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北朝鮮核施設の稼動停止の条件
持田直武 国際ニュース分析

2007年7月8日 持田直武

北朝鮮が核施設の稼動停止に前向きな動きを見せている。北朝鮮外務省は韓国から約束の重油が到着すると同時に稼動を停止すると約束した。だが、楽観は禁物だ。日米などが6カ国協議の合意を実施しない場合、再稼動することも示唆している。核問題解決への道程は平坦ではない。


・金正日総書記発言の含み

 6カ国協議で合意した初期段階の措置は、前向きに動き出したかに見える。北朝鮮がIAEA(国際原子力機関)代表団を招いたのに対し、韓国は合意で約束した重油の第一次積み出し分6,200トンを12日に北朝鮮向けに発送する。これに対し、北朝鮮外務省報道官は6日、「この重油が届いた時点で、核施設の稼動停止を実施する。すでに関係各所に伝えた」と述べた。韓国側の見通しでは、重油は北朝鮮の先峰港に14日頃到着するという。北朝鮮がこれに合わせて核施設の稼動停止をすれば、6カ国協議の合意実現に向けた大きな成果となる。

 だが、それで終わりではない。北朝鮮外務省報道官は「合意は6カ国協議のすべての参加国が実施するべきだ。政治、経済的補償措置が実行されず、信頼が崩れた場合、核活動の再開は合法となる」と主張。核施設を再稼動する場合もあるとの立場を明らかにした。金正日総書記も3日中国の楊潔チ外相と会談した際、「朝鮮半島に緊張緩和の兆候がある」と述べたあと、「すべての関係国が初期段階の処置を実施するべきだ」と発言した。合意実施に韓国が積極的なのに較べ、日本や米国の対応に不満があることを示唆したものと見られている。


・北朝鮮のねらいは米の敵視政策の転換

 6カ国協議で合意した初期段階の措置は、核施設の稼動停止に対し、重油を提供するほか、日朝と米朝の国交正常化のための交渉開始や、そのための作業部会の設置なども決めている。そして、日朝交渉で拉致問題と過去の清算問題を解決すること。米朝交渉では北朝鮮をテロ支援国の指定から解除する作業を始めることも決めた。しかし、両交渉とも、これまで交渉は行なったがさしたる進展はなく、作業部会も活動していない。北朝鮮は日米に対して、これら各項目の実施を要求する手段として、停止した核施設の稼動再開を使う積もりのようだ。

 これに関連して、北朝鮮の韓成烈前国連大使(現北朝鮮軍縮平和研究所所長代理)が4日、ロンドンで講演したあと記者会見した。韓国の聨合ニュースによれば、同大使はその中で「米国の北朝鮮政策は対応が遅れているが、変化する方向に進んでいる」と評価した。そして「核問題は米の北朝鮮に対する敵視政策に原因がある」と主張。朝鮮半島の非核化は「在韓米軍の撤退や米朝間の信頼醸成措置がなければ、実現しない」と主張した。朝鮮半島の非核化は6カ国協議の目標だが、北朝鮮はそれを実現するには、米の敵視政策転換が必要だという、従来からの主張を変えていない。


・米の真意を測りかねて再稼動の可能性を残す

 北朝鮮は核施設の稼動停止など合意の実施に動く一方で、日本を排除する姿勢を強めている。7月4日のKCNA(朝鮮中央通信)は「日本は6カ国協議を混乱させる」と題する論評を掲載。「日本は同協議の合意の実行を拒否し、進展を望んでいない。日本の参加は混乱を起こすだけだ」と主張した。日本が重油の分担金支出を拒否していることや、日朝国交正常化交渉が進展しないことに対する不満が背景にある。責任は、北朝鮮が拉致問題で誠実な対応をしないことにある。しかし、合意の実施がさらに進めば、日本も新たな対応が必要になる時がくるだろう。

 北朝鮮は最近の米の動きを評価しているが、真意を測りかねていることも間違いないようだ。労働党の機関紙労働新聞は7月4日、米軍が最近F-16s戦闘爆撃機をイタリアの基地から韓国に移動したことを取り上げ、「このような米軍の動きは対話で問題を解決する立場と相容れない。米は戦争準備の時間を稼ぐために対話を使っているのではないか」との疑問を呈した。核施設の稼動停止に踏み切ることを決めたが、万一の場合には再稼動するという立場は、そうした疑問が背景になっているのだろう。再稼動する場合、その理由として、目の敵の日本を挙げることも十分考えられる。


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