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米大統領選挙 予備選挙の焦点
持田直武 国際ニュース分析

2007年12月9日 持田直武

次期大統領選挙の予備選挙と党員集会が1月3日から始まる。焦点は3日のアイオワ州党員集会と8日のニューハンプシャー州予備選挙の2つ。この2州で勝てば党候補の指名に王手をかけたも同然といわれる。それを前にアイオワ州では、民主党はオバマ上院議員、共和党はハッカビー前アーカンソー州知事が浮上している。


・オバマ候補が浮上、クリントン候補は後退

 党員集会と予備選挙の日程は今回大幅に繰り上がった。緒戦のアイオワ州党員集会は前回より16日繰り上がって1月3日。序盤戦の鍵となるニューハンプシャー州予備選挙が1月8日。2月5日には、カリフォルニア州やニューヨーク州など20余州の党員集会と予備選挙が集中する。この結果、選挙は短期決戦となり、アイオワ州とニューハンプシャー州で勝った候補が一気に弾みを付け、2月早々には党の指名獲得に必要な過半数の代議員を確保するとみられる。

 全国規模では、民主党はクリントン上院議員、共和党はジュリアーニ前ニューヨーク市長が支持率トップの座を維持している。しかし、緒戦のアイオワ州では、民主党はオバマ上院議員、共和党はハッカビー前アーカンソー州知事が急浮上。民主、共和両党とも情勢は混沌としてきた。ストラテジック・ビジョン社の世論調査によれば、アイオワ州に於ける民主党候補上位3人の支持率の変遷は次のようなる。

  「調査日」 10月14日 11月12日 11月25日 12月2日
  オバマ    23%    27%    29%    33%
  エドワーズ  20%    20%    23%    25%
  クリントン  28%    29%    29%    24%

 クリントン上院議員は11月に入って支持率が頭打ちとなり、12月2日の調査ではトップの座をオバマ上院議員に譲り、3位に転落した。アイオワ州の有力紙デモイン・レジスターは、この理由として、同州の民主党女性党員がクリントン離れしたことを挙げている。10月には、民主党女性党員の36%がクリントン議員を支持したが、12月に入って26%に減少した。代わって、オバマ議員を支持する女性党員が21%から31%に増えた。

 同紙はこの背景に、クリントン議員の対イラン強硬姿勢があると分析。その例として、オバマ議員に支持替えした女子大生が「イランと戦争するのは怖いから」と支持替えの理由を説明したと報じた。クリントン議員は、イランの核開発計画に対し一貫して強硬姿勢を取り、議会が9月イラン革命防衛隊をテロ組織に指定するようブッシュ政権に要求した時にも賛成した。同議員はイラク戦争の開戦決議にも賛成したが、民主党の候補者討論会では、この強硬姿勢に批判が集中した。


・共和党は保守派ハッカビー候補が急浮上

 民主党ではオバマ上院議員が浮上しているのに対し、共和党は、ハッカビー前アーカンソー州知事が支持を伸ばしている。ストラテジック・ビジョン社がアイオワ州の共和党員を対象に調査した結果によれば、共和党候補上位5人の支持率の変遷は次のようになる。

  「調査日」  10月14日 11月12日 11月25日 12月2日
  ハッカビー   12%    19%    24%    27%
  ロムニー    28%    30%    26%    24%
  トムプソン   10%    11%    10%    14%
  ジュリアーニ  13%    12%    14%    13%   
  マケイン     5%     7%     5%     6%
	

 急浮上したハッカビー前アーカンソー州知事は夏まで支持率が一桁でほとんど注目されなかった。同候補はバプチスト派の牧師で52歳、知事時代にダイエットをして体重を50キロ余り減量、その体験を綴った本「ナイフとフォークで墓穴を掘るのはやめよう」がベストセラーになった。主張は共和党保守派の信条に忠実で、妊娠中絶反対、同性結婚反対、銃規制反対、それに加え、テロとの戦いやイラク戦争でも強硬な主張を展開している。

 最近になって、キリスト教福音派がこのハッカビー候補の主張に共鳴、急速に支持が拡大した。ラスムッセン世論調査所によれば、アイオワ州では、同派の共和党支持者の48%がハッカビー候補支持にまわったという。同派は共和党保守派の中核としてブッシュ大統領の当選にも一役買ったが、今回の選挙では、支持率上位のジュリアーニ候補に不満で活動が鈍っていた。今後、同派の動き次第で、ハッカビー候補の支持が全国に拡大する可能性も出てきた。


・アイオワ州がクリントン、オバマ対決の天王山

 APによれば、共和党候補マケイン上院議員の選挙参謀マッキノン氏は「現在の状況 では、序盤の2州が正念場」と次のように予測している。「民主党は、アイオワ州で勝った候補が党候補の指名を獲得する」。一方、「共和党はニューハンプシャー州で勝った 候補が指名を獲得する」というのだ。ラスムッセン世論調査所によれば、ニューハンプ シャー州に於ける民主党上位候補3人の支持率の変遷は次のようになっている。

  「調査日」 9月16日 10月23日 11月5日 11月29日
クリントン  40%   38%    34%   33%
オバマ    17%   22%    24%   26%
エドワーズ  14%   14%    15%   15%

 クリントン議員は9月の高い支持率が次第にしぼみ、11月には追い上げてきたオバマ議員に7%差まで迫られた。クリントン議員がこのオバマ議員を止めるためには、緒戦のアイオワ州党員集会で勝つしかない。逆に、オバマ議員が緒戦のアイオワ州で勝てば、その勢いでニューハンプシャー州でも勝つに違いない。いずれにしても、民主党の場合、アイオワ州で勝った候補が有利な立場に立ち、2月早々には党候補の指名に必要な代議員を獲得する可能性がある。


・ハッカビー候補が勝つ条件

 ラスムッセン世論調査所によれば、ニューハンプシャー州に於ける共和党上位候補5 人の支持率の変遷は次のようになる。

  「調査日」  8月9日 9月16日 10月23日 11月29日
  ロムニー    32%  25%   28%    34%
  ジュリアーニ  20%  22%   19%    15%
  マケイン    11%  12%   16%    15%
  ハッカビー    3%   4%   10%    14%
  トムプソン   11%  19%    6%     3%

 ニューハンプシャー州は序盤戦の山場だけに毎回、同州に的を絞って運動する候補がいる。支持率1位のロムニー候補もその1人。同候補は米国では少数派のモルモン教徒で、同州で勝ってもその後の運動には限界がある。また、2位のジュリアーニ前ニューヨーク市長は序盤戦をスキップ、1月19日のサウスカロライナ州予備選以降に重点を置いている。しかし、ハッカビー候補の急浮上という情勢変化を考えると、これが良かったのか、再考を迫られそうだ。

 ハッカビー候補が緒戦のアイオワ州党員集会で勝つのはほぼ間違いない。ニューズウイークの最新の調査でも、アイオワ州で同候補は39%対17%の大差で2位のロムニー候補を引き離した。問題はこの勢いを維持してアイオワ州に続いて、次のニューハンプシャー予備選でも勝てるかどうかだ。それには、共和党保守派の中核を形成するキリスト教福音派が支援態勢を組むかどうかにかかってくる。それが実現すれば、ハッカビー候補が共和党候補の指名を獲得することになるだろう。


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