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ヒラリー・クリントンを大統領にする動き再燃
持田直武 国際ニュース分析

2010年11月1日 持田直武

中間選挙が終わると、米国民の関心は12年の大統領選挙に移る。焦点の1つはヒラリー・クリントン国務長官の動向だ。米マスコミ界の長老ボブ・ウッドワード氏は、オバマ大統領が2年後の再選にあたって同長官を副大統領候補に抜擢するという観測気球を飛ばした。2年後は副大統領、その4年後には大統領を目指すためという。


・マスコミ界の長老が挙げたアドバルーン

 ボブ・ウッドワード氏は現在ワシントン・ポストの編集主幹。1972年のウオーターゲート事件で頭角を現わして以来、米政治の中枢に食い込む調査報道の第一人者だ。その同氏が10月5日CNNテレビの番組で「オバマ大統領は12年の再選にあたって、クリントン国務長官を副大統領候補に抜擢し、バイデン副大統領を国務長官にする可能性がある」と発言した。政界の内幕に通じたマスコミ界の長老が以前から囁かれていたクリントン・バイデン交替説に言及したのだ。

 ウッドワード氏は9月下旬、16冊目となるノンフィクション「オバマの戦争」を出版したばかり。同氏によれば、この取材の過程で「クリントン長官のアドバイザーたちがクリントン・バイデンのポジション交替を現実的な可能性として検討している」ことがわかったと述べた。同氏は、こうした動きが出る背景として「オバマ大統領の再選を実現するには民主党を一本化し、クリントン長官の支持層である女性や中南米系住民の票を取り込む必要があるためだ」と指摘している。

 また、ウッドワード氏はもう1つの背景として「海外ではクリントン国務長官を将来大統領になる政治家と見做して対応する例があり、その面の影響力も無視できない」とも述べた。クリントン国務長官は現在63歳。このクリントン・バイデン交替案が実現し、12年選挙で民主党副大統領候補になれば、次の16年選挙で大統領候補になるのはほぼ確実。当選すれば、就任時に69歳3ヶ月だが、これは69歳11ヶ月の過去最高齢で就任した共和党レーガン大統領よりまだ若いという。


・ホワイトハウスは完全否定の姿勢だが

 このウッドワード氏の観測気球に対し、オバマ大統領陣営は潰しにかかる。同氏の発言の翌日、ホワイトハウスのギブズ報道官はCNNテレビで「ホワイトハウス内では、誰もクリントン・バイデン交替案など検討していない」と否定しようとした。だが、これは十分な否定ではなかった。ウッドワード氏は「クリントン長官のアドバイザーが検討している」と発言したのに対し、報道官は「ホワイトハウス内では誰も検討していない」と述べた。これはウッドワード氏発言を否定したことにならない。

 このためか、12日になってバイデン副大統領はニューヨーク・タイムズの記者とのインタビューの際、終わり際になってさりげなく「オバマ大統領から『次の選挙でも一緒に組まないか』と言われ、『組めたら嬉しい』と答えた」ことを明らかにした。しかし、バイデン副大統領はこの大統領との会話が何時行われたのかについては触れなかった。いずれにしても、クリントン・バイデン交替案をめぐって、オバマ陣営とクリントン陣営の間で水面下の駆け引きがあることがわかる。


・背景にオバマの再選不可能の危機感

 このような動きが出る背景には、最近のオバマ大統領の支持率低下がある。ギャラップ世論調査所が最近実施した調査結果では、オバマ大統領の支持率は40%前半。同大統領の再選を支持する国民は39%に対し、再選を支持しない国民は54%。歴代大統領の中では1994年中間選挙当時のクリントン元大統領と並ぶ最低水準となった。クリントン元大統領も低支持率が祟って中間選挙では大敗北を喫したが、選挙後に急速に支持率を回復し、96年の再選を果たすことができた。

 その原因の1つが、急回復した景気だった。92年クリントンが大統領に当選した年、景気は最低の状態で失業率は7.7%とピークだった。94年中間選挙時には、まだその影響が残ったが、その後急速に回復しクリントンが再選を迎えた96年には、失業率は5%を切る直前まで回復した。80年代のレーガン政権の構造改革で効率化が進んだことや、冷戦終結の結果、軍事予算が軽減。その結果の景気回復で税収も増加し、念願だった連邦予算を均衡予算とする見通しも立った。

 オバマ大統領も中間選挙時の低支持率でクリントン元大統領と並ぶが、問題は今後オバマ大統領もクリントン元大統領と同じように支持率を上げ、再選を確保できるかだ。 それには、クリントン元大統領当時と同じ経済の回復が望めるかにかかってくる。現在の失業率は9.6%、連邦予算の赤字1兆ドル。クリントン時代には冷戦終結とレーガノミックスの構造改革という置き土産があったが、今回それはない。クリントン国務長官を副大統領に据える交替案はそれに替わる力を持つだろうか。


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