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米大統領選 攻防の裏表
持田直武 国際ニュース分析

2008年7月13日 持田直武

オバマ、マケイン両候補が党内の支持取りまとめに苦労している。民主党はクリントン候補支持者の3分の1が依然オバマ候補を忌避、投票に棄権するという。共和党は保守派がマケイン候補の中道派寄りの政策に不満、党大会で採択する党綱領から中道派色を削除するべく画策している。両候補とも当面の敵は党内にいる。


・オバマ、クリントン両支持者の確執続く

 前回04年選挙で、ブッシュ大統領は一般投票の6,000万票余りを獲得して当選した。今回は、オバマ、マケインのどちらが当選するにしてもこれを上まわる得票が必要なのは間違いない。勝つためには、民主、共和両党とも党内の結束が不可欠だが、両党とも楽観できる状況ではない。共和党は保守派がマケイン候補の中道寄り路線に不満を募らせ、関係は決裂状態。民主党も、オバマ候補支持者とクリントン候補支持者の予備選以来の確執が依然続いている。

 7月4日のCNNの調査では、クリントン支持者の32%が11月の一般投票に棄権すると答えた。1ヶ月前、クリントン候補が選挙戦から撤退する直前の調査に較べ10%も増えた。オバマ候補に投票すると答えたクリントン支持者は54%、1ヶ月前より6%減少した。クリントン候補は選挙戦撤退後、オバマ支持を表明して支持者にも同調を呼びかけているが、効果は挙がっていない。クリントン候補の支持者は約1,800万人。オバマ候補はこれを無視することはできない。

 オバマ候補がクリントン候補の借金返済に協力しているのも、この支持者を取り込むねらいからだ。選挙戦で、クリントン候補が抱えた借金は2,300万ドル。オバマ候補はこれを返済するための献金を自分の支持者に呼びかけている。だが、反応は芳しくない。9日のニューヨーク・タイムズによれば、支持者の中には「クリントンはオバマを潰そうとして借金した。その返済に協力するのか」と非難するものや、公開をはばかる厳しい内容もあるという。トップは握手しても、支持者の敵意は消えていない。


・マケインのアキレス腱、保守派との確執

 前回選挙で、ブッシュ大統領が獲得した6,000万票のうち3分の1の2,000万票はキリスト教福音派が動員したと言われている。同派は共和党保守派の中核として選挙ごとに勢力を拡大、04年のブッシュ大統領再選の原動力となった。当選したブッシュ大統領の得票は対立候補の民主党ケリー上院議員を328万票上回っただけだった。マケイン候補がオバマ候補を押えて当選するためには、このキリスト教福音派の票を落とすことはできない。

 ところが、マケイン候補は福音派の指導者とは犬猿の仲だ。きかっけは2,000年の大統領選挙まで遡る。同選挙で、マケイン候補はブッシュ現大統領と共和党の候補指名を争い、最初のニューハンプシャー州予備選挙では49%対30%で大勝した。ブッシュ陣営が危機感を持ったのは間違いない。同陣営を支えていた共和党エスタブリッシュメントと福音派の活動家が巻き返しに出た。そして、マケイン候補を誹謗、中傷する出所不明のビラやポスターが貼られた。

 このネガティブ・キャンペーンが功を奏したのか、マケイン候補は次のサウスカロライナ州予備選挙で、42%対53%でブッシュ現大統領に敗れた。これ以後、マケイン候補は急速に力を失い、選挙戦から撤退を余儀なくされる。同候補はネガティブ・キャンペーンの背後に福音派が存在すると見て、同派の当時の代表的指導者だったテレビ伝道師パット・ロバートソン師やジェリー・ファルウェル師などを名指しで非難し、そのしこりが今も解けていない。


・手負いどうしの戦いになるか

 今回の選挙でも、福音派を中心とする保守派はマケイン候補の中道寄りの発言に敏感に反応。9月の党大会で採択する共和党綱領にこのマケイン候補の中道寄りの主張が入らないか警戒している。綱領の作成は予備選挙の勝者マケイン候補と共和党全国委員会が合同で原案を作成するが、全国委員会はもともと保守派の牙城。ブッシュ大統領時代の党綱領では、同大統領が掲げた伝統的保守路線が問題なく通過した。だが、今回はマケイン陣営がこれを大幅に変更するとの見方が強い。

 その中でも、保守派が警戒するのは、地球温暖化、再生医療のためのES細胞研究、違法移民、選挙資金規正などである。ブッシュ大統領は保守派の主張に基づいて、地球温暖化問題では京都議定書に反対、ES細胞研究も反対、違法移民には厳罰、選挙資金規正に反対など保守派の主張を党綱領に規定した。そして、地球温暖化問題では京都議定書から脱退して主張を実践した。共和党全国委員会を固める保守派はこの路線を守るためマケイン陣営との衝突も辞さない構えである。

 これに対し、マケイン候補は一歩も後に引かない構えだ。予備選挙の遊説で京都議定書の交渉に復帰する意向や違法移民に市民権を与える計画など、一連のブッシュ離れの政策を鮮明にした。保守派との軋轢が収まる気配はない。一方、オバマ候補も党内で安定した支持を得ているとは言い難い。サブプライム・ローン問題で住宅市場が危機に瀕している時、金融機関から金利の低い自宅購入資金の融資を受けたことが判明するなど、脇の甘さも露呈している。今回の選挙は手負いどうしの戦いということになりかねない。


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