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米大統領選挙 共和党のもたつき
持田直武 国際ニュース分析

2007年4月15日 持田直武

共和党保守派が候補選定でもたついている。保守派が理想とする保守本流候補がいないのだ。党候補指名争いの一番手ジュリアーニ前ニューヨーク市長は妊娠中絶支持、同性愛カップル支持、銃規制強化も支持する、共和党には異色の存在。二番手のマケイン上院議員はブッシュ大統領にも楯突く一匹狼、イラク政策では最強硬派だが、地球温暖化では左寄りと幅が大きすぎる。保守正統派には変人としか映らない。


・保守派が嫌う前市長のリベラル度

 大統領選挙の候補者は現在共和党10人、民主党8人。トップを走るのは、共和党がジュリアーニ前ニューヨーク市長、民主党はクリントン上院議員である。ロサンゼルス・タイムズ紙の最新の世論調査によれば、イラク政策の不評を反映し、民主党支持が49%に増加、共和党支持は39%に減少した。民主党候補が有利なはずだが、同紙の調査では、ジュリアーニ前市長がクリントン議員を48対42でリード。タイム、ニューズウイークの調査でも48対43、47対46でジュリアーニ前市長がリードしている。前市長は共和党には救いの神である。

 ところが、共和党内では保守派がジュリアーニ前市長には不満で、支持が一本化しない。前市長はニューヨークという米国でも超リベラルな州が地盤。そのためもあって、政策は共和党員とは思えない程リベラルだ。共和党員ならほとんどが反対する妊娠中絶の問題では、前市長は女性が中絶をするかどうか判断するべきだと主張する。また、同性愛カップルの相続の権利、社会保険受給の権利などについても男女のカップル同様に認めるよう提案。ブッシュ大統領は憲法を改正して、結婚を男女の結びつきに限定することを目指しているが、前市長はこれに反対である。

 ジュリアーニ前市長のリベラル政策はこれだけではない。共和党保守派は、国民が銃を自由に保持する権利を主張し、規制に反対だが、前市長は銃保持には運転免許と同様の厳しい規制が必要と主張する。ニューヨーク市長として、銃保持を規制し、犯罪を大幅に減らした実績もある。そのおかげで、ニューヨークに来た観光客が地下鉄に安心して乗れるようになった。この共和党市長を一躍有名にしたのが、9・11同時多発テロ事件。市長として事件の処理に敏腕を振るって全米の注目を浴び、大統領の座をねらう位置に就いたが、リベラルすぎて保守派に嫌われた。


・保守派はマケイン上院議員にも不満

 共和党候補の二番手はマケイン上院議員だが、保守派は同議員にも不満である。ジュリアーニ前市長は超リベラルで保守派に嫌われるが、同上院議員は一匹狼で組織に馴染まず、保守派とそりが合わない。イラク政策では、開戦前から大規模な兵力の投入を主張してブッシュ大統領と対立、現在もまだ兵力は不十分と主張している。地球温暖化や減税問題など、共和党が足並みを揃えて取り組む問題についても、同議員だけが同調しないことがしばしばある。もう一つの問題は、同議員が現在70歳、当選すれば史上最高齢の大統領になることも不利だ。

 マケイン上院議員はベトナム戦争の英雄として名を馳せた。1967年、海軍のパイロットとして北ベトナム攻撃に参加。撃墜されて捕虜となった。当時、父親は海軍提督として、ベトナム戦線も指揮下に置く米太平洋軍の総司令官だった。北ベトナム政府はこれを知って取引に使おうとする。若いマケインに反省文を書かせ、米側に送り返そうとした。しかし、マケインはこれを拒否。それから5年半、停戦が成立して捕虜全員が釈放されるまでハノイの収容所で過ごした。この妥協しない強い姿勢がマケインを英雄にしたが、今はこれが保守派を遠ざける原因になっている。

 上記のロサンゼルス・タイムズ紙によれば、共和党保守派が理想とする政治家はレーガン元大統領だという。同紙が4月初旬、共和党員だけを対象に実施した調査によれば、大統領候補として支持する政治家は1位ジュリアーニ前市長で29%、2位がトンプソン上院議員15%、3位マケイン上院議員で12%だった。2位になったトンプソン上院議員はレーガン元大統領と同じ保守派で俳優出身。しかし、大統領選挙に立候補していない。共和党支持者が元大統領に似ているが、立候補もしていない上院議員に支持を託すところに共和党のもたつきが現れている。


・初めての女性大統領候補か

 共和党は保守派が団結すれば選挙に強いが、分裂状態で勝ったことはない。1976年選挙では、現職のフォード大統領に対し、レーガン派が対立。知名度に劣るカーター大統領に勝利をさらわれた。92年選挙でブッシュ(父)大統領がクリントンに敗れたのも、実業家ペロー氏が党外から立候補、共和党の保守票を分裂させたためだ。今回も、ジュリアーニ前市長が高い支持率を維持し、保守派が背を向ける状態が続けば、民主党が漁夫の利を占めることになりかねない。共和党を尻目に、民主党はむしろ団結に向かっているからだ。

 ロサンゼルス・タイムズによれば、民主党の支持率1位は、クリントン議員で33%、2位オバマ議員23%、3位エドワーズ前議員で14%。選挙資金も、1位クリントン2,600万ドル、2位オバマ2,500万ドル、3位エドワーズ1,400万ドルと順位は同じ。党の候補を決める党員集会と予備選挙は1月14日のアイオワ州党員集会を皮切りに開始。2月5日には、ニューヨーク州など20州あまりの予備選挙と党員集会が集中する。早ければ、この日にニューヨークを地盤とし、各州を飛び回る資金力のあるクリントン議員が民主党候補指名を確実にする可能性もある。

 メディアでは、クリントン上院議員が大統領候補になった場合、副大統領にオバマ議員をあてる案も取り沙汰されている。実現すれば、米国として初めての女性大統領候補、初めてのアフリカ系米国人の副大統領候補という組み合わせになる。米国は平等を国是とする国だが、政界で活躍する女性は意外に少ない。アフリカ系大統領を容認する意見も、世論調査では過半数になるが、有権者が実際に選択するかどうか予断は許さない。こうした歴史的現実を前にして、もたつている共和党が今後どう動くかにも関心を払わずにはいられない。


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