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米大統領選 オバマ、マケイン両候補の軍資金
持田直武 国際ニュース分析

2008年6月27日 持田直武

民主党オバマ候補が公的資金を辞退、献金だけで本選挙に挑む。献金の目標額は2億から3億ドル、支出制限はない。一方、共和党マケイン候補は公的資金8,410万ドルで対抗する。オバマ候補が圧倒的に有利だ。だが、選挙戦の軍資金はこれだけではない。双方の外郭団体が別枠で資金を集めてダーティ・キャンペーンを展開する。それが選挙結果を左右する場合もある。


・史上最高の金権選挙の予想

 主要政党の候補者に公的資金を出す制度は1974年の選挙法改正で決まった。予備選挙では選挙費用の1部を支給、本選挙では全額を支給する。資金を受けた候補には支出制限を課す。また、献金は個人からだけとし、献金額の上限を決めた。金権選挙を防ぐねらいからだったが、最近はこの支出制限を嫌って、予備選挙段階では公的資金を辞退する例が増えていた。しかし、本選挙で公的資金を辞退し、献金だけで運動するのは、オバマ候補が初めてとなる。

 オバマ候補はこれについて6月20日付けのUSA Today紙に投稿、「公的資金を辞退して新しい選挙戦を展開するため」と主張した。公的資金を受けて支出制限を課されるのを避け、支出制限なしの選挙戦をするとの宣言だった。予備選挙で、同候補は若者や無党派層から幅広く献金を募り、5月までに合計2億8,750万ドルを集めた。ニューヨーク・タイムズがオバマ選対幹部の話として伝えるところによれば、本選挙では2億から3億ドルの献金を目標にしているという。

 これに対し、共和党マケイン候補は公的資金8,410万ドルを受ける。本選挙の投票日11月4日まで、この資金だけで選挙をし、献金を受けることはできなない。軍資金では、オバマ候補に較べ、マケイン候補の不利は否めない。だが、選挙で使われる資金はこれだけではない。民主、共和両党が候補を側面から支援するための資金や、527グループと総称される政治団体が別枠で集める膨大な資金がある。特に今年はこのグループの動きに関心が集まっている。


・違法行為すれすれのネガティブ・キャンペーン

 527グループとは、税法527条の免税措置を受けて活動する政治団体の総称。選挙ごとに大小100を超える団体が民主、共和両党の周辺で組織される。前回04年の大統領選挙で、同グループの上位20団体が集めた資金は4億4,000万ドルを超えた。選挙運動はできないが、この資金で違法行為すれすれの個人攻撃を展開することで知られている。04年選挙では、再選をねらうブッシュ大統領と対立候補の民主党ケリー候補の双方が激しい個人攻撃の標的となった。

 民主党のケリー候補の場合、同候補が経歴としてベトナム戦争に従軍、高速艇の艇長として数々の武勲を挙げたと列挙したことが発端だった。これに対し、ベトナム帰還兵の団体が527グループ「真実を追究する高速艇復員軍人の会」を結成し、ケリー候補の手柄話は嘘だと非難して論戦になった。これにマスメディアが合流して論争は次第にケリー候補の個人攻撃に発展。ケリー候補のベトナム時代の戦友が登場して不利な証言をしたこともあって、同候補落選の原因の1つになった。

 再選したブッシュ大統領も攻撃の的になった。投票まで2ヶ月となった9月初め、同大統領の「徴兵逃れ」を示す軍の文書がCBSテレビに届き、同テレビが放送した。ブッシュ大統領が20代の頃、徴兵されてベトナム戦線に送られるのを避けるため、当時国連大使だった父ブッシュ元大統領の周辺が違法工作をしたという内容だった。事実なら大統領としての資格を疑われかねないが、調査の結果文書は偽造と判明した。背後で527グループの関与が疑われたが、解明できなかった。


・人種と高齢に対する不安をねらう

 今年の選挙でも、527グループが登場するのは間違いない。特に今回は初の黒人大統領を選ぶか、あるいは就任時最高齢の大統領を選ぶかの選択となる。有権者にとって、どちらも懸念材料であり、世論が大きく揺れる恐れもある。ワシントン・ポスト紙が6月12−15日にかけて実施した調査によれば、人種と年齢に関連して有権者は次のように回答した。

 
「質問」大統領を選ぶにあたって人種に関心を持つか、年齢に関心を持つか。
 「答」人種に関心を持つ  23%  人種は関係ない 77%
    年齢に関心を持つ  40%  年齢は関係ない 60%

「質問」大統領を選ぶにあたって、オバマ、マケインのどちらが安全な選択か、それとも危険な選択か。
 「答」オバマが安全な選択  52% オバマは危険な選択  28%
    マケインが安全な選択 56% マケインは危険な選択 25%

 有権者はこの質問を聞いて、オバマ候補の危険として人種にからむ事件を連想し、マケイン候補の場合高齢を連想したに違いない。そして、マケインのほうが僅かの差だが、より安全、オバマのほうが危険と考えた。予備選挙の終盤で、クリントン候補が候補者暗殺の例を口にして顰蹙を買ったが、有権者の多くは同じ様な危険を連想している。527グループがねらうとすれば、まずこの有権者の不安を標的とするに違いない。


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