メインページへ戻る

米次期大統領選、ヒラリーとライスか
持田直武 国際ニュース分析

2005年3月28日 持田直武

08年大統領選の候補者として、民主党はヒラリー・クリントン上院議員、共和党はコンドリーザ・ライス大統領補佐官が浮上している。両女史とも立候補するとは言わないが、支持者がインターネットで友の会を結成、両女史の名前入りTシャツ、野球帽、車のステッカーなどを売っている。選挙は4年後だが、インターネット選挙戦は早くも過熱気味、男性政治家が切り込む余地は今のところない。


・08年選挙、本命はヒラリー、ライスはダークホース

 ハースト系の新聞チェーンが2月に実施した世論調査によれば、米国民の81%が女性大統領候補に投票してもよいと考え、53%は民主党のヒラリー・クリントン上院議員が立候補することを支持している。また、42%は共和党のライス国務長官の立候補を支持している。ヒラリー上院議員が大統領の座をねらっていることは公然の秘密だが、その対抗馬としてライス長官の名前が出たのは初めてだった。マスメディアがこれに飛びついたのは言うまでもない。

 まず、保守系の新聞、ワシントン・タイムズが3月11日、ライス国務長官にインタビューして、「大統領の座をねらうか」と聞いた。同長官はこれに対し、「私はこれまでどんな役職にも立候補したことがない」と答えた。これは、「将来の立候補を否定しない、含みを残した発言」と受け取られても仕方のないものだ。それから2日後の日曜日の朝、同長官はNBC、ABCの2テレビ局のモーニング・ショーに引っ張り出される。そして、大統領選挙に立候補するのか、どうか、攻め立てられた。

 ライス国務長官はこれに対して、NBCテレビで、「私は大統領選挙に立候補しないだろう」と答える。同長官はまた、ABCテレビでも、「私は立候補しないだろう」と同じように答えた上で、さらに「この答えでどう? 意味が十分伝わるかしら?」と立候補否定の意図を念押しした。AP通信はこれを聞いて、同長官は大統領の座への扉を閉ざしたと報じた。しかし、これですべてが終わったことにはならない。同長官が立候補を否定しても、支持者が結成した「友の会」がインターネットを駆使して、各地で活発な運動を展開しているからだ。


・加熱するネット選挙戦、男性政治家が切り込む余地なし

 米国で被選挙権を持つ市民が大統領に立候補する場合、まず選挙資金管理団体を組織して選管に届け出る。選挙資金の献金を受け、支出を管理するためである。候補者は投票日の1年前か、早い場合は2年ほど前、この手続きをし、運動を開始するのが普通だ。しかし、ヒラリー上院議員とライス国務長官の場合、この枠に当てはまらない動きが目立つ。両女史とも、立候補の意思を否定し、選挙資金管理団体の届けもしていない。しかし、「友の会」が両女史の意図と関係なく、活発な運動をすでに展開している。熱狂的な支持者を中心とする、そんな友の会がそれぞれ複数ずつある。

 ライス国務長官の場合、同長官がブッシュ政権1期目の大統領補佐官に就任したあと、友の会が生れた。そして、04年の大統領選挙では、ブッシュ大統領の副大統領候補になることを目指し、「ブッシュ・ライス2004」のスローガンを掲げた。しかし、現職のチェイニー副大統領の続投が決まり、友の会は次の目標をライス大統領の実現に変える。そして、インターネットで「ライス08」のスローガン入りTシャツ、野球帽、ステッカーなど、いわゆるライス・グッズを売り、運動資金を集めている。正式な資金集めは、候補者が選挙資金管理団体を組織しないとできない。そこで、友の会はTシャツなどを売って活動資金にしているのだ。

 ヒラリー・クリントン上院議員の場合も事情は同じである。同議員も大統領選出馬を表明したことはないが、支持者は友の会を結成、インターネットで「ヒラリー08」のTシャツなどを売って、ヒラリー大統領実現を目指している。同議員の場合、08年の大統領選挙の前に、06年の上院議員再選を控えている。このため、ヒラリー・グッズは上院議員再選のための「ヒラリー06」と大統領選挙用の「ヒラリー08」の2種類がある。08年の大統領選挙に立候補を噂されている男性の有力政治家は何人もいるが、両女史のように支持者が活発な運動を展開している例は、今のところない。


・ヒラリー議員が一歩抜きん出る

 マリスト大学世論研究所が2月中旬に実施した調査によれば、民主党の大統領候補レースでは、ヒラリー・クリントン上院議員が39%の支持を集めて1位。2位は、04年の大統領候補だったケリー上院議員で21%である。現状では、ヒラリー議員が一歩抜きん出ていることは間違いない。一方、共和党はジュリアーニ前ニューヨーク市長が25%で1位、2位はマケイン上院議員で21%。ライス国務長官はまだ調査対象に入っていない。しかし、インターネットでは、ヒラリー議員に対抗するにはライス長官しかないという意見が圧倒的に多い。

 ヒラリー議員は大統領選に出馬するとは言わないが、それをねらっていることは、誰も疑わない。同議員は学生時代から大胆なリベラル派で知られたが、上院議員としての活動は中道派、問題によっては保守派に近い。イラク戦争を支持し、戦場を2回も訪れて兵士を激励したことが、それを示している。また、賛否が分かれる妊娠中絶問題では、「女性にとって中絶は悲劇」と述べ、保守・リベラル両派の共感を呼んだ。これも、同議員が大統領選出馬に備えて、支持拡大をはかっている証拠と見られている。

 ヒラリー議員に比べ、ライス国務長官の立場ははるかに堅苦しい。同長官は3月11日、ワシントン・タイムズのインタビューで、「支持者が立候補を期待していることは知っているが、私がブッシュ大統領の後継を目指して立候補することなど想像もできない」と語った。同長官の場合、国務長官在職のまま立候補は無理、辞職して立候補しても、共和党主流が支持するか、有色人種を嫌う白人至上主義者がどう反応するか、など難問が多い。インターネット上では、ヒラリー上院議員と互角の戦いだが、08年はそこまでが精一杯。民主・共和両党が黒人の女性大統領候補を指名するようになるには、あと何回かの選挙が必要だろう。


掲載、引用の場合は持田直武までご連絡下さい。


持田直武 国際ニュース分析・メインページへ

Copyright (C) 2005 Naotake MOCHIDA, All rights reserved.