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オバマ新大統領の選択(2)北朝鮮の核放棄
持田直武 国際ニュース分析

2009年1月18日 持田直武

北朝鮮がオバマ新政権誕生を前に、核放棄は米朝関係の正常化後に実施するとの新方針を表明した。関係正常化は核放棄後とする日米などの立場とは相容れない。北朝鮮は、この方針で核兵器の長期保有を狙っていることは間違いない。これに対し、オバマ新政権はどう出るか。日本も対応を問われる。


・北朝鮮の狙いは核保有国の立場確立

 北朝鮮の新方針は1月13日、朝鮮中央通信(KCNA)が外務省報道官の声明として伝えた。それによれば、声明は「米国は北朝鮮の核放棄後、両国関係を正常化すると宣伝しているが、これは事実を歪めている」と主張。その上で、「05年9月の6カ国協議共同声明で、朝鮮半島の非核化を決めた際、我々は米朝関係の正常化を通じて非核化を実現するとの原則で合意した。非核化後に正常化するのではない」と述べ、核放棄の前に国交正常化をするよう要求した。

 北朝鮮はまた、この声明で核放棄をする時期について、「今回の核問題は、米国が我々に対する敵視政策を展開、核攻撃の脅威が高まったために起きた。米国がこの核の脅威と韓国を覆っている核の傘を取り除けば、我々が核兵器を保有する必要はなくなる」と主張。しかし、「米国が今後も敵視政策を続けるなら、我々だけが先に核を放棄するようなことは、100年経ってもありえない」と断言。米の敵視政策が変らない限り核保有を続けるとの立場を示した。

 声明は最後に「もし、今のような敵対関係を残したままで、核兵器問題を解決しようとするなら、世界の全ての核保有国が集まって核軍縮会議を開催し、各国が同時に核軍縮を実施するしか方法はない」とも主張。北朝鮮の核問題解決には、世界の核保有国による軍縮会議が必要との考えを示した。北朝鮮を核保有国として国際的な認知を確保しようとする主張だが、北朝鮮がこの主張を続ければ、朝鮮半島の非核化を目標とする6カ国協議は空洞化しかねない。


・正常化は核放棄後が6カ国協議の共通認識

 これまでの6カ国協議の議論では、関係正常化は北朝鮮の核放棄後というのが、協議参加国の共通の認識だった。6カ国協議は05年9月、北朝鮮の核放棄と日朝間、米朝間の関係正常化について合意、6カ国協議共同声明として発表した。しかし、核放棄と関係正常化のどちらを先に実施するのかなど詳細は取り決めていない。参考までに共同声明の要旨は次のような内容である。

第1項(要旨)
1)6カ国は、6カ国協議の目標が、朝鮮半島の非核化であることで一致した。
2)北朝鮮はすべての核兵器、および核計画を放棄する
3)米国は朝鮮半島で核兵器を持たず、北朝鮮を攻撃せず、侵略もしない。
4)韓国は核兵器を受け入れず、配備もしない。

第2項(要旨)
1) 米国と北朝鮮は平和共存し、国交正常化の措置を取る。
2) 日本と北朝鮮は平壌宣言に従って、不幸な過去の清算と懸案事項を解決し、国交正常化の措置を取る。

 上記のように、共同声明は第1項で非核化、第2項で正常化を取り上げいるが、どちらが先かは決めていない。しかし、非核化のあと正常化という共通の認識だったのは間違いない。ブッシュ大統領は06年11月、米朝の直接交渉開始の決定をしたが、その際「北朝鮮が核を完全放棄すれば、米は経済、文化など全ての面で協力する」と述べ、北朝鮮の核放棄が関係正常化の前提という方針を明示。北朝鮮もこれに応じてヒル国務次官補と金桂寛外務次官の直接交渉が始まった。

 日本も上記のように6カ国共同声明で国交正常化の措置をとることで合意した。その際、日本は正常化の前提として、北朝鮮が懸案事項(日本人拉致事件)と核問題を解決することを条件としている。一方、日本側も正常化の前に不幸な過去の問題(日本による植民地支配)を解決しなければならないと考えている。だが、北朝鮮は今回米に対して国交正常化をまず実現するべきだと主張した。日本にも国交正常化をまず実現、不幸な過去の問題をあとに廻してもよいと言うのだろうか。


・クリントン次期国務長官も北朝鮮の新方針を拒否

 北朝鮮の新たな方針に対し、オバマ新政権の外交関係者は強い拒否反応を示している。クリントン次期国務長官は13日の議会証言で「米朝国交正常化は、まず北朝鮮が完全で検証可能な核放棄をすることが条件となる。また、北朝鮮を核保有国として扱うようなことはしない」と断言した。さらに「北朝鮮が義務を履行しないならば、解除した制裁を復活し、必要なら新たな制裁も加えるべきだ」と述べ、北朝鮮をテロ支援国として再指定するかのような発言もした。

 こうした米側の厳しい反応から見て、北朝鮮が新方針を主張し続ければ、オバマ新政権との対立は厳しいものになる。そして米国内では、金正日総書記は核放棄をしないとの見方が強まるに違いない。健康不安が浮上した金正日総書記の万一の場合に備える動きも活発になるだろう。リン次期国防副長官が15日の議会証言で「北朝鮮崩壊の場合、米は北朝鮮の核兵器と核物質を迅速に確保するよう努める必要がある」と証言したのが、それを示唆している。

 これから始まるオバマ新政権の4年間、北朝鮮の核問題が如何なる経緯を辿るか依然予断を許さない。同問題は、クリントン政権からブッシュ政権まで16年間を経ても解決できず、北朝鮮は核兵器を持った。オバマ政権がこれを解決するか、それとも北朝鮮が核保有国の立場を固めるか、正念場になった。クリントン次期国務長官は交渉重視の立場で、パートナーとして日本に期待する姿勢を示した。日本としても、これに答えなければ、存在価値を問われることになる。


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