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6ヶ国協議 成否の岐路
持田直武 国際ニュース分析

2008年3月16日 持田直武

ブッシュ政権が北朝鮮核問題の解決を目指して最後の努力を始めた。焦点は、北朝鮮のウラン核開発疑惑とシリアへの核技術移転疑惑という2つの疑惑の扱い。だが、米朝間の溝は深い。ジュネーブの米朝交渉で、ヒル国務次官補は「進展があった」と語ったが、金桂寛外務次官は両疑惑の存在を否定する立場を変えなかった。


・北朝鮮がブッシュ政権の譲歩案を拒否

 ヒル国務次官補と金桂寛外務次官は13日ジュネーブで会談。焦点は、北朝鮮がウラン核開発疑惑とシリアへの核技術移転疑惑を核計画の申告に盛り込む問題だった。APによれば、ヒル次官補は会談後の記者会見で「実質的な議論をし、進展があった」と述べた。しかし、金桂寛外務次官は疑惑を持たれているような事実は「過去にも無い、現在も無い、将来も無い」とウラン核開発やシリアへの核移転について全面否定、両者の対立が解消していないことを示した。

 ウラン核開発疑惑とシリアへの核技術移転疑惑は、北朝鮮が一貫して存在を否定して核計画の申告に含めることを拒否、6ヶ国協議の進展を阻んできた。ロイター通信が報じたブッシュ政権高官の話によれば、同政権はこの状況を打開するため、「北朝鮮が両疑惑を核計画の申告とは別枠で扱い、その内容を秘密にする」という妥協案を用意。北朝鮮が今回の会談でこの案を受け入れれば、「米側は二三日中にテロ支援国指定と敵国貿易法の対象から北朝鮮を削除する」と約束する予定だった。

 だが、北朝鮮はこの米の譲歩案を受け入れなかった。金桂寛外務次官は記者会見で「米側は約束したテロ支援国指定の解除をしないのに、我々に対して約束の履行を要求している」と米側の姿勢を非難。さらに「我々は米側の履行の遅れに合わせて核計画の申告を遅らせている。我々の側はすでになすべきことを実施した。今度は米側が約束を履行する番だ」と述べ、核計画の申告の遅れは米側に責任があると主張。両者の溝の深さを浮き彫りにした。


・溝は南北間でも深まる

 関係の悪化は南北間でも見られる。韓国では2月25日、李明博大統領が就任、10年振りに保守系政権が誕生した。しかし、北朝鮮政府機関は同大統領に未だに言及せず、メディアも同大統領の就任を報じていない。わずかに祖国平和統一委員会の報道官が3月6日の談話で「南朝鮮の保守執権勢力が国連人権理事会で朝鮮の『人権問題』に言いがかりをつけた」と初めて言及。北朝鮮が李明博政権を「保守執権勢力」という位置づけをしたことが分った。

 実は、北朝鮮は、李明博氏が12月大統領に当選したあと、接触を求めたことがあったという。東亜日報によれば、北朝鮮側は韓国の国家情報院を通じて李明博氏にメッセージを送り、同氏が大統領に就任する前、双方の責任者の会談を求めた。これに対し、李明博氏は会談の目的について詳しい説明を要求。これに対する北朝鮮からの回答がないまま接触は途切れたという。これも背景にあるのか、李明博政権と北朝鮮との関係はスタートからぎくしゃくしている。

 李明博大統領が就任して1週間後、米韓合同軍事演習がスタートした。これに対し、北朝鮮外務省の報道官は3日「北朝鮮を侵略する演習」と断定して、「すべての抑止力を強化して対抗する」と主張。また、韓国が国連人権委員会で「北朝鮮の人権状況の改善」を訴えると、北朝鮮側は「南北を対決に追い込む反民族的な妄言」と反発した。李明博大統領は前任の金大中、盧武鉉両大統領の北朝鮮宥和政策の転換を公約して当選、北朝鮮との軋轢は避けられないと見られていたが、予想通りとなった。


・核問題解決へ成否の岐路

 ブッシュ政権はこの李明博大統領の政策転換を諸手を挙げて歓迎している。盧武鉉政権下で影が薄かった日米韓の政策調整が復活、6ヶ国協議でも足並みが揃うと期待できるからだ。李大統領は4月15日から日米両国を歴訪するが、ブッシュ大統領は18日から2日間、李大統領をキャンプ・デービッドに招いて親しく歓談するという。キャンプ・デービッド招待は、韓国の歴代大統領では初めてである。ブッシュ大統領が李明博大統領に如何に期待しているかが分る。

 だが、韓国が日米に接近すれば、北朝鮮との溝は深まるに違いない。日朝国交正常化交渉も昨年9月、ウランバートルで正常化のための作業部会が開催されて以来、動きはない。ヒル国務次官補は13日のジュネーブ会談で拉致問題も取り上げ、金桂寛外務次官に努力を求めたという。同外務次官の反応は明らかにされていないが、拉致問題の解決と日朝国交正常化は6ヶ国協議の目標の一つであり、北朝鮮側がこれまでのような解決済みという立場を続ければ同協議の進展は望めない。

 ブッシュ政権の任期は残すところ10ヶ月。ヒル次官補は13日の会談のあと、「我々は今年中に核問題を解決するとの希望を捨てていない。今はもう3月、北朝鮮に急いでもらなければならない」と語った。しかし、米国内には、ブッシュ政権が残り少ない任期中に功をあせって過度の譲歩をすることを警戒する動きもある。北朝鮮はこうした米国内や李明博政権、それに日本の動きを見て、ブッシュ政権と交渉を進めることの損得を計算しているに違いない。


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