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米大統領選挙 崖っ縁のクリントン
持田直武 国際ニュース分析

2008年3月30日 持田直武

クリントン候補が苦戦している。献金はライバルのオバマ候補に比べ3分の2に減少。ボスニアの戦場を体験したというファースト・レディ時代の体験談が作り話と判明して、大ほら吹きの汚名を頂戴。一時、副大統領候補の呼び声もあったリチャードソン知事はオバマ陣営に鞍替えし、組織の動揺は隠せない。


・クリントン候補、三バンで剣が峰

 選挙では、鞄(資金)、看板(知名度と政策)、地盤(組織)の3バンが物を言う。これはどの国でも同じだ。クリントン候補はこの3バン全ての面で剣が峰に立っている。まず資金面、クリントン候補は昨年の献金額ではオバマ候補をわずかだが上回った。しかし、今年に入って形勢は逆転、オバマ候補が次のように約3対2の割合でリードするようになった。

  
「オバマ・クリントン両候補に対する献金額」
        07年の献金額  08年1月献金額  08年2月献金額
クリントン候補 1億705万ドル 1,350万ドル   3,450万ドル
オバマ候補   1億209万ドル 3,600万ドル   5,540万ドル

 献金の増加を反映して、オバマ候補の支出も次のように約4対3の割合でクリントン候補を上回る。

   
「両候補の08年2月の支出と残りの手持資金」
       テレビ広告費    支出総額     残りの手持資金 
オバマ   1日平均150万ドル 4,270万ドル 3,200万ドル
クリントン 1日平均100万ドル 3,160万ドル 1,130万ドル

 候補者の宣伝手段としてテレビの右に出るものはない。オバマ候補は2月に10州の予備選挙と党員集会で連続勝利を収めたが、これは1日150万ドルを投じてテレビ広告を連続して流した結果だという。これに較べ、クリントン陣営の広告費は3分の2、広告量で負けた結果が得票に現れた。手持ち資金でも、2月末時点でオバマ候補が3,200万ドルでクリントン候補の約3倍と優位は明らか、オバマ候補への献金が今のペースで続けば、クリントン候補は苦しい。


・傷がついたクリントン候補の看板

 クリントン候補の売り物の1つはファースト・レディ時代の経験だった。だが、この看板にも傷がつくことになった。3月17日、同候補はワシントンのジョージ・タウン大学で行った演説で96年3月のボスニア訪問を回想。「飛行場では狙撃兵の銃弾が飛び交っていた。私と娘のチェルシーは飛行機を降りると頭を低くして滑走路を走り、待っていた車に飛び込んだ。飛行場で歓迎の行事がある予定だったが、それどころではなかった」と危機感あふれる説明をした。

 ところが1週間後の24日、CBSテレビが当時のニュース映像を公開、「事実と違う」と反論した。映像では、クリントン候補とチェルシーさんは飛行機をゆっくりと降りて歓迎の人並みに囲まれ、出迎えた少女に笑顔で話しかけていた。同候補は25日、ピッツバーグで地元紙と会見「寝不足と疲れで間違えた」と釈明。しかし、ワシントン・ポストによれば、同候補は去年暮れのアイオワ州の演説や2月末のテキサス州の演説でも同主旨の話をしており、単なる間違いではなさそうなのだ。

 クリントン候補はファースト・レディとして経験を積み、世界の何処で緊急事態が発生しても直ちに対応できるが売り物だった。それだけに批判は厳しい。ワシントン・ポストは大ほら吹きと糾弾する記事を掲載。また、オバマ陣営が開催した電話討論会では、当時欧州駐留陸軍のボスニア担当だったスチュアート少将が「彼女は軍について何の知識もないことを暴露した。軍がファースト・レディを狙撃兵がねらう場所に出すはずがない。発言は軍を侮辱している」と非難した。


・特別代議員の支持も揺らぐ

 選挙で物を言うもう1つの要素、地盤(組織)でも、クリントン候補は苦しい立場に立った。同候補の強みだった特別代議員の支持が揺らぎ出したのだ。AP通信によれば、現在までのクリントン、オバマ両候補の代議員獲得数は次のようになっている。

「3月25日現在の代議員獲得数」
オバマ   1,620人(内訳 一般代議員1,406人+特別代議員214人)
クリントン 1,499人(内訳 一般代議員1,249人+特別代議員250人)
残る代議員    928人(内訳 一般代議員  598人+特別代議員330人)

 クリントン候補とオバマ候補の差は121人。残る予備選挙はペンシルベニア州や自治領プエルトリコなど10ヶ所、選出する一般代議員は598人である。クリントン候補がこの10箇所でどこまでオバマ候補に迫るかが焦点だが、世論調査では10箇所の勝敗は5対5の引き分け。結局、両候補とも予備選挙と党員集会で過半数2,024人の代議員を確保することができず、勝敗の帰趨は残る330人の特別代議員が握ることになる公算が強まった。

 上記の表で見るように、クリントン候補を支持する特別代議員はオバマ候補支持者より多い。ところが、最近ペロシ下院議長はじめ党幹部が特別代議員も予備選挙と党員集会の結果に従うべきだと主張。特別代議員の中には、クリントン候補支持を撤回してオバマ候補支持に鞍替えする例も出ている。特別代議員は州知事や連邦議員が多数、自分の選挙区が予備選挙でオバマ候補を支持した場合、それを無視してクリントン候補を支持することは難しくなった。


・クリントン候補に強まる撤退圧力

 鞄、看板、地盤の3バンが揺らぎ出した21日、もう1つの痛打がクリントン候補を見舞った。夫ビル・クリントンの政権で国連大使、エネルギー長官を歴任、一時クリントン候補と組んで副大統領候補の呼び声もあったリチャードソン・ニューメキシコ州知事がオバマ候補支持を表明、クリントン候補の撤退を暗に促した。28日にはリーヒー上院議員はじめ上院の幹部級議員3人がこれに続いた。クリントン候補は選挙戦を続ける強気の姿勢だが、厳しい状況になったことは間違いない。


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