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中国覇権外交の拡大(1)
持田直武 国際ニュース分析

2010年11月14日 持田直武

国際政治の中で中国の存在感が増している。米経済誌フォーブスは今年度の世界最強の指導者に中国の胡錦濤国家主席を選んだ。同主席が世界最大の軍隊、世界一の外貨準備を背景に独裁に近い権力を振るって世界一の大国への道を驀進していると見るからだ。だが、西側社会にはその手法に懸念を示す向きが多い。最近の尖閣諸島をめぐる中国の対応がその1つの例だ。


・中国が世界最強の国家になる時

 米経済誌フォーブスは11月4日「世界最強の指導者」ランキングを発表、1位に胡錦濤国家主席を挙げた。その理由として、同誌は「主席が独裁に近い権限を行使して世界人口の5分の1にあたる国民を支配し、川の流れを変え、都市を造り、反体制派を投獄、インターネットの検閲もする。西側社会では、小うるさい官僚や裁判所がこれをチェックするが、中国にそれはない。その中国が最近は日本を抜いて世界第2の経済大国に躍進、25年以内に米国も抜く見通しになった」などの点を列挙した。

 同誌はまた胡主席を最強とする理由として「中国が世界最大の軍隊を抱えると共に世界一の債権国として2兆6500億ドルの外貨を蓄積、そのうち1兆5000億ドルを米国の国債に投じている」と指摘。同主席がこの力を背景に「国際面では米国の為替レート切り上げ要求を拒み、国内面では側近の習近平国家副主席を後継者に決めた」ことなども挙げた。昨年の「世界最強の指導者」ランキングでは、1位はオバマ大統領、胡錦濤主席は2位だったが、今年は入れ替わった。

ところで、フォーブス誌は胡錦濤国家主席を世界最強の指導者と位置づけたが、決して褒めてはいない。むしろ、同主席が「小うるさい官僚や裁判所」の介入を排除して「国民を独裁に近い強権で支配する」など、西側の指導者とは違うと批判的だ。しかし、同誌はその異質の指導者を今年の「世界最強の指導者」ランキングの1位に選ばざるを得なかった。同誌は「この選択を見て現実を反映していると考える人もいるだろうが、驚く人もあるだろう」という評論家のコメントも掲載した。


・西側社会は中国の大国化に不安

 フォーブス誌の指摘を待つまでもなく、西側社会が中国の大国化に不安を抱いているのは間違いない。中国の指導者が西側指導者とは違う異質の統治システムを持ち、その政策や方針が西側世界と相容れないことが多いからだ。この中国が世界最強になった場合、世界は如何なることになるのか、西側社会に不安が生じるのはやむを得ない。最近も尖閣諸島をめぐって、国際慣例を無視した中国の粗暴な対応が日本を混乱させるだけでなく、西側社会全体に懸念を生んでいる。

尖閣諸島問題では、中国は9月末今後に問題を残しかねない2つの基本方針を明らかにした。1つは、9月末公刊の2010年版外交白書で「国境と海洋」の項目を新設、領土権益を国家の核心的利益と位置付けたこと。もう1つは9月27日、胡錦濤国家主席が訪中したロシアのメドベージェフ大統領と共同声明に調印、「第二次世界大戦の結果を歪曲することに反対し、領土保全で協力する」と宣言したことだ。中ロが尖閣諸島や北方領土問題で協力すると約束したのだ。

メドベージェフ大統領はこの1ヶ月後の11月1日北方領土を訪問した。また、中国は9月28日、外務省の馬朝旭報道官が声明を発表、「米国が尖閣諸島を日米安保条約の適用範囲に入れている」ことを強く非難した。そして「冷戦時代の日米安保条約が中国はじめ第三国の利益を侵すことを許さない」と強調した。この前日、前原外相とクリントン国務長官がハワイで会談、クリントン長官が「尖閣諸島は日米安保条約の適用範囲」と発言したことに反論したのだ。


・中国の狙いは日本の背後にいる米国

 中国がクリントン国務長官の発言を非難したことには理由がある。中国は現在の尖閣諸島をめぐる問題は、第二次世界大戦直後の米国の恣意的な行動に起因すると見ているからだ。05年2月23日付けの人民日報は中国社会科学院日本研究所の孫伶伶博士の研究論文を引用、この件について中国側の見解を伝えている。この人民日報の記事によれば、尖閣諸島は「中国が14世紀に発見、清の時代には魚釣嶼諸島と命名して、台湾に付属する島々として管轄していた」という。

 これに対し、「日本は1895年1月、日清戦争に乗じた閣議決定によって尖閣諸島を占領。さらに同年4月、日本は日清戦争の講和条約によって台湾付属の島々とともに尖閣諸島を割譲させた」という。しかし、第二次世界大戦後、「日本はポツダム宣言に基づいて台湾とともに尖閣諸島も返還しなければならなくなった。ところが、米国は琉球諸島(沖縄)を信託統治(ママ)する際、尖閣諸島を密かに琉球諸島の一部に編入し、その後71年の沖縄返還協定で日本に返還した」というのだ。

 一方、日本政府は「尖閣諸島は1895年1月、清の支配が及んでいないことを確認して日本に編入した領土で、日清戦争の講和条約で割譲を受けた領土ではない。従って、日本が戦後放棄するべき領土には含まれない」という見解だ。戦後、米が琉球諸島を軍政下に置いた際、その範囲に尖閣諸島を含めたのはこの日本の主張に基づいている。しかし、人民日報は「米が密かに」尖閣諸島を琉球諸島の一部に入れたと主張、この米の恣意的な行動が現在の紛争を生んだと強調している。(次回に続く)


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