メインページへ戻る

米国の草の根に広がる反オバマ運動
持田直武 国際ニュース分析

2010年3月14日 持田直武

オバマ大統領が変化を掲げて就任して1年余。この間、米国各地にティーパーティ運動という草の根運動が広がった。参加者の主張の共通項は、反税金。中でも、オバマ政権の巨額な赤字予算が批判の標的だ。この勢いが続けば、オバマ大統領は今年11月の中間選挙で苦しい立場に立つのは間違いない。


・米議会に反税金のシンボル、ティーバッグを郵送

 米国は4月15日が税金の確定申告締切日で、この日を税金の日と言う。だが、去年の4月15日は確定申告に加え、もう1つの出来事で記憶される日となった。反税金を掲げるティーパーティ運動が全米750箇所で集会を開き、50万人が参加したのだ。ティー(紅茶)は米独立戦争の遠因となったボストン茶会事件以来(注)、反税金のシンボルだ。これまでにも、税金の日に紅茶やティーバッグを掲げて反税金を訴える集会はあったが、去年のような全米規模の集会は初めてだった。

 きっかけはオバマ大統領が就任した09年1月20日の前日、インターネットのフォーラムに「ティーバッグを議会に送ろう」という呼びかけが出たことだった。米議会が金融危機収拾のため巨額の追加予算を可決したことに抗議するためだ。金融危機はウオール街が引き起こしたもの、その救済に国民の税金を使うのは許せないというのだ。この呼びかけに賛同する動きが広がり、追加予算に賛成した上下両院議員全員に2月1日を期して一斉にティーバッグを郵送した。

 この動きがその後インターネットの枠を超えて拡大する。09年2月11日には、フォックス・ニュースTVが初めて朝のニュース・ショーで取り上げた。オバマ新政権のガイトナー財務長官が破綻寸前の金融機関を救済するため、ブッシュ前政権時代の金融救済法の基金3000億ドルを転用すると発表した日だった。ニュース・ショーはこの問題を取り上げ、出演した同TVのビジネス担当キャスターがティーバッグの束を示して、「ティーパーティの時が来た」と解説した。

(注)ボストン茶会事件 1773年12月16日、ボストン港でインディアンに仮装した植民地人グループが英国船に侵入、積荷のインド産紅茶を海に投げ捨てた事件。投げ捨てる時、「これは英国王ジョージ3世のティーパーティだ」と叫んだので、茶会事件と言うとの説がある。当時、英国議会は英仏戦争の戦費などを調達するため大陸植民地が輸入する紅茶や紙など日用品にまで課税。植民地人は英国議会に代表を送る権利を認められていないにも拘わらず、税金をかけるのは不当として「代表なくして課税なし」を合言葉に抗議。抗争は激化して独立戦争に発展した。



・全米の草の根に広まる

 このニュース・ショーが放送された前日の09年2月10日、フロリダ州フォートマイヤーズでティーパーティ運動の野外集会が開かれた。会場のタウンホール前に集まったのは10人、あるいはわずか6人だったとも言われるが、ティーパーティ運動としては全米で初めての野外集会だった。会を主催したのは地元の草の根活動家メアリー・ラコビッチという女性。彼女は地元記者のインタビューに答え「開催前フリードムワークスという組織の指導を受けた」と明かした。

 フリードムワークスはワシントンに本部を置くNPO組織で、共和党のアーミー元下院院内総務が会長。ラコビッチさんによれば、同組織の専門家から集会前に2時間半にわたって支持者の集め方などについて指導を受け、集会ではオバマ大統領に焦点をあてないようにと特に念を押されたという。共和党はティーパーティ運動と直接関わりはないとの立場だが、フリードムワークスのような共和統系の組織が最初から運動の背後で動いていたことが分かる。

 ティーパーティ運動はこの09年2月10日のラコビッチさんの集会のあと爆発的に拡大する。16日にはシアトル、17日にはデンバー、18日にはアリゾナ州メコ市と集会が続き、27日には全国48箇所に広がった。そして、現在も米国各地で毎週集会が開かれている。今年は11月2日投票の中間選挙があり、改選を迎える議員や知事、地方自治体の首長の予備選挙がすでに始まった。ティーパーティ運動はこれと並行して米国全土を巻き込む運動になりそうだ。


・オバマ大統領の足元を揺るがす

 オバマ大統領は08年選挙で無党派層を動員して当選した。中心になったのはこれまで投票したこともない都会の若者たちだった。ティーパーティ運動はこれとはまったく違う層が支えている。今年2月のCNNの調査によれば、同運動に献金し、集会に参加している積極的支持者は11%。内訳は男性が60%、半分は地方に住み4人のうち3人は大学卒。そして87%が11月の中間選挙で、第3の政党がなければ共和党に投票すると答え、共和党にも一定の距離を置いている。

 このためティーパーティ運動の中から第3の政党が名乗り出るとの見方もある。集会で共和党に対する不満が出ることもしばしばあるからだ。オバマ政権の医療制度改革に賛成した共和党議員を「名ばかり共和党員」と呼んで非難する集会参加者もあった。しかし、ティーパーティ運動全体の方向は、反税金を共通項にし、その上で、オバマ政権が打ち出した経済危機対策や医療保険改革に反対する立場で動いており、今後この路線から大きくはずれることはないとみられる。

 中間選挙では連邦議会の上院議員の3分の1、下院議員の全員、それに任期の切れる州知事と州議会議員、地方自治体の首長などが改選を迎える。ティーパーティ運動は現在まで民主、共和両党のどちらを支持するか明らかにしたことはない。しかし、各地の集会のゲスト・スピーカーは、共和党のペイリン前副大統領候補はじめ共和党関係者が圧倒的だ。今の趨勢が続けば同運動が掘り起こす票の大半は共和党に流れるのは必至。オバマ大統領には手痛い打撃となるだろう。


掲載、引用の場合はこちらからご連絡下さい。


持田直武 国際ニュース分析・メインページへ

Copyright (C) 2010- Naotake MOCHIDA, All rights reserved.