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アフガニスタンの混迷
持田直武 国際ニュース分析

2009年8月30日 持田直武

アフガニスタン情勢が混迷の度を深めている。オバマ大統領は米軍を増派したが、治安の悪化に歯止めがかからない。大統領選挙では、麻薬取引疑惑がある元国防相が副大統領に当選する可能性があり、米は対応に苦慮。世論調査では、米国民の51%が「アフガニスタンの戦争は戦う価値がない」と考えている。


・オバマ大統領の戦争に暗雲

 米統合参謀本部のマレン議長は8月23日、CNNやNBCテレビのインタビューに答え「アフガニスタン情勢が深刻化し、混迷の度を深めている」と認めた。このままでは「タリバンを中心とする過激派勢力が再びアフガニスタンを支配することになる」というのだ。同国駐留の米軍は現在5万8,000人。他にNATO(北大西洋条約機構)指揮下の英軍やドイツ軍など3万2,000人も駐留。約1万人と推定されるイスラム過激派組織タリバンやアル・カイダと戦っている。

 タリバンはアフガニスタンが内戦下の1996年9月、首都カブールを占領、イスラム主義に基づく国家の樹立を宣言した。米とは一時良好な関係だったが、01年9月の米同時多発テロ事件のあと、同事件の容疑者ビン・ラディンはじめアル・カイダの一味をかくまって当時のブッシュ政権と対立。進攻した米軍によって政権の座を追われた。しかし、最近になってパキスタン国境の山岳地帯で組織を再建。ゲリラ部隊がカブール周辺に迫る勢いを見せている。

 これに対し、オバマ大統領は就任1ヶ月後の今年2月、米軍1万7,000人を緊急増派。タリバンやアル・カイダの勢力拡大を阻止する姿勢を明確にした。ブッシュ政権はイラクとアフガニスタンをテロ戦争の最前線と位置付けたが、オバマ大統領もこの政策を継承。さらに米軍を増派したことによって、アフガニスタンでオバマ大統領の戦争が進行することになった。だが、増派が効果を挙げていないことは、マレン統合参謀本部議長の冒頭の発言が示している。


・麻薬取引の疑惑がある副大統領候補

 混迷に拍車を掛けているのが、大統領選挙をめぐる対立だ。投票は8月20日実施したが最終結果はまだ出ていない。29日の内務省発表によれば、開票率35%の段階で、1位はカルザイ現大統領で得票は46.3%。2位はアブドラ元外相で31.4%。選挙法は過半数を獲得する候補がない場合、上位2人の決選投票を決めている。最終結果が確定するのは9月中旬になる予定だが、現在の見通しでは過半数を獲得する候補がなく、10月に決戦投票を実施することになりそうだ。

 だが、決選投票になった場合、現在上位の2人、カルザイ大統領とアブドラ元外相の抗争がさらに激化、国内を2分しかねないとの懸念が強まっている。原因の1つが、民族対立に拍車が懸かる恐れだ。パキスタンはパシュトゥン族(約44%)が南部に居住、北部にはタジク族(32%)、ハザラ族とウズベク族(共に9%)が居住する多民族国家。カルザイ大統領はパシュトゥン族の王族出身で南部が地盤だが、対立候補のアブドラ元外相は母親がウズベク族で北部が地盤だ。

 この両者の対決に、オバマ政権も別の立場から加わっている。ニューヨーク・タイムズによれば、カルザイ大統領と組んで副大統領に立候補した元国防相ファヒム元帥の麻薬取引疑惑が原因だ。この疑惑はブッシュ政権も掴み、対応に苦慮したことが分かっている。当時、ファヒム元帥は現職の国防相だったが、専用機で麻薬をロシアに運んだなどの疑惑があった。カルザイ大統領が再選を果せば、同元帥が副大統領に就任するが、オバマ政権としてはそれを認めることは難しい。


・米国民は戦う価値のない戦争と判断

 大統領選挙投票日の翌日、米のアフガニスタン担当特別代表ホルブルック氏とアイケンベリー米大使がカルザイ大統領と会談した。米側は会談の内容について「定例の訪問で、米政府は選挙には中立姿勢を守ると伝えた」と短い発表をした。ところが、アフガニスタン各紙や一部の外国メディアは「米側は再選挙を要求して会談は紛糾した」と大きく報じた。米側は「要求をしたことはない」と否定したが、ファヒム元帥の副大統領就任を阻止する手立てを考えていることは間違いない。

 もう1つの混迷の原因は不正選挙だ。選挙問題調停委員会によれば、不正選挙の訴えは28日までに2,000件を超え、そのうち270件は選挙結果を左右する深刻な内容だという。不正は投票の妨害や票のすり替えなどで、ほとんどがカルザイ大統領支持派の仕業とみられている。その中の1つ、同大統領の対立候補アブドラ元外相が公開したビデオには、地方の選挙管理委員会の責任者が投票箱に入っている投票済み用紙を別の投票用紙にすり替える様子が映っていた。

 この状況が米世論に影響しない筈はない。ワシントン・ポストが19日発表した調査によれば、米国民の51%は「アフガニスタンの戦争は戦う価値がない」と考えている。また、64%が「大統領選挙をしても、国をまともに治める政府はできない」と考えていることも分かった。オバマ大統領はブッシュ政権の政策を踏襲して、アフガニスタンをテロ戦争の最前線と位置付け、9月には米軍再増派の判断をするとみられていた。この路線を続けられるか、苦しい立場に立った。


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