メインページへ戻る

南北首脳会談開催の条件
持田直武 国際ニュース分析

2010年2月14日 持田直武

韓国と北朝鮮が首脳会談開催を目指して交渉を進めている。双方の関係者が昨年後半から接触を重ね、議題を検討した。韓国側は開催の条件として、北朝鮮が開催合意文の冒頭に非核化を明記するよう要求。しかし、北朝鮮は核問題の進展という表現を主張して折り合わなかったという。


・李明博大統領は年内開催の可能性に言及

 李明博大統領は1月28日、訪問先のスイスで英国BBCテレビのインタビューに応じ「いつとは断定できないが、年内に金正日総書記に会えるのではないかと思う」と語った。翌日米CNNテレビとのインタビューでも同じ趣旨の発言をした。またCNNのインタビューでは「北朝鮮が核を放棄すれば、我々は体制保障と経済支援をすると提案している。北朝鮮がこれに答える時期が近づいたと思う」と述べた。同大統領が北朝鮮問題でこのような楽観的な発言をするのは初めてだった。

 韓国と北朝鮮が首脳会談を目指して交渉していることは、韓国のメディアがこれまでにも伝えていた。きっかけは、昨年8月に亡くなった金大中元大統領の葬儀だった。同葬儀に出席した北朝鮮弔問団の団長、金己男労働党書記が李明博大統領を表敬訪問、首脳会談を提案する金正日総書記の口頭メッセージを伝えた。その結果、韓国の任太熙労働相と北朝鮮の金養建労働党統一戦線部長が10月半ばシンガポールで会談。そのあと、開城でも双方の代表が11月半ば2度にわたって会談した。

 そしてシンガポール会談で、09年中に首脳会談を開催することで基本合意。次の開城の会談では、首脳会談の議題を検討した。2月1日の朝鮮日報(電子版)によれば、この開城会談で、韓国側は首脳会談の議題として「北朝鮮の核問題と韓国軍捕虜・拉致被害者の問題、それに人道支援」の3項目を提案したという。その上で、韓国側は首脳会談の開催合意文の冒頭に「北朝鮮の非核化」を明記することを要求した。だが、北朝鮮はこれを受け入れなかった。


・核問題は米国と交渉するとの建前変えず

 開城会談に出席した北朝鮮代表は統一戦線部の元東淵副部長だった。同副部長は07年の南北首脳会談でも北朝鮮側の合意文草案を作成。今回も事前に準備した合意文草案を携行していた。韓国側が非核化の文言を合意文冒頭に入れるよう要求したのに対し、同副部長はこれを拒否。北朝鮮として可能な表現は「核問題の進展」程度までと主張したという。そして、核開発の問題は米国と交渉して解決するという、北朝鮮のかねてからの建前を繰り返した。

 北朝鮮側の姿勢はこの他の問題でも、従来と変わった点はなかった。韓国軍の捕虜と拉致被害者の問題でも、韓国は大規模な送還を要求したが、北朝鮮は「故郷訪問以外は応じられない」としか答えなかった。また、人道支援の問題では、北朝鮮は食糧や肥料などの支援を首脳会談前に実施するよう要求。首脳会談で核問題や拉致問題が進展すれば、支援するという韓国側の主張と食い違いを見せた。結局、シンガポール会談で基本合意した09年内の主脳会談は実現しなかった。

 それから2ヵ月半後の1月末、李明博大統領が首脳会談の年内開催に楽観的な見通しを示した。北朝鮮が開城会談のあと韓国の立場に歩み寄ったのかという推測が出ても不思議ではない。同大統領は就任以来、北朝鮮の核放棄を前提に体制保障や大規模な経済支援をする、いわゆるグランド・バーゲイン(一括妥結方式)を提案している。同大統領はCNNのインタビューで「北朝鮮がこの提案に回答する時期が近づいたと思う」とも述べ、この面で進展があるかのような示唆もした。


・焦点は非核化の進展につながるか

 李明博大統領の楽観的な発言に較べ、韓国政府幹部はより慎重なようだ。鄭雲燦首相は5日の議会答弁で「北朝鮮が非核化に誠意を見せ、人道的な措置を取れば、時と場所を選ばず会談する」と述べた。韓国側の基本姿勢の枠から一歩も出ない説明だった。一方、朱豪英特別任命長官はメディアのインタビューで「北朝鮮が首脳会談を望んでいる。韓国側の原則に北朝鮮が同意すれば、年内に会談が実現する可能性が高い」と述べ、北朝鮮が会談を望んでいることを強調した。

 この韓国の動きに対し、北朝鮮は公式には何の反応も見せていない。しかし、韓国では、北朝鮮の経済的な困窮が首脳会談を望む背景にあるとの見方が強まっている。昨年の核実験やミサイル発射以来、国連制裁が強化されて外貨収入が激減。それに加え、昨年末の通貨改革の失敗で国内経済の混乱が拡大しているという。北朝鮮が最近金剛山の観光事業再開や朝鮮戦争で行方不明になった米兵の遺体発掘作業の再開などを提案しているのは、いずれも外貨の獲得が狙いとみられている。

 李明博大統領が就任して丁度2年、この間、金大中政権以来10年続いた北朝鮮との協調関係は消滅した。李明博大統領が予言するように首脳会談を年内に開催できるとすれば、南北関係を新たにスタートさせる良い機会となる。その場合、李明博大統領がかねてからの主張どおり、非核化を大前提とする協力関係を築くことができるのかが焦点だ。それには、北朝鮮の協調も必要である。同大統領が首脳会談に関して楽観的な発言をした背景が気になるところだ。  


掲載、引用の場合はこちらからご連絡下さい。


持田直武 国際ニュース分析・メインページへ

Copyright (C) 2010- Naotake MOCHIDA, All rights reserved.