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北朝鮮が核開発を再開した背景
持田直武 国際ニュース分析

2009年5月10日 持田直武

北朝鮮が核実験を予告、危機感を掻き立てている。国連安保理が議長声明で、北朝鮮の「人工衛星」打ち上げを非難したことに反発。6カ国協議からの離脱を宣言した上で、核実験やミサイル発射など一連の強硬措置を予告した。これに対し、国際社会は6カ国協議再開を呼びかける以外に、打つ手がない。


・プルトニウム核開発に加えウラン核開発開始も示唆

 北朝鮮は4月5日の「人工衛星」打ち上げ後、次々と強硬措置を予告した。国連安保理が13日の議長声明で、「人工衛星」発射を非難したことが切っ掛けになった。北朝鮮の主張は人工衛星の打ち上げは宇宙の平和利用で、非難する理由はないというもの。しかし、日米などは、打ち上げの実体はミサイル実験であり、国連決議1718に違反すると主張。中国やロシアもこれに同調して国連安保理が全会一致で支持した。北朝鮮は中ロが支持したことにショックを受けたに違いない。

 北朝鮮外務省報道官は14日、この議長声明を「山賊の論理」と糾弾した。「米国の手先の日本が衛星を打ち上げても問題ないが、米国の言うことを聞かない北朝鮮が打ち上げるのは許さない論理だ」という。北朝鮮は「安保理議長声明はこの山賊の論理を受け容れたもので許すことはできない」と主張。今後、6カ国協議から離脱して、同協議の如何なる合意にも拘束されないこと、そして核施設の再稼動やプルトニウムの抽出などを再開すると予告した。

 さらに25日、北朝鮮外務省報道官はプルトニウム抽出を開始したと発表。また29日には、「国連安保理が間違いを認めて謝罪しなければ、自衛的措置を取る」と主張して、核実験とミサイルの発射実験を予告。さらに、同報道官は軽水炉の建設とその燃料製造に必要な技術開発も開始すると表明した。軽水炉は燃料に濃縮ウランを使うのが常識。同報道官の発表は、北朝鮮がプルトニウム核開発に加え、ウラン濃縮による核開発も始めるとの示唆だと解釈されている。


・北朝鮮は長距離核ミサイル完成に邁進

 5月に入って、北朝鮮が予告どおり核実験とミサイル発射の準備を始めたことが分かる。5月7日の朝鮮日報によれば、北朝鮮の咸鏡北道豊渓里にある核実験場周辺で、車両や人の活発な動きを韓国情報機関が探知した。この実験場は、北朝鮮が06年10月最初の核実験を実施した場所だ。また、平安北道東倉里のミサイル発射基地でも同じような動きがあるという。この発射基地は8年前から建設を開始し、次のミサイルを発射する基地として完成を急いでいるとみられていた。

 北朝鮮はこれらの実験を重ねて、核弾頭付き長距離ミサイルの製造を狙っている。故金日成主席が1965年、ミサイル技術者を養成する軍幹部学校を設立した際、「第2の朝鮮戦争が起きれば、必ず日本と米国が介入する。これを防ぐには、ミサイルが必要だ」と訓示した。金正日総書記がこの訓示に従って、日本全土を射程内に入れる中距離ミサイル・ノドンを開発した。残る課題は米本土に届く長距離ミサイル・テポドンの完成とこれに搭載する核弾頭の小型化だ。

 だが、北朝鮮がこの目標を達成するには、朝鮮半島非核化を目指す6カ国協議が壁になる。北朝鮮外務省が4月14日の声明で、6カ国協議からの離脱を宣言、同時に「6カ国協議の如何なる合意にも拘束されない」と主張したのは、この壁を一方的に取り除いたことを意味している。同協議の合意の中には、北朝鮮が核開発の放棄を約束した05年9月の共同声明も含まれている。北朝鮮は今後、これらの合意に拘束されない立場で、核やミサイル開発に邁進すると宣言したのだ。


・国際社会は打つ手がないのか

 この北朝鮮の危機感を掻き立てる動きに対し、関係国は対応に苦慮している。オバマ大統領は6日、中国の胡錦濤国家主席に電話し、北朝鮮の核実験予告などについて協議した。米中両国とも、協議の内容は明らかにしないが、公表するような対応策が無いのも事実だ。クリントン国務長官は4月30日の上院公聴会で「6カ国協議が再開する可能性は小さい」と証言した。これに対し、朝鮮問題専門家クリングナー氏はCNNテレビで「では、次に何をするかが問題なのだ」と批判した。

 日米はじめ関係国は依然6カ国協議の早期開催を目指すことで意見が一致している。オバマ政権は6カ国協議と並行して、北朝鮮との2国間協議にも応じる構えだ。しかし、北朝鮮は応じる気配はまったくない。北朝鮮外務省報道官は8日、「オバマ政権も敵視政策を取る点で、前任のブッシュ政権となんら変らない」と初めてオバマ政権を名指しで非難。その上で、「我々を敵視する相手と対話しても、得るものは何もない」と断言、「それよりも、我々は核抑止力を一層強化する」と強調した。

 北朝鮮がこのような強硬姿勢を取る背景には、金正日総書記の後継問題があるとの見方は多い。現在の体制を混乱なく後継者に引き継ぐには、外部からの脅威を煽り、国内の意思統一を図る必要があるからだ。同総書記が健康問題を抱え、後継体制の確定が急務となっていることも、強硬姿勢を取る背景にあるだろう。だが、理由は何であれ、北朝鮮が核ミサイルの完成に邁進するのを看過することはできない。核弾頭を小型化すれば、日本を狙うノドンに搭載するのも間違いないだろう。


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