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米次期大統領選挙の前哨戦スタート
持田直武 国際ニュース分析

2006年11月26日 持田直武

次期大統領選挙の投票日は08年11月4日。まだ、2年も先だが、インターネットは早くも投票日までの秒読みを始めた。新聞、テレビにも大統領選挙がらみの話題が増えた。世論調査では、民主党の大統領候補はヒラリー・クリントン上院議員、共和党はマケイン上院議員がリード。クリントン上院議員が勝てば、米国で初めての女性大統領が誕生する。


・注目度の第一は、ヒラリー・クリントン上院議員

 米国は「選挙は11月の最初の月曜日のあとの最初の火曜日に実施する」と規定している。また、「候補者を予備選挙で選出する」とも決めている。この結果、次の大統領選挙は08年11月4日。予備選挙は、民主党が1月14日のアイオワ州を皮切りにスタート。共和党は1月21日のアイオワ州からスタートし、両党とも6月までかけて50州で実施する。また、大統領選挙と同時に上院の改選議員の選挙、下院の全議員、改選知事、市長、地方議員など各種の選挙をすべて同日に実施する。各種選挙が予備選挙の段階から同時進行するに等しく、米は選挙一色になる。

 現在、大統領選挙戦に出馬すると見られる政治家は、民主・共和両党とも約10人。 このうち民主党では、前大統領夫人のヒラリー・クリントン上院議員が抜群の強さを発揮して各種世論調査で常に1位。2位のオバマ上院議員に大差をつけている。共和党はベトナム戦争の英雄マケイン上院議員が1位。2000年の大統領選では、予備選挙でブッシュ大統領に敗れ、今回再度の挑戦となる。同議員にわずかに遅れて2位は、前ニューヨーク市長のジュリアーニ氏。同氏は9・11事件当時、ニューヨーク市長として事件の処理に手腕を発揮したことで知られている。

 以上のうち、メディアの関心はクリントン上院議員に集中している。前大統領夫人としての知名度、全国で3番目に多い31人の選挙人を持つニューヨーク州選出。11月7日の中間選挙でも、66.5%の得票で共和党候補を下した。タイム誌は世界で最も影響力のある女性のリストに5年連続挙げた。チェイニー副大統領も10月24日、フォックス・ニュースのインタビューで、「クリントン上院議員は手ごわい相手だ。私は望まないが、彼女は勝つだろう」と語り、同上院議員の力を認めた。勝てば、米国最初の女性大統領、しかも夫婦で大統領になる最初の例となる。


・政策論争の中心はイラク問題

 だが、そのクリントン上院議員にも弱点がある。イラク問題で、強硬な姿勢を取り続けたことが、今後マイナスにならないかという懸念だ。同上院議員は、ブッシュ政権のイラク開戦を支持し、その後も「対外コミットメントを安易に変えるべきではない」と主張。事実上、撤退を拒否するブッシュ政権のイラク政策を支持した。一方、民主党内には撤退の主張が強まり、中間選挙では、ペロシ次期下院議長など民主党主流も撤退路線に傾斜、クリントン上院議員との意見の違いが明白になった。同上院議員が今後大統領選挙を戦う場合、これが障害にならない筈はないと見られるのだ。

 民主党内で、クリントン上院議員に次いで2位のオバマ上院議員は「4−6ヶ月以内に段階的撤退を開始するべきだ」と主張。ペロシ次期下院議長の主張に歩調を合わせている。オバマ上院議員は当選してまだ2年目の45歳の黒人。才気と弁舌で最近急速に支持を集め、11月の中間選挙でも、各地の民主党候補者から応援の要請が相次いだ。CNNの11月17日の世論調査では、民主党内の支持率は、1位クリントン33%に対し、2位オバマ15%。しかし、チェイニー副大統領が上記のインタビューで「彼はまだ若い」と評したように経験不足の感は免れない。将来を期し、次回の選挙は見送るという見方もある。

 共和党のマケイン上院議員は海軍のパイロットとしてベトナム戦争に従軍、北ベトナム軍に撃墜され、捕虜として4年余りを獄中で送った。帰国して共和党上院議員に選ばれ、強硬派の一匹狼として知られる。イラク戦争についても、ブッシュ政権が充分な数の兵力を派遣していないと批判。少ない兵力で効果的に戦うと主張したラムズフェルド前国防長官と対立した。マケイン上院議員に次いで、支持率2位のジュリアーニ前ニューヨーク市長は、知名度は高いが、政策については余り知られていない。9・11事件との関わりから、テロには強硬な姿勢と見られるが、イラク問題など外交問題については未知数だ。


・ライス国務長官の立候補を期待する声も

 中間選挙では、イラク問題が焦点だったが、この状況が2年後の大統領選挙まで続くとは限らない。しかし、前哨戦の党の候補指名争いでは重要な要素になるとの見方が強い。それは、次のような最新の世論調査にも現れている。ブッシュ政権に保守強硬派の立場から楯突いたマケイン上院議員が中間選挙を機会に支持率を伸ばし、クリントン上院議員を凌ぐ勢いを見せているのだ。

・CNNニュース(10月13−15日 中間選挙前の調査)
 クリントン51% 対 マケイン44%

・CNNニュース(11月3−5日の調査)
 マケイン48% 対 クリントン47%

・フィナンシャル・ダイナミクス社(11月8−12日 中間選挙後の調査)
 マケイン45% 対 クリントン40%

 上記のように、マケイン議員は中間選挙前、クリントン議員に大幅にリードを許していた。しかし、中間選挙後は逆転している。これについて、11月9日のワシントン・ポストは「マケイン上院議員は共和党内からブッシュ政権のイラク政策と対決し、同政権に不満な党内の有権者の支持を得ている」と解説した。共和党の有権者も、次期大統領がブッシュ政権の影を引きずることを嫌っているのだ。  そのマケイン上院議員にも弱点がある。同議員はすでに70歳、当選した場合、大統領就任時に72歳。レーガン大統領は就任時69歳だったが、これを上回って史上最高齢となる。今後2年も続く選挙戦もあり、年齢の重荷も無視できない。その反映か、共和党内には、ライス国務長官の出馬を期待する声が消えない。当人は、報道陣の「出馬打診」の質問に「ノー」と軽くかわすが、PEW世論調査所やUSA Todayの調査では、マケイン上院議員、ジュリアーニ前ニューヨーク市長に次いで、3位の支持率を維持している。共和党内の候補難を物語るものだ。


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