メインページへ戻る

イランの核開発、ねらいは核抑止力の確保
持田直武 国際ニュース分析

2006年3月13日 持田直武

イランが核兵器開発を目指していることは間違いない。アフマディネジャド政権のねらいは、イランのイスラム主義体制を護ること、そのため中東のイスラム強硬派を結集して主導権を握り、米とイスラエルの圧力に対抗することにある。それには、核抑止力の確保が不可欠と考えているのだ。


・ウラン濃縮は核兵器製造への抜け道

 IAEA(国際原子力機関)のエルバラダイ事務局長は8日、国連安全保障理事会に報告書を提出し、イランの核開発計画について、「過去3年間の徹底的な査察にもかかわらず、その内容を確認できなかった」と述べた。開発計画が、イラン政府の主張するように平和利用を目指すものなのか、核兵器の開発をねらうものなのか、IAEAの査察では、結論が出せなかったという報告である。

 国連安保理は、この報告を受けて13日からイランの核問題を取り上げ、今後の対応を協議する。IAEAは結論が出せなかったが、米や、英独仏のEU3国は、イランのねらいは核兵器開発にあるとの見方で一致している。イランは、EU3国やロシアと交渉を重ねる過程で、ウラン濃縮をイラン国内で実施することに強く固執した。ロシアとの交渉では、濃縮をロシア領内で実施する合弁会社設立まで決めたが、イランは同時に研究用と称するウラン濃縮を国内でも実施すると主張、交渉は決裂した。

 イランが国内のウラン濃縮に固執するのは、核物質を兵器用に転用するためというのが、米欧などの結論だ。ロシアが提案したロシア領内でのウラン濃縮を実施すれば、イランは、精製した核燃料棒を受け取って使用、使用済み燃料棒をすべてロシアに返送するという作業の繰り返しになる。これでは、核兵器への転用は不可能となる。そこで、イランは国内でウランを濃縮して、核兵器転用の抜け道を残そうとしていると見られるのだ。


・核抑止力で米の攻撃をかわすのがねらい

 イランが核兵器開発に固執するのは、米の圧力に対抗するためである。イランはパーレビ国王の時代、米の強力な同盟国だったが、79年ホメイニ革命でイスラム主義体制が成立すると、関係は一変。同師支持の学生団体が米大使館員52人を人質にして444日間、抗争を展開。ホメイニ師は米を「大悪魔」と呼んで、関係は完全に断絶した。それ以来、イランにとって、米はパーレビ時代の旧体制復活を画策する不倶戴天の敵、何時攻撃してきても可笑しくない存在になった。

 ホメイニ師を継いだ現在の最高指導者ハメネイ師は9日、各界の指導者を集めた会議で演説、「今回の事態は、米が過去27年間にわたって続けてきた敵対行為の延長上にある」と述べて、真の敵は米と強調。「圧力に屈してはならない」と訓示した。イランは、英仏独のEU3国とロシアを相手に核交渉を続けているが、真の相手は、交渉の背後にいる米国というわけだ。核兵器は、その真の敵、米の圧力をかわす武器として、イランが過去20年間にわたって開発の機会を窺ってきた。

 5日のニューヨーク・タイムズによれば、米は、このイランの動きを阻止するため過去2回にわったて介入した。1回目は95年、イランはロシアからウラン濃縮用の遠心分離機を製造プラントごと購入しようとした。察知した米クリントン政権がロシア政府と交渉、未然に防いだ。2回目は97年、イランが中国に接近、精錬したウラン鉱石を六フッ化ウランに転換する作業への技術協力を求めた時。これも、クリントン政権が中国を説得して阻止した。13日からの安保理討議は、米とイランが核開発をめぐって衝突する3回目ということになる。


・危機感はあっても、国連の動きは慎重

 英紙ガーディアンによれば、英外務省は「イランが核兵器を完成するには、5−6年かかるが、製造技術のノウハウは06年中に獲得できる」と見ている。イランが核兵器を持てば、中東の勢力地図は大きく変化する。米のライス国務長官も9日の上院歳出委員会で、「イランはテロの中央銀行と同じで、核兵器を持てば、一カ国が我々に与える脅威としては最大のものになる」との危機感を表明した。ブッシュ政権としては、イランの動きが、イスラエルやイラクなど中東全域に与える影響を無視できないのだ。

 アフマディネジャド大統領は05年10月、「イスラム世界の覚醒と新たな波によって、イスラエルを中東の地図から消す」と主張。アラブ諸国が米の説得を受けて進めてきたイスラエルとの共存路線を牽制した。同時に、イランは最近、イラクのシーア派支援のため、革命防衛隊を派遣したと見られるほか、パレスチナのハマスには、財政支援を約束。中東強硬派を結集する動きを見せる。イランの核兵器保有は、この動きに重みが増すのは明らか。また万一、米がイランを攻撃すれば、イスラエルが無傷で済まなくなるだろう。

 国連安保理は13日からイラン問題を取り上げるが、米欧が危機感をつのらせるものの、中ロは慎重。当面、議長声明を出し、イランにIAEAの査察に協力するよう求め、様子を見ることになりそうだ。イランの核交渉責任者ラリジャニ最高安全保障委員会事務局長は5日、「イランにとって状況が悪化すれば、抵抗の手段として石油を武器にする」と語った。安保理が経済制裁などの実力行使を決めれば、石油戦略を発動するとの脅迫である。各国とも当面この発言を無視できない。だが、それが限界になった時、本当の危機が来ると見なければならない。


掲載、引用の場合はこちらからご連絡下さい。


持田直武 国際ニュース分析・メインページへ

Copyright (C) 2006 Naotake MOCHIDA, All rights reserved.