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韓国大統領選挙の争点
持田直武 国際ニュース分析

2007年9月2日 持田直武

大統領選挙は12月19日、争点の1つは北朝鮮との協力問題である。盧武鉉大統領は10月の南北首脳会談で大型経済協力に合意する予定で、与党系候補が当選すれば合意の継承は確実。だが、現在の最有力候補は野党ハンナラ党の李明博候補。同候補は協力には北朝鮮の核放棄が条件と主張して同大統領と対立。この対立に、北朝鮮が大統領支持の立場で参戦、野党を標的に非難、攻撃を繰り返している。


・野党ハンナラ党候補が圧倒的リード

 大統領選挙は与党系の大統合民主新党と野党ハンナラ党の対決になる。候補者は、ハンナラ党が8月の予備選挙で李明博前ソウル市長を選出。一方、大統合民主党は10月14日に予備選挙を予定、その候補として孫鶴圭前京畿道知事、鄭東泳元統一相など9人を選出した。8月30日の中央日報(電子版)によれば、支持率はハンナラ党の李明博候補が53.3%でリード。2位は大統合民主新党の孫鶴圭候補10.8%、3位は鄭東泳候補5.0%。現在のところ野党候補が圧倒的優位に立っている。

 李明博候補は1941年大阪生まれ、戦後帰国して高麗大学を卒業、現代グループの中核企業「現代建設」に入社。同グループの総帥故鄭周永会長にその才能を見込まれ、36歳の若さで社長に就任した。その後も同グループ系企業で経営者として活躍、70年代からの韓国経済躍進の主役の1人だった。92年から国会議員に転身、02年ソウル市長に当選して都市改造に手腕を発揮、下水道同然だった都市の川「清渓川」を清流の川に復元して評価を高めた。

 一方、大統合民主新党で支持率トップの孫鶴圭候補は59歳。京畿高、ソウル大、同大政治学教授のエリート・コースを歩んだ秀才。93年から政界に転じ、新韓国党(ハンナラ党の前身)の国会議員、金泳三政権の保健福祉相、京畿道知事などを歴任した。そして、ハンナラ党で大統領選挙に出馬する構えを見せたが、支持率は李明博前ソウル市長や朴槿恵前ハンナラ党代表に大きく離されて3位。今年3月になって、ハンナラ党を離党、大統合民主新党に移った。


・南北首脳会談で与党系勢力の起死回生ねらう

 大統合民主新党は、盧武鉉大統領の与党ヨルリン・ウリ党の離党議員が中心になって結成した。ヨルリン・ウリ党は一時、過半数を超える153議席を誇ったが、盧武鉉大統領が内政、外交両面で国民の信頼を失って低迷。大統領選挙を控え、危機感を抱いた反盧武鉉派議員が看板を架け替える形で、大統合民主新党を結成。ハンナラ党を離党した孫鶴圭前京畿道知事も入党した。8月には、ウリ党残留議員も合同、国会の議席も143に達し、ハンナラ党の129議席を超える第1党になった。

 盧武鉉大統領は新党の党員ではないが、同党が盧武鉉政権の政策を継承することを期待している。10月2日に開催する第2回南北首脳会談はそれを見込んで計画したものだ。同大統領の任期は来年2月までで残りわずかだが、韓国国民の南北首脳会談に寄せる期待は高く、中央日報によれば、今回の会談も80.5%の支持がある。首脳会談が成功すれば、大統領選挙も新党に有利に展開することは確実。首脳会談はいわば同大統領自身と与党系新党の起死回生策でもある。

 北朝鮮がこの状況に深くコミットしていることも間違いない。韓国でハンナラ党が政権を握れば、金大中、盧武鉉と過去10年間続いた韓国の太陽政策が途切れると、北朝鮮は疑っている。これを阻止することが、北朝鮮にとって当面の最重要課題である。北朝鮮が、首脳会談に合意したのも、また、最高人民会議常任委員会の金永南委員長がハンナラ党を離党して訪朝した孫鶴圭候補と異例の会談をしたのも、ねらいの1つはハンナラ党の政権掌握阻止だった。


・北朝鮮はハンナラ党を標的に非難、攻撃

 盧武鉉大統領とハンナラ党の違いは、経済協力が先か、非核化が先かという点に絞られる。盧武鉉大統領は14日の閣議で、「経済共同体が重要」と述べ、核問題よりも経済協力を優先させる考えを示した。経済面の相互依存が安全保障につながるとの主張である。10月の首脳会談で、同大統領はこの考えに基づいて北朝鮮に対し、経済共同体を視野に入れた大型で長期的な経済協力の提案をするという。北朝鮮がこの提案を受け入れれば、韓国側は次期政権がこれを実施することを想定している。

 与党系の大合同民主新党はこの提案を支持している。同党で支持率1位の孫鶴圭候補は8月9日の立候補宣言で「太陽政策を創造的に発展させる」と主張、盧武鉉路線を受け継ぐ立場を明確にした。これに対し、ハンナラ党の李明博候補は29日、米国のバーシュボウ駐韓大使と会談した際、「朝鮮半島が非核化して初めて経済協力も実現する」と非核化優先を強調した。両者の主張は正反対だが、世論調査では、上記のように李明博候補が支持率53.3%で、孫鶴圭候補の10.8%を大きくリード、現状ではハンナラ党が政権を握る可能性が高い。

 この状況に神経を尖らせているのが、北朝鮮だ。今年初めの新聞共同社説では、「保守反動勢力ハンナラ党を葬れ」と主張。その後も「ハンナラ党が政権を握れば朝鮮半島に核戦争の危機が来る」、最近も「ハンナラ党は統一に反対する逆賊」、「統一の花園を汚す毒草」などと非難の調子を上げている。北朝鮮が韓国の選挙に影響を与えようとしたことは過去にもあったが、今回のように野党を標的にして激しい非難、攻撃を浴びせるのは初めてである。良い悪いは別にして、それだけ南北の関係が緊密になったということかもしれない。


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