発揮した。当時、ケリー上院議員は同院内総務の下で行動隊長の役割だった。

 米議会では、余程のことがない限り党議拘束で議員を縛ることはしない。議員はエネルギー法案のような重要案件でも党の枠を越えて賛否を決める。その結果、他党の議員の翻意を促がすための工作も活発になる。エネルギー法案では、共和党幹部はこの手でダシェル院内総務に接近した。同法案には、穀物からエタノールを抽出して代替エネルギーとするという項目があり、この穀物として同院内総務の選挙区サウス・ダコタの特産コーンを使う案を打診したのだという。選挙区の利益をちらつかせ、法案支持に転換させようとする作戦だった。しかし、同院内総務はこれに乗らず、法案を葬った。その1年後、同院内総務は落選。その後しばらくの間、選挙区の農民が、コーン使用を断った同院内総務に反旗をひるがえしたのだと揶揄された。

 開発反対派は、反対の理由として油田開発を許せば、石油産業はじめ関連企業が殺到し、地域は一大産業コンプレックスに変貌すると主張する。パイプラインが縦横に走り、汲み出した原油の温度で地域の気温が上がり、環境は一変しかねない。そして、地域に生息する北極熊やジャコウ牛、カリブーなどの希少動物が危機に瀕する。その結果、開発は地球上に残る最後の野生地帯を消滅させるというのだ。04年12月のゾグビー社の世論調査によれば、開発反対は55%と過半数を超えている。ブッシュ政権は昨年の選挙で、共和党が上院で5議席増やした結果、本年中には法案は通過すると期待しているが、必ずしも予断はゆるさない。


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