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人類は地球温暖化を阻止できるか
持田直武 国際ニュース分析

2010年1月10日 持田直武

国連加盟国は1992年、気候変動枠組み条約で温暖化を防ぐ対策を取ることに合意した。しかし、温暖化対策が経済成長を阻むとの懸念や、先進国と途上国の対立がこれにからみ、先月開催した締約国会議COP15は京都議定書以後の削減枠組みを作れなかった。各国とも人類の未来が大切なことはわかっているが、国益擁護が先に立つのだ。


・中国はじめ途上国は経済成長優先

国連加盟国は1992年、気候変動枠組み条約に調印した。地球温暖化の原因は人間社会が排出する炭酸ガスなど温室効果ガスによるものと断定、加盟国が温暖化を阻止するため、温室効果ガスの削減に協力することで合意したのだ。そして97年の京都議定書で各国が温室効果ガスを削減するための具体的枠組みを決めた。COP15はこの京都議定書の期限が切れる13年以降の枠組みを決める予定だった。しかし、合意文書を採択できず、コペンハーゲン協定という任意参加の協定を残して終わった。 

 COP15がこのような結果になった理由の1つは、温暖化対策が経済成長を阻む要因になるとの強い懸念があるためだ。中国やインドなど最近目覚しい経済成長を見せている途上国ほどこの懸念が根強い。これら途上国から見れば、温暖化は産業革命以後、先進国が富を築くため大量の化石燃料を燃やし続けたのが原因である。そこで、これら途上国は先進国側がまず温室効果ガスを削減するべきだと主張する。先進国が途上国に削減を要求するのは、それによって途上国の経済成長を抑え、先進国の従来からの優位を守ろうとする陰謀であるとさえ主張する。

 先進国側はこの途上国の姿勢に強く反発する。ニューヨーク・タイムズは12月21日、英国の作家で温暖化問題に詳しいライナス氏の言葉を引用、「発展途上国は先進国と同じレベルまで地球を汚染する権利を要求している」と伝えた。ロイター通信も、中国外務省高官がCOP15閉会後「会議は発展する権利をめぐる攻防だった」と語ったと伝えた。米英など先進国内には、中国がこうした途上国側の主張を掲げて米やEUと渡り合い、京都議定書以後の枠組み作りを阻む役割を演じたという見方が多い。


・経済への影響する懸念は先進国も同じ

 日本でも、COP15が合意できなかったことに対し、むしろよかったという意見がある。12月19日のCOP15閉幕後5日間に朝日新聞のブログに寄せられた意見22件のうち、7件が合意しなくてよかった。不満は6件、その他が9件だった。合意しなくてよかったとする理由は、鳩山首相が提唱した90年比25%の温室効果ガス削減が決まった場合、日本経済は破滅的打撃を受けるという主張などだった。

 経済面への影響を懸念する点では、米国も同じような動機を抱えている。12月21日付けのフィナンシャル・タイムズによれば、オバマ大統領はCOP15出席前「中身のない取り決めなら、しない方がよい」と発言、COP15で結果を出すことに期待する立場を示した。ところが、COP15は合意文書が出せず、各国が任意参加するコペンハーゲン協定になった。それにも拘わらず、オバマ大統領は「重要な突破口になった」と評価した。この一見矛盾した発言は多分に議会の動きを意識したものだ。

 米議会は、国際取り決めが米の政策、特に経済活動を制約することを極端に嫌う。京都議定書についても、クリントン政権は調印したが、ブッシュ前大統領は就任早々に離脱を宣言した。米は同議定書で7%の温室効果ガスの削減義務を負う内容だったが、議会保守派が国家主権の侵害として強く反対し、批准を4年間も棚上げし、実施はもともと無理だった。今回、COP15が削減義務を決め、オバマ大統領が調印したとしても、議会が承認するとは限らなかった。


・米議会は市場原理重視の温暖化対策

 実は、米議会には現在有力な2つの温暖化防止法案が提出されている。1つは、キャップ・アンド・トレード方式と呼ばれるもので、大統領と議会が国の温室効果ガス排出総枠の上限を決め、同時に企業などの排出上限も決めて、過不足分を売買するという内容。特徴は、過不足分の売買にウオール街の参入を認め、資金の流入で削減へのインセンティブを与え、関連の温暖化ビジネスの活性化をねらっている。

 もう1つは、キャップ・アンド・ディビデンド方式と呼ばれ、石油や石炭、天然ガスなど化石燃料を販売する企業が政府発行の販売許可証を購入、政府はその許可証の販売総額の4分の3を毎月国民に配当金として配分するという内容。その結果、企業は販売許可証の購入費を価格に転化するが、国民は1人が年間約1,100ドルの配当金を受けるため、この配当で価格上昇分を賄うという仕組みである。

 法案は2つとも、米経済の基本理念である市場原理に基づいて温室効果ガスの削減を図るという点で共通している。2つのうち、キャップ・アンド・トレード方式はすでに6月に下院を通過、現在上院の審議にかかっている。今後、どのような形で採択されるか予測できないが、成立すれば、削減の総枠を決めることになる。今回COP15が各国の任意参加によるコペンハーゲン協定に留まったにも拘わらず、オバマ大統領が評価する発言をしたのは、こうした議会の動きを意識したためだったろう。


・南の島国は早期の対策を訴える

 国際エネルギー機関(IEA)の10月の発表によれば、07年の温室効果ガス排出量の1位は中国で21%、2位は米国で20%、3位はEUで13%、4位はロシアとインドで5%、6位は日本4%。米中両国で実に40%を超えている。上記の英国作家ライナス氏は、この2大排出国の国家エゴ優先の振る舞いは冷戦時代の米ソが核軍拡を競った「MAD(相互確証破壊)の論理を思わせる」と主張する。当時、米ソ双方はお互いに相手を確実に破壊するため同じレベルまで核兵器を競争で作り続けた。

 このような動きは気候変動枠組み条約の趣旨とは相容れない。温暖化が人間社会の活動と密接にからむもので、簡単に解決できないことは言うまでもない。インド洋上の島国モルディブのナシード大統領はCOP15の総会で「我々は、炭素は要らないが経済発展したい。石炭は要らないが電気は欲しい。石油は要らないが車が欲しい」と演説した。人間社会が抱え込んだ温暖化問題の難しさを象徴するような演説だった。

 しかし、人間社会はこの難問に答えを出さなければならない。南太平洋の島国ナウルのステヘン大統領は「我々は四方を太平洋に囲まれている。海面の水位が上がっているが、我々はここから出て行く所がない」と演説、答えを早く出すよう訴えた。こうした問題は島国など地球上の一部地域の出来事と今は受け取られているが、このまま温室ガスを出し続ければ、やがて人類の誰もがその被害を蒙ることになるのは間違いない。


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