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クリントン国務長官は適任か
持田直武 国際ニュース分析

2008年11月30日 持田直武

オバマ次期大統領がクリントン上院議員を国務長官に任命することになった。同議員は国際的な知名度と豊富な国際体験を持ち、国務長官として最適。政権入りは、選挙戦で2分した民主党の亀裂修復にもなるとの期待がある。だが、識者の間には、国務長官就任は間違いという見方がある。


・オバマ次期大統領が欲しいのは忠実な外交官

 ヒラリー・クリントン上院議員が秀でた能力の持ち主であることは疑いない。頭が切れるし、エネルギーもある。若いオバマ候補を相手に1年を超える選挙戦を戦い抜いたスタミナもある。加えて、クリントン政権時代のファーストレディとしての外交体験や上院議員としての政治経験もある。誰もが、彼女には国務長官の能力が十分あると認める。だが、ワシントン・ポストのコラムニスト、デビッド・ブローダー氏は、彼女を国務長官にするのは「間違いだ」と断言する。

 ブローダー氏はクリントン政権の8年間を記者として担当、ファーストレディとしてのヒラリー・クリントンも取材した。同氏は19日のワシントン・ポストに寄稿。「クリントン上院議員は国務長官の能力を十分持つ」と評価しながらも、「国務長官任命は間違い」と断言する。その理由として「オバマ次期大統領に必要な国務長官は、大統領の政策を忠実に実行する外交官が最適で、国際経験に富む教師ではない」と指摘。教師タイプのクリントン議員はミスキャストだという。

 オバマ次期大統領は選挙戦で、クリントン上院議員のイラク開戦支持の判断を集中的に批判した。次期大統領自身は開戦当時まだイリノイ州の州上院議員。しかし、イラク戦争は米国の利益にならないと判断して開戦に反対。大統領選挙戦では、それを武器にして当選した。オバマ次期大統領は、この判断は当時のワシントン政界の誰よりも正しかったと自信を持っているという。この自信は、クリントン上院議員が国務長官になった場合、大統領との間の壁になりかねないだろう。


・夫ビル・クリントンの影響力もマイナス要因

 クリントン上院議員の国務長官就任は中東諸国に懸念を生むことも間違いない。同上院議員はファーストレディ時代からイスラエルに接近、ニューヨーク選出の上院議員となってからはその度合いを深めた。大統領選挙戦でも、「米国はイスラエルと永遠に共にある」とか、「イランが核兵器でイスラエルを攻撃すれば、米国はイランを消滅させる」、「ハマスがテロを放棄するまで、米国は交渉するべきではない」などの強硬発言を繰り返し、アラブ諸国を刺激した。

 また、夫のビル・クリントン前大統領がアラブ諸国から膨大な献金を集めていることも事態を複雑にしている。献金は大統領記念図書館の建設とアフリカのエイズ撲滅など慈善事業のためで、すでに5億ドルを集めたと言われる。その献金者の中に、サウジ・アラビア、モロッコ、クウエート、アラブ首長国連邦などの政府要人の名もある。前大統領が外国政府要人から献金を受けること自体は問題ないが、その夫人が米外交の責任者となれば事は複雑になる。

 このため、クリントン前大統領は次期政権の引継ぎチームに対して、これら活動の縮小や一部中止を約束、献金者の名簿を提出した。しかし、それですべての問題が解決するとは言えない。前大統領はこれまでどおり外国を訪問して要人と会談することも、国際電話で会話することも自由にできる。もともと、外国政府の要人が献金したのは、前大統領をチャンネルにして米政府の動きを探るためだ。このチャンネルは、前大統領が募金活動を停止しても解体できないに違いない。


・オバマ次期大統領の部下として働けるか

 クリントン国務長官が誕生しても、オバマ政権の外交は当面集団指導体制になるとの見方が強い。オバマ次期大統領が安全保障担当の大統領補佐官にジョーンズ海兵隊大将を任命することが、それを裏付けている。同大将はNATO(北大西洋条約機構)軍司令官、イラク調査団団長、中東特使などを歴任、議会との折衝や国際経験も豊富。オバマ次期大統領は同大将がニクソン政権下のキッシンジャー大統領補佐官のような立場に立つことを期待し、そのための権限拡大も計画しているという。

 オバマ次期政権の外交通としては、上院外交委員長だったバイデン次期副大統領、留任することが確実なゲーツ国防長官がいる。これにクリントン国務長官とジョーンズ大統領補佐官が加わって対外政策推進にあたる。この中で、ジョーンズ補佐官がかつてのキッシンジャー補佐官のような立場に立つことは、クリントン国務長官にとって穏やかなことではない。ニクソン政権下では、キッシンジャー補佐官とロジャーズ国務長官の間で軋轢がしばしば表面化した例もある。

 クリントン上院議員は議員暦すでに8年。輝ける元大統領候補だが、議会では先輩議員が多く、今もジュニアー議員と呼ばれ、委員会の委員長にもなれない。この不満が重なり、国務長官への転進をはかったという見方もある。国務長官は大統領、副大統領に次ぎ政権内ナンバー3だが、大統領の命令で働く立場だ。選挙戦では、クリントン候補はオバマ候補を未熟と決め付けた。だが、入閣すれば、その未熟者の部下として働くことになる。国務長官就任は「間違い」だったと思わないか、懸念が残る。


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