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イランが核開発をする理由
持田直武 国際ニュース分析

2010年2月21日 持田直武

イランがミサイルに搭載する核弾頭を開発している疑いが強まった。イランのシャハブ3型ミサイルはイスラエルや欧州の一部にも届く。米欧は体制変革も視野に入れて経済制裁をする構えだが、今のところイランが屈する気配はない。


・ミサイル頭部の改良や起爆装置の実験も

 IAEA(国際原子力機関)の天野事務局長は18日の報告書で「イランがミサイルに搭載する核弾頭を開発している疑いがある」と指摘した。その根拠として「イランが核関連技術を海外から購入した疑いがあることや、ミサイルの頭部を改良して重い弾頭を搭載できるようにしたほか、高性能起爆装置の開発などもしている疑いがある」と指摘している。そして、IAEAが「これら疑惑について情報提供を要求したのに対し、イランは応じていない」とイランの態度を非難した。

 この報告書は3月1日からのIAEA理事会で検討するが、事務局長が疑惑の存在を報告書で指摘するのは初めて。イランの核兵器開発については、米ブッシュ政権が07年12月のNIE(国家情報評価)で、「03年に停止した」との判断を示していた。しかし、最近米国やEUなどからこの判断を見直す動きが出ていた。今回のIAEA報告書はこの米の判断にも間接的に言及、「疑わしい活動は04年以後も続いていた」と述べて、03年に核開発を停止したとの見方を覆した。

 また、報告書はイランが現在3.5%の低濃縮ウランを2056kg、核弾頭2個を製造できる量を保有。その一部を濃縮率20%にまで再濃縮する作業を始めたことも明らかにしている。核弾頭を搭載するミサイルについても、イランは08年7月射程2000キロのシャハブ3型ミサイルの発射実験に成功。現在射程1万キロのシャハブ6型ミサイルの開発に取り掛かっている。シャハブ3型はイスラエルや東欧の一部、シャハブ6型は欧州から米本土まで射程内に収めることになる。


・アフマディネジャド大統領の含みある発言

 今回のIAEAの報告に対し、イランの最高指導者ハメネイ師は19日「我々は核兵器を作る積もりはない」と真っ向から否定した。アフマディネジャド大統領も否定はしたが、発言には含みがあった。同大統領は11日のイラン革命記念日の集会で演説し、「イランは核兵器を作る積もりはない。しかし、作る積もりになった時は、作ると宣言して製造する」と述べた。イランが秘密裏に進めている作業は、核兵器を作る積もりになった時に備えているものと見られても不思議ではない。

 こうした見方が広がる背景には、アフマディネジャド大統領を支える革命防衛隊が勢力を増している状況がある。16日のワシントン・ポストによれば、革命防衛隊は最近2年間に政府の契約事業を少なくとも60億ドル獲得、ミサイル開発やテヘラン空港の運営、通信システム整備、道路建設などにも勢力を拡大したという。去年6月の大統領選挙以後、同派がアフマディネジャド大統領を支える立場を固めたのは明らかで、今後核兵器開発を進める場合大きな推進力になるとみられている。


・オバマ政権は体制変革を狙う

 このイランの動きに対し、米オバマ政権は3月を目処に国連安保理による追加制裁を科す方向で動いている。オバマ政権で安全保障を担当するジョーンズ大統領補佐官は15日のフォックスTVで「制裁がイランの体制変革につながることを期待している」と語った。オバマ政権内に核開発を阻止するには現在のイラン政権を倒すしかないとの考えがあることを示している。最近、ロシアがこれまでの姿勢を変えて米欧に協調する動きを見せていることも米を勇気づけている。

 米国内の世論もオバマ政権が強く出ることを支持している。19日のCNNニュースの調査によれば、イランがすでに核兵器を持っていると考える米国民は71%、イランに対する軍事行動を支持する国民が59%に上った。オバマ政権としては強硬姿勢を示さざるをえない立場になったのだ。国連制裁は06年の第1回以来すでに3回科し、今回科せば4度目となる。過去3回の制裁は狙った効果を挙げたとは言えなかったが、今回はそれでは済まないに違いない。

 オバマ大統領は08年の選挙戦で「独裁国家の指導者との対話」を掲げて当選したが、現状では実現の可能性はない。むしろ対話に代わって、オバマ大統領の対抗馬だったクリントン国務長官の主張、「イランがイスラエルを攻撃すれば、我々はイランを抹殺する」という強硬路線が浮上しかねない状況になった。新たな制裁が発動になれば、イランが「目には目を」の対決姿勢を取り、核開発を推進するのは明らかで、当面緊張が拡大することになるだろう。


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