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米大統領選挙 オクトーバー・サプライズ第一波
持田直武 国際ニュース分析

2008年10月4日 持田直武

金融危機が共和党マケイン候補の足場を崩している。金融安定化法は成立したが、銀行の貸し渋りが続き、カリフォルニア州政府が70億ドルの資金援助を連邦財務省に要請するなど危機は去らない。民主党は、危機はブッシュ政権8年の自由放任政策が原因と批判。マケイン候補もこの批判の矛先を避けることはできない。


・オクトーバー・サプライズの第一波、二派、三派も

 投票日前の10月、選挙結果に影響する異変が起きることをオクトーバー・サプライズと言うが、今年はこのサプライズが9月から始まった。しかも、これは第一波。11月4日の投票日までに第二波、いや第三波さえ来るかもしれない。金融危機はそんな予感さえ持たせる不気味な広がりを見せている。2日のニューヨーク・タイムズは「われ等に希望を」という社説を掲載。サブプライム・ローンで住宅を購入した600万人余りが今年から来年にかけて破産すると警告した。

 危機救済のための金融安定化法は難産の末、3日下院を通過。ブッシュ大統領が署名して発効した。しかし、同法は危機の発端となったサブプライム・ローンの利用者を救済の対象にしていない。このため、上記ニューヨーク・タイムズによれば、今後同ローン利用者の約600万人が返済不能になる恐れがある。また、律儀に返済を続けている利用者でも、住宅価格が下落して、銀行からの借入額が制限される結果、さらに数百万人が住宅を手放さざるを得なくなるという。

 危機の影響はこれだけではない。銀行が資金不足で、企業に対する貸し渋りが広がっている。カリフォルニア州政府も銀行借り入れが出来なくなり、シュワルツエネガー知事が2日ポールソン財務長官に対し、連邦資金から70億ドルの緊急支援を要請した。同州は人口3,700万人、州予算1,430億ドルだが、手持ち資金は10月一杯で底を衝くという。州が銀行の貸し渋りを理由に連邦資金を要請するのは初めてだが、資金繰りの苦しい州は多く、連邦資金の要請は増えるとの見方もある。


・共和党マケイン候補には苦しい展開

 今回の金融危機が100年に一度あるかないかの大事件であることは間違いない。金融安定化法もそれに対応して7,000億ドルという1929年の大恐慌以来の大規模な公的資金を投入する。当然、危機の発生を阻めなかったブッシュ政権に対する責任追及も避けられない。ペロシ下院議長(民主党)は9月29日の下院本会議の演説で、この7,000億ドルは「ブッシュ政権が規律を無視し、監視機構を軽視して規制緩和を続けた自由放任主義の結果だ」と糾弾した。

 また、オバマ候補も10月1日上院の演説で「今は金融危機の火を消すことが先決だが、いずれ火付け役を罰する時が来る」と主張した。マケイン候補にとって状況は厳しい展開となった。同候補はかねてから一匹狼を自称、ブッシュ政権に距離を置く姿勢をとってきた。しかし、世論は必ずしもそう思っていない。CNNの9月22日の調査によれば、マケイン候補が当選すれば、「ブッシュ大統領の政策を引き継ぐ」と考えている有権者が57%に上った。

 確かに、マケイン候補はブッシュ大統領と同様、市場の自由を重視する政策を主張している。両者とも、政府が市場に介入することを嫌う。7,000億ドルの公的資金を投入する金融安定化法にも、両者は基本的には反対だ。共和党保守派には、この立場の議員が多い。しかし、ブッシュ大統領はポールソン財務長官に指示して7,000億ドルの金融安定化法案を作成した。危機拡大を防ぐため、やむなく市場に介入すると説明したが、共和党保守派の中には裏切られたとの思いが強い。


・マケイン不況の中心地ミシガン州から撤退

 マケイン候補は当初は金融安定化法案に反対する側かと思われた。同候補は政府の市場介入に反対、ウオール・ストリートの金融界指導者が高給を取ることにも強く反対している。ところが、そのウオール・ストリート出身の銀行家ポールソン財務長官が作成した7,000億ドルの公的資金投入を支持、ブッシュ政権の議会多数派工作にも加わった。共和党保守派内には、資金投入を決めたブッシュ大統領に加え、マケイン候補にも裏切られたとの思いが残ったのは間違いない。

 マケイン候補と共和党保守派の間の溝が深まった。同候補がペイリン・アラスカ州知事を副大統領候補に選択した時、保守派は諸手を挙げて支持した。同知事が妊娠中絶反対など保守派の信念の強固な支持者だからだ。しかし、最近はこの雰囲気も消えつつある。2日発表のワシントン・ポストの世論調査によれば、この変化を反映して有権者の10人中6人が同知事は副大統領として経験不足と考え、3人中1人は同知事と組むマケイン候補には投票しないと答えたという。

 この状況下の3日、マケイン候補はミシガン州での運動を諦め、同州から撤退すると発表した。同州で、共和党大統領候補は過去20年間勝ったことがなかった。同州は最近の不況に最も苦しむ米自動車産業の中心地。今回も、オバマ候補が圧倒的に有利で、マケイン候補は戦線縮小を余儀なくされた。オクトーバー・サプライズの第一波、金融危機がマケイン候補に与えた最初の賦課だ。第二波、第三派があるかどうか、わからないが、このままではオバマ候補が確実に有利である。


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