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6カ国協議の行方
持田直武 国際ニュース分析

2006年11月12日 持田直武

米共和党の中間選挙敗北が6カ国協議にどう響くかが焦点になった。協議再開を前に、北朝鮮は核保有国として協議に臨み、米の金融制裁解決が前提と予告した。ブッシュ政権は拒否の姿勢を明確にしたが、選挙で躍進した民主党は同政権に対し、北朝鮮との直接交渉を迫る構えを見せている。北朝鮮がこの状況に付け込むのは必至。日本が目指す核と拉致問題の同時解決にも影響が及びかねない。


・協議再開前から思惑は平行線

 北朝鮮は6カ国協議再開を前に2つのねらいを明らかにした。1つは、「協議の枠内で、米の金融制裁解除を米朝間で論議、解決すること」。協議への出席は、それが「前提」だと主張した。もう1つは、北朝鮮は「核保有国として意見を述べる」ということだ。北朝鮮の主張を忠実に伝える在日朝鮮人総連合会の機関紙朝鮮新報(電子版)は2日、これに関連して「再開される6カ国協議がこれまでと根本的に異なる点は、北朝鮮が核保有国として出席することにある」と伝えた。「北朝鮮の核保有はもはや現実であり、査察するという主張は通じない」というのだ。

 だが、ブッシュ政権は核保有国として認める考えはまったくない。ライス米国務長官は31日、ニューヨーク・タイムズとのインタビューで「米は協議が開かれた場合、北朝鮮の核開発計画を終わらせるための検討を要求する」と主張。具体的には、寧辺の原子炉やプルトニウム再処理施設などを解体。その検証のため、IAEA(国際原子力機関)の査察団の再入国を要求するという。北朝鮮は去年9月の6カ国協議の共同声明で、核開発放棄を約束したが、米はこの合意の実施方法の検討を要求する構えなのだ。

 金融制裁問題についても、米朝間には隔たりがある。北朝鮮は「協議の枠内で、米朝間で論議、解決する」と主張。それを「前提に協議に出席する」という立場だ。これに対し、ブッシュ政権は「北朝鮮に問題点を説明する」と主張、解除には触れない。米財務省のキミット長官代理は8日、韓国外交通商省朝鮮半島平和本部の千英宇本部長と会い、「金融制裁問題は財務省が北朝鮮に説明する」と伝えた。場所は「ニューヨークでも、平壌でもどこでもよい」という。ブッシュ政権は、北朝鮮が金融制裁の解除と6カ国協議をからませるのを警戒し、金融制裁問題を6カ国協議から切り離すことをねらっている。


・ブッシュ政権の強気、待ったをかける民主党

 ブッシュ政権が強気なのは、制裁が北朝鮮を追い詰めていると見るからだ。ライス国務長官は31日米CNBCテレビで、協議再開が決まった経緯を明らかにし、「6カ国協議再開は北朝鮮が提案してきた」と強調した。北朝鮮が制裁に追い詰められ、6カ国協議に応じざるをえなくなったとブッシュ政権は見ているのだ。北朝鮮外務省が協議復帰の声明で「金融制裁問題を解決するという前提で協議に出席する」と主張しているのは、金融制裁がそれだけ打撃になっていることの証明と米側は解釈している。

 この対決状態が続けば、6カ国協議の進展はおぼつかない。特に、北朝鮮が「解決が前提」と主張する金融制裁問題で、米朝の主張が今のように並行線を辿るなら、協議は再開さえ決まらないか、再開しても膠着状態になりかねない。そうなれば、選挙で躍進した民主党が黙っていないに違いない。下院国際関係委員長に就任予定の民主党ラントス議員は8日、AP通信とのインタビューで、「対外政策で劇的変化を追及する」と抱負を語り、北朝鮮とイランとの直接対話の推進を当面の目標に挙げた。

 民主党も北朝鮮の核保有を認めず、6カ国協議で問題を解決するとの立場はブッシュ政権と同じだ。しかし、同政権が米朝の直接対話をしない点については不満だった。クリントン前政権時代、民主党は米朝直接対話を推進し、当時のオルブライト国務長官が訪朝した実績もある。94年の米朝枠組み合意は北朝鮮が核開発を再開したため、ブッシュ政権が破棄したが、民主党内には、破棄は行き過ぎとの主張もあった。6カ国協議が膠着すれば、こうした民主党内の主張が強まるのは必至。北朝鮮がこれを見過ごす筈はない。


・米朝直接対話で拉致問題の行方は?

 米国内で米朝対話の主張が高まれば、韓国に影響が及ぶことも必至である。盧武鉉政権は、日米に歩調を合わせ国連制裁決議の完全実施を表明したが、政府・与党内には異論がある。これを反映し、盧武鉉大統領は6日議会に提出した施政方針で「どのような状況下でも北朝鮮との対話を維持する」と表明。開城工業団地と金剛山観光事業についても「国連決議の精神に合致する方向で続ける」と約束した。日米は、これら南北共同事業が核開発の資金源になると警戒するが、盧武鉉政権は対話優先の姿勢を崩さない。米国内で対話路線が強まれば、同政権のこの姿勢には追い風となる。

 北朝鮮がこうした韓国内の動きに付け込もうとして慰撫工作を展開していることも間違いない。北朝鮮最高人民会議の金永南常任委員長は3日、訪朝した韓国の野党民主労働党代表団と会談し、核兵器は「米の圧殺政策と制裁に対する自衛策として開発した」と説明、「南の同胞をねらうためのものではない」と断言した。その一方で、北朝鮮外務省報道官は4日、「日本は6カ国協議に参加する必要はない」と主張。日本が北朝鮮に厳しい制裁を実施した上、拉致事件で北朝鮮の責任を追及することに対し、強い反発を示した。

 北朝鮮は日米韓の3国同盟から、まず韓国を切り離し、次に日米を切り離そうとねらっている。米朝直接対話が実現すれば、焦点は核開発問題になるのは明らかで、日本が主張する拉致問題は議題にならないだろう。米朝交渉の展開によっては、日本国内の不満は高まり、日米同盟に対する失望感が生まれかねない。日本政府が目標とする北朝鮮の核兵器開発放棄と拉致問題の同時解決を達成するにはどうするべきか、日本の外交力がこれから試されることになる。


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