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地球温暖化が突きつける課題
持田直武 国際ニュース分析

2008年1月27日 持田直武

人類の文明は石を削って石器を作ることから始まった。それはまた、自然を破壊する作業の開始でもあった。壮大な文明の背後で、自然破壊が続いた。このまま破壊を続け、人類は生き残れるのか。温暖化はその疑問を突きつけている。


・人間の私欲が自然の摂理を狂わす

 今年は京都議定書を実施する最初の年である。そのためもあって、地球温暖化に関連したニュースが次々に流れている。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)は昨年11月のレポートで「温暖化防止のため有効な対策を講じなければ、21世紀末の地球の平均気温は最悪の場合6.4度上昇する」と警告した。米スタンフォード大学のマーク・ジェイコブソン教授は「平均気温が1度上昇すると、ぜんそくや肺気腫などで年間2万人の死者が増える」と予測している。

 病気が増えるだけではない。気温の上昇で、北極海の氷が融けて海水面が50センチ余りも上昇、南太平洋の島国ツバルが水没。韓国でも、ソウル市の面積の1.4倍にあたる沿岸地域が水没。125万人が生活の場を失うという。また、気温の上昇と気候の変動で干ばつ、洪水などの被害が頻発するのも確実。上記IPCCのレポートは「このまま石油などの化石燃料を使い続けると、アジアでは21世紀半ば穀物の収穫が最大で3割減少、1億3,200万人が新たに飢餓に瀕する」と警告した。

 歴史的に見ると、気温は変動を繰り返した。氷河期に低く、間氷期に高い。恐竜の時代、二酸化炭素濃度は現在の数倍、気温は5度以上も高かった。しかし、これは自然の摂理に従った変動だ。だが、最近の変動は人間が引き起こしている。特に90年代後半から現在までの10年余り、グローバル化の波とともに温室効果ガスが急ピッチで増加した。ローマ法王は昨年のクリスマス・メッセージで「人間の私欲のための自然開発」を戒めたが、私欲が自然の摂理を狂わせかねないのだ。


・米は経済活動を優先、削減義務化に消極的

 97年の京都議定書はこの状況に取り組んだ最初の試みだった。同議定書は温室効果ガスの削減目標として、90年比でEU8%、米7%、日本6%などを義務付けた。しかし、削減が国内経済を圧迫することや、中国やインドが発展途上国として削減の対象外に置かれたことなど、不満が多かった。米はこの不満から01年に議定書から離脱。結局、議定書は米や中国、インドなど温室効果ガスを多量に排出する国が参加しないまま、今年から実施段階に入った。

 去年12月に開催された気象変動枠組み条約締約国会議は、この京都議定書の実施期間が5年後に切れたあとの対策を協議する会議だった。しかし、京都議定書で顕在化した各国間の溝は埋まらなかった。EUがすべての国別に削減義務を課すよう要求したのに対し、米は態度表明を保留。一方、中国やインドは温暖化を招いた責任の大半は先進国にあると主張、まず先進国が削減努力をするべきだと主張。結局、各国の意見がまとまらないまま終わった。

 米が削減義務に消極的なのは、削減が経済活動を妨げるとみるからだ。削減義務の負荷は国の主権行使の制約として警戒する意見もある。京都議定書締結の際も、当時の全権代表ゴア副大統領は会議終了後の記者会見で「議定書に調印しても、議会に批准を要請しない」と実施の意思がないことを明言した。ゴア氏は当時から環境保護派だったが、議会内には孤立主義的な雰囲気が強く、批准は無理とみたのだ。米が12月の会議で消極的だったのは、この状況が現在も変っていないことを示している。


・温暖化が人類に突きつける課題

 これに対し、EUが国別の義務付けに積極的なのは、域内の排出権取引市場に対する期待があるからだ。排出権取引は、京都議定書が温室効果ガス削減を補完するメカニズムとして導入。EUはこれに基づいて05年、域内の各企業に排出枠を設定。枠を越えた企業が、枠を越えない企業から余った排出権を買う市場を設置した。最近は、米はじめ世界各国の企業がこの市場に参加、昨年の市場規模は200億ユーロ(3兆2,000億円)を超えた。市場が生み出した温暖化を市場原理で押さえ込もうとする試みである。

 日本は京都議定書で12年度までに温室効果ガスの排出量を90年度比で6%削減する義務を負った。だが、排出量は06年度ですでに90年度比6.4%も上回り、削減義務の達成は難しい。このため、政府は海外から排出権を購入して埋め合わせる方針だが、そのためには1兆2,000億円が必要、財政難の折、その財源をどうするかも課題だ。EUと同じ様に企業に排出枠を設定、枠を越えた企業から課徴金を取る案もあるが、産業界は強く反対し、見通しは立っていない。

 地球温暖化が注目を浴びるようになったのは、冷戦が終わった90年代からだ。米が推進する大量生産、大量消費、大量投棄のシステムが世界に拡大した。そして、これを維持するために資源、エネルギーの消費が拡大、温室効果ガスの発生が急増して地球環境を破壊し始めた。だが、世界の主要国政府は、国家主権を盾にして自国の利益を優先、温暖化対策には消極的だ。このままでは、人類は生き残れるのか。温暖化がその疑問を人類に突きつけることになった。


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