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米朝金融制裁協議を読む
持田直武 国際ニュース分析

2007年2月4日 持田直武

6カ国協議が2月8日から始まる。その成否は、依然、金融制裁問題の成り行き如何にかかっている。1月30日から行われた同問題をめぐる米朝協議について、米側は「前向き」と受け取れる評価をした。だが、北朝鮮政府に近い筋は「米は証拠を示せなかった」と非難、「米が問題を解決しなければ、6カ国協議の場で核実験を予告せざるを得なくなる」と主張した。楽観するのはまだ早いようだ。


・金融制裁問題の対立は解けたのか?

 6カ国協議の米代表ヒル国務次官補は2月1日の記者会見で、次回の6カ国協議が「進展する根拠はある」と期待を表明した。しかし、同次官補は「去年12月前回の6カ国協議でも、同じ期待をしたが、実現しなかった」とも語り、楽観はしていないことを示唆した。同次官補によれば、米の当面の目標は、北朝鮮の核兵器放棄を決めた05年9月の共同声明実施のため、最初の手順を決めることだ。しかし、前回の6カ国協議では、北朝鮮が金融制裁問題の解決まで核問題の話合いに応じないと主張、協議は進展しなかった。

 次回の6カ国協議も、金融制裁問題が鍵になるのは間違いない。同問題についての米朝2回目の協議は1月30日から2日間開かれ、米代表のグレーザー財務次官補代理は「協議は生産的だった」と説明した。そして、同次官補はバンコ・デルタ・アジア銀行が北朝鮮のマネーロンダリングなどの違法行為に使われたという、米が抱いていた疑念が今回の協議で証明できたと主張。「今後、さらに作業を進め、何らなの解決策を試みる状況に達したと思う」と前向きの評価をした。

 これに対し、北朝鮮政府に近い筋は協議が終わった31日、ロイター通信に対し、米は「違法行為の証拠を示せなかった」と主張。「違法行為は証明できた」とする米のグレーザー次官補代理の発言に反論した。そして、この筋は「米が問題を決着させなければ、北朝鮮は6カ国協議の場で、次の核実験を予告せざるをえなくなる」と主張した。北朝鮮政府代表団は公式な発言をしないまま帰国したが、この北朝鮮政府に近い筋の発言が同政府の立場とすれば、米朝の対立は基本的な点でまったく解けていないことになる。


・ベルリン協議は何を「合意した」のか?

 停滞中の6ヶ国協議が変化するとの期待感が出たのは、1月19日の朝鮮中央通信の報道がきっかけだ。北朝鮮外務省の報道官がベルリンで開かれた米朝協議について「一定の合意に達した」と語ったからだ。ベルリンでは、ヒル国務次官補と北朝鮮の金桂寛外務次官が17日から3日間協議した。ブッシュ政権としては初めての米朝直接対話である。北朝鮮外務省報道官は「協議は誠実、かつ前向きに行われた。我々は複雑な核問題解決のため米朝が直接対話を行ったことに留意する」と述べ、直接対話の意義を強調した。しかし、合意」の内容については明らかにしなかった。

 米側も「合意」について、内容はもちろん、合意したかどうかの確認もしていない。ヒル国務次官補はベルリンでの協議のあと、20日に羽田空港に到着して記者団に囲まれたが、「合意」については「北朝鮮が何について言っているのか分らない」と述べた。同次官補は翌日、外務省を訪れて記者団に取り囲まれるが、「合意」については「協議は有益だったと信じている。北朝鮮がそれを高く評価してくれたことを嬉しく思っている」と語ったが、「合意」については言及しなかった。

 一方、北朝鮮の金桂寛外務次官はベルリン協議のあと21日モスクワに到着。韓国の朝鮮日報(電子版)によれば、同次官は空港で同紙記者の質問に答え、「会談の成果の中には金融制裁の問題も含まれている」と語った。同次官はまた「それは彼ら(米国)がいつも避けて通ろうとする問題なので、話合いをやめようと思ったが、やはり避けて通ることはできない、という点で合意したものだ。その点を我々は評価している」と語ったという。同次官も「合意」の内容には触れていないが、朝鮮日報は金融制裁問題で米側の譲歩を引き出したものと解釈した。


・金融制裁の早期解除はあるか?

 米朝が金融制裁問題で何らかの「合意」をした場合、早期解除が焦点になる。これに関連して、米財務省のキミット長官代理は1月27日、ダボス会議の際の記者会見で「制裁の技術的面で理解が進んでいる」と語った。同長官代理は続けて、「制裁の目的は違法行為を摘発して中止させ、是正し、償わせることだ」と語り、現在はこれらの技術面で理解が進んでいると説明した。金融制裁問題協議はこの技術面の詰めで、制裁の解除を扱っているのではないというのだ。

 制裁は米財務省がバンコ・デルタ・アジア銀行をマネーロンダリングの主要懸念先に指定し、米銀行に取引の自粛を呼びかけた米国内法の部分と、マカオ政府が同銀行の北朝鮮関連口座を凍結した部分の2つからなっている。制裁の解除には、米政府がこの指定から同銀行をはずし、マカオ政府も口座凍結の措置を解除することが必要だ。早期解除には、米が現在進めている違法行為の特定などの技術的面の調査に北朝鮮がどれだけ協力するかも影響するだろう。

 これに対し、北朝鮮が金融制裁協議でどんな主張をしたのか、詳細は分らない。米側は協議について前向きな評価をするが、北朝鮮からは公式な発言はない。むしろ、上記のように北朝鮮政府に近い筋は米側の対応に不満で、核実験の再開を示唆したという。この筋の発言が北朝鮮政府の立場を代表しているとすれば、早期の問題解決はありえないことになる。朝鮮中央通信が伝えた北朝鮮外務省報道官の「一定の合意に達した」との発表は何だったのか、ということになりかねない。


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