メインページへ戻る

米大統領選挙 流れはオバマ
持田直武 国際ニュース分析

2008年2月24日 持田直武

民主党オバマ候補の快進撃が続く。2月5日のスーパー・チューズデー以後、予備選挙と党員集会で全勝。代議員獲得数でクリントン候補に水をあけた。オバマ候補は政治家としては上院議員暦わずか3年、人種は少数派のアフリカ系。だが、巧みな弁舌で聴衆を魅了、インターネットを使う献金集めで支持者を増やしている。


・ルーズベルト大統領のカリスマか?

ロバート・カーロ「権力への道」  オバマ候補の武器は巧みな弁舌で聴衆を魅了することだ。ニューヨーク・タイムズのケート・ザーナイク記者は2月17日の記事で、これをルーズベルト大統領のそれと較べている。ルーズベルトは大恐慌で混乱する1933年3月4日、第32代大統領に就任。ニューディール政策を実施して、米国を破綻の淵から救ったことで知られる。ザーナイク記者はこの記事で、伝記作家ロバート・カーロの著書「権力への道*」(The Path to Power*)から次のような一節を引用した。
(* 第36代大統領 ジョンソンの伝記三部作のうちの第一作。 ルーズベルトはジョンソンが下院議員に当選した当時の大 統領として登場。ジョンソンはルーズベルトに私淑、政治 家の道を選んだ。)

「ルーズベルト大統領は就任式の演説で『我々が恐れるものはただ一つ、我々が恐れることだ』と説いた。当時、失業者は10人のうち4人。倒産した銀行の前には、預金を引き出そうとする人たちの長い列が続いた。同大統領は就任後、直ちに銀行救済法を施行。3月12日、ラジオの炉辺談話で『好きな時に現金を引き出せるとわかれば、恐怖は消える』と国民の不安をなだめた。『現金を引き出してマットレスの下に隠すより銀行に預けておくほうが安全だ』とも語った」。

「翌13日、銀行が開くと、昨日までの行列はもうない。人々は引き出した現金を銀行に戻した。その結果、その日の入金は引き出し額より1千万ドルも多かった。銀行救済法が効果をあげたのは間違いない。同時に、ルーズベルト大統領の自信が国民に自信を取り戻させたのだ。大統領が危機を前にして笑顔で語ると、国民は危機が去ったように思った」。ザーナイク記者は、オバマ候補には、このルーズベルトに匹敵するカリスマ的な説得力が備わるのか問うのだ。


・民主党内にニューディール待望論

 民主党内には、ブッシュ大統領は大恐慌にも等しい損失を米国に与えたと断罪する向きが多い。イラクの失敗、経済運営の失敗などで国際的な信用と影響力を失った。立ち直るには、ルーズベルト大統領のニューディールのような画期的政策が必要だという。こう考えるグループの1人、イリノイ州選出のラーム・エマヌエル民主党下院議員は1月28日付けのワシントン・ポスト紙に寄稿して、ブッシュ政権の過去7年間の失政を次のように列挙した。

1、 ブッシュ大統領が就任した時、米連邦予算は2,360億ドルの累積黒字だったが、今は3兆5,000億ドルの累積赤字である。
2、 中間層の年間収入は1993年から2001年の間、6,000ドル増えたが、ブッシュ政権になって1,000ドル以上も下落した。
3、 1世帯平均の医療費は6,000ドルから1万2,000ドルに倍増した。
4、 米軍は地球上の2ヶ所で同時に大規模な戦争を構える態勢を備えていたが、今は即戦力を備えた戦闘部隊はないに等しい。
5、 2001年、世界各国の国民の58%が米国を尊敬していたが、今は39%に減少した。

 エマヌエル議員はこうした例を挙げたあと、「我々はもう一度世界一の立場を取り戻すことが出来るのか?この疑問は世界各国のみでなく、米国にも広がっている」と指摘。この疑問を晴らすには、「新しいニューディール政策が必要だ」と主張する。予備選挙の出口調査によれば、民主党有権者の関心は経済再建、イラク戦争の終結、医療制度改革など、同議員が指摘する3問題に集約できる。オバマ候補はこれらを解決するにはニューディールのような大胆な変化が必要だと主張して、成功している。


・流れはオバマ候補に有利

 民主党の大統領候補になるには、代議員の過半数2,025人を確保しなければならない。AP通信によれば、オバマ候補はすでに1,178人を確保、クリントン候補の1,024人を154人上回った。残るのはテキサスなど州と自治領16ヶ所。民主党は支持率に応じて代議員を割り振るため、クリントン候補がオバマ候補を追い越すには、この16ヶ所の予備選挙と党員集会で平均57%の支持を獲得する必要がある。今のクリントン候補にとって容易ではない目標だ。

 当面の焦点は3月4日に行われるテキサスとオハイオ両州の予備選挙。両州で合計334人という大量の代議員を出し、今後の行方を左右する。最新の世論調査では、両候補の支持率は次のようになっている。

 ワシントン・ポスト/ABC (2月16日―20日)
 「オハイオ州」 
  クリントン 50%  オバマ 43%

 「テキサス州」 
  クリントン 48%  オバマ 47%

 クリントン候補が辛うじてオバマ候補を押えているが、追い越すのに必要な57%には届かない。1ヶ月ほど前の地元紙の世論調査では、オハイオ、テキサス両州とも下記のようにクリントン候補が大きくリードしていた。

 コロンバス・ディスパッチ紙(1月23日―31日)
  「オハイオ州」
   クリントン 56%  オバマ 39%

 IVR世論調査(1月30日―31日)
  「テキサス州」
  クリントン 48%  オバマ 38%

 オバマ候補は2月5日のスーパー・チューズデーのあと、連勝を続けているが、そのはずみがテキサス、オハイオ両州の支持率上昇になって現れている。オバマ候補がこの勢いを続ければ3月4日の両州の予備選挙でも勝ち、クリントン候補に決定的な打撃を与える可能性がある。全国を対象とする世論調査でも、オバマ候補がクリントン候補を押える結果が多くなるなど、流れはオバマ候補に有利になった。


・オバマ陣営の強みは巧みな集金戦略

 オバマ候補が支持を伸ばす背景の1つに、巧みな献金集めがある。同候補の選対本部によると、オバマ候補は1月の1ヶ月間に3,600万ドルを集めた。クリントン候補の1,350万ドルを遥かに凌ぐ。しかも、このオバマ候補への献金の約70%はインターネットを通じた100ドル以下の小口献金。献金者は30万人を超えるが、同候補の選対はこのグループとインターネットで献金後も連絡し合い、これが草の根でオバマ候補の支持率を拡大する効果を生んでいる。

 これに対し、クリントン陣営はパーティによる資金集めが中心。参加者は選挙資金規正法の献金制限額4,600ドルを一度に献金する場合が多い。多額の献金を一度に集めることができるが、献金者の数が限られ得票の拡大にはつながらない。クリントン候補は民主党のエスタブリッシュメントをバックにパーティを頻繁に開催、昨年まで集金額の首位を誇った。しかし、インターネットで小口献金を集め、同時に支持も拡大するオバマ候補の集金戦略に脱帽することになった。

 クリントン候補が選挙戦で掲げたスローガンは「夫のクリントン大統領以来からのワシントンの経験」である。これに対し、オバマ候補は「ワシントン政治の旧弊を打破する変化」を掲げた。今、有権者はオバマ候補に流れている。クリントン候補の夫は20日、テキサス州の応援演説で「テキサスとオハイオで勝てなければ、ヒラリー・クリントンが民主党の大統領候補になることはない」と訴えた。民主党大統領候補は、初の女性か、それとも初の黒人か、まもなくこれに決着が着く。


掲載、引用の場合はこちらからご連絡下さい。


持田直武 国際ニュース分析・メインページへ

Copyright (C) 2008 Naotake MOCHIDA, All rights reserved.