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米ビッグスリー存亡の危機
持田直武 国際ニュース分析

2008年11月23日 持田直武

金融危機が米自動車産業を直撃、ビッグスリー3社が経営危機に直面した。3社首脳は政府に緊急の資金援助を要請したが、ブッシュ政権は消極的。議会も四分五裂で、責任の押し付け合いが続く。3社の救済を約束したオバマ次期大統領の就任は1月20日。だが、それまで持ちこたえられるか疑問だという。


・政府の支援がなければ数週間で破産

 米自動車産業は20世紀米国社会の繁栄を支える巨大な柱だった。その中心がゼネラル・モーターズ(GM)、フォード、クライスラーのビッグスリー3社。その3社が今年は運転資金に窮し、破産の恐れがあるという。金融危機の影響で新車の販売台数が急落。GM車の場合、10月末の販売台数は前年同月比−45.4%。クライスラーは−34.9%。フォードは−29.2%。株価もGMの場合、11月下旬1株2ドル台と第二次世界大戦の最中と同じ水準まで落ち込んだ。

 3社はブッシュ政権に対して連邦資金による救済を要請。18、19の両日、3社首脳が米議会の公聴会で窮状を訴えた。それによれば、GMは今年通期のキャッシュバーン(持ち出し)が150億ドル、来年通期は約100億ドルとの予測だ。また、クライスラーは今年第3四半期までのキャッシュバーンが50億ドル、手持ち資金は61億ドルに減少した。両社とも、この状況が続けば、今後数週間で運転資金が枯渇、破産の恐れがあり、やや余裕があるのはフォードだけという。

 もし、ビッグスリーの1つでも破産すれば、その影響は計り知れない。3社の合計従業員は25万人、部品などを納入する系列社員73万人、販売網関係者も100万人を超える。他にも取引先の銀行、広告会社など関連企業もある。破産が失業を増加し、GDPも減少して、米経済だけでなく、世界経済にも大きな衝撃を与えることが確実となる。3社の首脳はこうした影響の大きさを強調、ブッシュ政権と議会に対して250億ドルの緊急つなぎ融資を要請した。


・ブッシュ政権と議会民主党が財源で対立

 だが、ブッシュ政権と議会の呼吸が合わない。議会民主党は救済法案をまとめて上院に提出したが、ブッシュ大統領と共和党指導部が反対。民主党側は20日、通過は無理と判断して採決を断念した。共和党が反対したのは、民主党の法案が250億ドルのつなぎ融資の財源として金融安定化法で決めた7,000億ドルの一部を転用するものだったからだ。ポールソン財務長官は18日議会で「金融安定化法は万能薬ではない」と述べ、同法に基づく資金は金融安定だけに使うべきだと主張した。

 議会内では、共和党と民主党の有志議員が共同で対応策をまとめる動きもあった。ビッグスリーが本拠地を置く中西部選出の議員が中心だった。財源には、低燃費車の開発促進を目的とする政府保証付き低利融資の資金250億ドルを転用するという案だった。同資金は成立して日が浅く、使われていなかった。ブッシュ政権もこの案に消極的ながら賛成した。しかし、民主党内の環境問題重視派が温暖化対策を無視する動きとして強硬に反対、結局議会に提案するまでに至らなかった。

 米国は27日がサンクスギビング・デーの休日。議会はそれに先立って22日に今会期は実質的に終了。来年1月からは、11月の選挙で選出された新議員を加え、新会期が始まる。民主党指導部は休会に入るにあたって、ビッグスリー3社に対し、12月2日までに各社の再建計画をまとめて提出するよう指示。その内容を見て必要と判断すれば、12月8日に特別議会を招集して救済策を検討すると決めた。本格的な救済策は新議会とオバマ新政権が取り組むことになる。


・オバマ次期大統領にも難題

 議会内には、ビッグスリーの重要性を無視できないとして救済を支持する意見は多い。同時に、競争力を失った産業を生き残らせる弊害を指摘する声もある。今回、ビッグスリー側の要求を受け入れて融資をしても、立ち直らず、また融資をする悪循環にならないかとの懸念が消えない。ビッグスリーが潰れても、日本のトヨタやホンダ、韓国の現代自動車など環境保護に優れ、価格競争力もある進出企業がビッグスリーなきあとの空白を満たすという主張もある。

 事実、テレビなど家電部門は1980年代、日本製品が米国製品に取って代わった例がある。テレビやビデオテープは自動車とともに米国が開発。60年代には、18もの家電各社がテレビ・セットを製作、世界に輸出していた。しかし、日本が70年代、安くて高性能なテレビ・セットを製作して輸出攻勢をかけた結果、米の家電各社は次々製造を中止。80年代には、テレビ・セットの制作会社はゼニス社1社だけになった。自動車産業も競争力を失えば、同じ道を歩むことは十分考えられる。

 共和党内には、ブッシュ大統領が金融安定化法を支持し、7,000億ドルもの救済資金を融資することに強い不満がある。融資は金融機関の競争力を削ぎ、海外勢に太刀打ちできなくなるとみるからだ。ブッシュ大統領がビッグスリー救済に消極的なのはこうした党内の批判を受けた結果だ。オバマ次期大統領は当選後、条件付きながらビッグスリー救済を宣言した。それでビッグスリーが立ち直ればよいが、テレビと同じ運命を辿らない保障はない。


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