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米大統領戦 マケイン候補の不安
持田直武 国際ニュース分析

2008年6月1日 持田直武

ブッシュ大統領の支持率は近年の大統領中の最低水準に下落した。共和党の支持率も過去15年来の最低で、民主党が大きくリードしている。共和党マケイン候補には厳しい逆風である。このほか、同候補には高齢という問題もある。


・マケイン候補に吹きつける逆風

 米国民はブッシュ政権下で方向感を失い、不満を膨らませている。ワシントン・ポストが5月8日−11日に実施した世論調査によれば、「今の米国は正しい方向に進んでいるか?」という質問に対し、82%が「間違った方向に進んでいる」と答えた。「正しい方向に進んでいる」という答はわずか16%だった。また、ブッシュ大統領の支持率は31%、不支持は66%に上った。不支持66%は、ウオーターゲート事件で辞任したニクソン元大統領の最低記録と同じである。

 大統領選挙にあたって、「最大の関心事は何か」という質問に対して、「経済、中でも失業問題」という答が最も多く36%。次が「イラク問題」で21%。3番目が「医療問題」だった。そして、民主、共和両党のうち「どちらがこれらの問題をより適切に処理すると思うか」という質問では、「民主党」という答が53%。「共和党」は32%。「どちらも適切な処理を期待できない」という答えが10%だった。ブッシュ政権に対する不満が民主党への期待を膨らませている。

 共和党のマケイン候補にとって、状況は最悪と言わざるをえない。候補者の支持率も、オバマ候補51%に対して、マケイン候補44%と1ヶ月前より差が開いた。また、オバマ候補が黒人として初めて米国大統領になることについては、88%が「違和感はない」と回答。「違和感を持つ」という答はわずか12%だった。一方、マケイン候補が当選した場合、就任時72歳で歴代大統領の最高齢となることについては、「問題はない」は60%。「問題がある」が39%に上った。


・最高齢大統領候補を取り巻く不安

 マケイン候補は1936年7月生まれで現在71歳。当選すれば、来年1月の就任時に72歳。再選された場合、退任時80歳となる。この年齢で、大統領の激務をこなせるかという疑問が出ても不思議ではない。歴代大統領の最高齢はレーガン大統領で81年の就任時69歳だった。大統領候補としては、96年選挙で共和党ドール上院議員が73歳で党候補となり、現職のクリントン大統領に挑戦したが、敗れた。この時、ドール氏は当選しても再選を求めない考えを表明した。

 マケイン候補も23日、こうした高齢に対する危惧の念に答えて自身の医療記録を公開した。そして、心臓など諸器官は異常がないこと。ただ、メラノーマという皮膚がんの一種に罹り、過去5回患部の除去手術を受けたこと。ベトナム戦争で捕虜となった時の古傷が原因で関節炎が残るが、健康体で激務にも十分耐えられるなどと強調した。しかし、インターネットでは、健康に問題が無いのなら、なぜ医療記録をもっと早く公表しなかったのかとの疑問を呈する意見もあった。

 マケイン候補が抱えるもう1つの問題は党内保守派との軋轢が収まらないことだ。中でも、宗教右派と言われるキリスト教福音派の一部指導層とは不倶戴天の関係が続いている。2000年の大統領選挙で、マケイン候補がブッシュ現大統領と党候補の指名を争った際、ブッシュ陣営の中枢だった福音派指導層が匿名でマケイン候補を誹謗中傷するキャンペーンを展開、同候補に決定的ダメージを与えたとの疑いが消えない。同候補と福音派指導層の険悪な関係はそれ以来続いている。


・福音派の一部はマケイン無視か

 米政治の中で、キリスト教福音派が果す役割は計り知れない程大きい。中でも、目立つのが選挙の時の動員力である。前回04年の大統領選挙で、ブッシュ大統領が再選を果したとき、このグループの80%、約2,000万人が同大統領に投票し、再選の原動力になったと言われた。同大統領がこの選挙で獲得した全得票は6,000万票余り、その3分の1が福音派の票だったことになる。マケイン候補もこの票田を無視することはできないのは言うまでもない。

 マケイン候補は27日、ブッシュ大統領を地元アリゾナ州フェニックスに招いて資金集めのパーティを開いた。ブッシュ離れを強めてきたマケイン候補が同大統領をこのような席に招くのは初めて。ねらいは、同大統領への忠誠心を変えない福音派の票田に接近することだ。だが、同候補が不人気なブッシュ大統領に接近しすぎると、ブッシュ離れの効果が相殺されるというジレンマがある。このためか、パーティ会場は周辺を完全に閉鎖、カメラも記者団も閉め出す気の使いようだった。

 今回の選挙で共和党内には、福音派はじめ保守派が納得する候補が居なかった。一時、ハッカビー・アーカンソー州知事が注目をあびたが、長続きしなかった。このまま11月の本選挙を迎えた場合、保守派の多くは不満ながらもマケイン候補に投票するとみられている。しかし、一部はジョージア州選出の前共和党下院議員で、保守政党リバタリアンから立候補するボッブ・バー候補に投票するとの観測も出ている。同候補は伝統的保守派で支持率は5%前後。マケイン・オバマの接戦になった場合、マケイン候補が不利になることも考えられる。


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