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北朝鮮の核危機(27) 核保有国宣言の重み
持田直武 国際ニュース分析

2005年2月14日 持田直武

北朝鮮が核兵器の保有を公式に宣言した。廃棄する場合の代価が吊り上ったことは間違いない。日米はじめ関係国は6カ国協議の再開要求で足並みを揃えたが、見通しがあるわけではない。他に選択肢がないのだ。事態打開の鍵を握るのは中国。この混迷が続けば、その存在が益々重くなるだろう。


・6カ国協議以外の選択肢がない関係国

 2月10日の北朝鮮外務省の声明には、次の2つの意味がある。

1、核兵器製造を公式に認め、国際社会に向けて核保有国としての立場を宣言した。
2、6カ国協議出席の無期限中断を表明、協議再開に向けて努力していた議長国、中国との冷たい関係を浮き彫りにした。

 上記2つとも、これまで推測は出来たが、北朝鮮が外務省声明という公式文書ではっきりと示したのは初めてである。北朝鮮のこの動きに対して、中国の李肇星外相とライス米国務長官は12日に電話で会談し、「6カ国協議の早期再開に向けて努力すること」で合意したという。つまり、米中とも北朝鮮の翻意を促がすこと以外に打つ手がない。これを米中外相が認め合ったことになる。

 6カ国協議以外の主な手段としては、国連安全保障理事会に問題を提訴し、経済制裁などで圧力をかけるか、あるいは、米国内で議論が絶えない軍事力による実力行使がある。しかし、安保理提訴には、中国、ロシアがこれまでの反対の姿勢を変えることが条件になる。今後、事態が流動化し、両国が態度を変えれば別だが、現状では実現の可能性はない。例え、米が提訴しても、両国が拒否権を行使して葬るだろう。もう1つの選択肢は軍事力による実力行使だが、これも問題が多い。

 実力行使をする場合、第一の目標は核兵器、およびその製造関連施設の破壊を目指すことだが、米情報機関は現時点で核兵器の所在や、その製造施設のある場所を突き止めていないという。攻撃しようにも、攻撃目標がわからないのだ。しかも、米軍が攻撃すれば、朝鮮人民軍が反撃。38度線の南わずか40キロ地点のソウルは壊滅的打撃を受ける可能性がある。韓国はこのような事態を恐れ、米軍が韓国内の基地を使って北朝鮮を攻撃することに反対している。以上の状況を考えれば、北朝鮮を除く5カ国には、6カ国協議以外の選択肢はないことになる。


・北朝鮮は核廃棄の代価を吊り上げる

 北朝鮮は10日の声明で、「核兵器を製造した」と宣言、同時に「対話と交渉で問題を解決し、朝鮮半島を非核化しようとする最終目標には変わりがない」と述べた。核保有国になったが、話し合いによって、その核を廃棄してもよいというのだ。この言のとおり、北朝鮮が核廃棄の約束をすれば、94年の米朝枠組合意に次いで2回目になるが、注意すべきなのは、その間の北朝鮮の立場の変化である。94年は、北朝鮮はNPT(核拡散防止条約)に違反した、いわば被告の立場だった。しかし、今回はNPTから脱退し、米中やインド、パキスタンなどと同じ核保有国の立場となった。当然、核廃棄の代価も高くなり、それが北朝鮮の姿勢にも現れることになる。

 北朝鮮が執拗に米との2国間対話を要求する背景には、そのような北朝鮮の立場を認めさせるねらいもあると見なければならない。北朝鮮の韓成烈国連次席大使は11日、韓国のハンギョレ新聞のインタビューで、「米が北朝鮮との直接対話に応じれば、6カ国協議に出席する。対話に応じることは、敵視政策変化の信号とみなせるからだ」と述べた。これを聞いたホワイトハウスのマクレラン報道官が定例記者会見で直ちに「直接対話には応じない」と拒否。すると、韓成烈次席大使はAPテレビのインタビューで「6カ国協議は古い話だ。もうない」と固い姿勢をあらわにした。

 6カ国協議は、米ブッシュ政権が構想、中国が議長役、北朝鮮は弁護士も付かない被告同様で、当初から不満だった。北朝鮮が核保有宣言をした10日以後、中国のインターネットのサイトには、賛否両論の意見が現れた。その中の1つは、「料理用ナイフは料理に使う。しかし、子供や狂人に持たせてはならない。北朝鮮に核兵器を持たせるべきでないのは、同じ理由からだ」という意見が出た。これまで、このような政治性の強い意見は当局が削除していたが、今回は自由に掲載されているという。中国国内にある北朝鮮観の一端の現われだが、当局がこれを禁止しない点にも注目すべきだろう。中国が北朝鮮に共産党対外連絡部の王家瑞部長を派遣して6カ国協議出席を促がそうとした矢先に、北朝鮮は核保有、同協議拒否の宣言をした。北朝鮮と中国の関係のきわどい接点を示すエピソードだ。


・6カ国協議にこだわれば、中国の重みが増す

 ブッシュ政権が6カ国協議に問題を丸投げし、直接交渉を忌避するのは、2つの理由がある。

1、北朝鮮に裏切られたクリントン政権の二の舞を避けたい。
2、イラクや中東和平に比べ、北朝鮮の核問題は緊急性がないと見ている。

 クリントン政権は94年、北朝鮮と直接交渉して米朝枠組み合意を締結。北朝鮮がプルトニウム核開発を凍結する代償として、米は軽水炉型発電施設、それが完工するまで毎年重油50万トンを提供、核兵器を含め軍事力の行使をしないなどの約束をした。しかし、北朝鮮は同合意に反してまもなくウラニウムによる核開発を始め、今回の核危機になった。ブッシュ政権はこの経験から、北朝鮮と直接交渉はしないという姿勢を変えない。

 また、ブッシュ政権はこうした政治的背景と同時に、イラクやパレスチナ和平で手一杯で、北朝鮮問題を二の次にしていることも事実。ホワイトハウスのマクレラン報道官は11日の記者会見で、記者団から北朝鮮と直接対話をしない理由を聞かれ、「これは地域の問題だ」と答えた。米だけでなく、中国や日本、韓国が関わる問題という意味にも受け取れるが、米国が真正面から取り組む重要問題ではないというニュアンスが強く感じられる答だった。翌日のワシントン・ポスト紙は社説で「北朝鮮の核保有宣言は脅威が日増しに高まっていることを示しているが、ブッシュ政権はそれを抑える効果的な戦略を持っていない」と批判した。

 米のメディアは総じて6カ国協議には高い評価を与えていない。問題の解決は米朝の直接交渉によるしかないとの見方が強いことや、6カ国協議で中国の影響力が増大することへの警戒心も根強いからだ。中国は北朝鮮との貿易額でもすでに日本の5倍強になったほか、北朝鮮に毎年石油50万トン前後や食糧などを支援し、北朝鮮のライフラインを握る立場にある。国境線を開放すれば、脱北者が中国領に殺到する事態も起きるだろう。ブッシュ政権の期待は、中国がこの影響力を行使して、6カ国協議に貢献することだが、それは同時に中国の存在が東北アジアで益々重くなることでもある。

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