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米大統領選挙 揺れるオバマ大統領の再選
持田直武 国際ニュース分析

2011年10月2日 持田直武

オバマ大統領の再選に黄信号が灯りだした。景気の低迷が長引き、失業率は9%台に高止まり。回復は遅れ、有権者は1年後の投票日を不況下で迎えるという見方が強まった。3年前、無党派の若者たちが小額の献金を積み上げて米国初の黒人大統領実現に貢献した。今その熱気は薄れ、献金の額も減っている。


・大統領の再選を脅かす景気の低迷

 近年の米大統領が景気低迷下で再選された例はまだない。1976年の選挙で落選したフォード、80年選挙で落選したカーター、92年選挙で落選したブッシュ(父)の各大統領はいずれも景気が低迷する中で投票日を迎えた。これに対し、オバマ大統領の場合、投票日の景気は悪くないという楽観的見通しだった。ホワイトハウスが今年2月に発表した予算教書は「11年度のGDP成長率は2.7%、12年度は3.6%」とかなり高い成長率を見込んでいた。リーマン・ショックの後遺症は12年度にはほぼ消滅、12年11月6日の投票日には景気が回復しいているとの見通しだった。

 ところが、この見通しは夏の間に急変する。ホワイトハウスは9月2回にわたって予算教書の景気予測を下方修正。11年度の成長率を1.5%、12年度を2.5%に下方修正する。失業率についても、2月の予算教書では11年度9.3%から12年度には8.3%に下落すると予測していた。しかし、9月の修正で11年度9.1%、12年度も9.0%で失業率高止まりの状況が続くという見通しになった。確実とみられていたオバマ大統領の再選に疑問符が付いたのだ。


・大統領再選に立ちはだかる共和党

 オバマ大統領も手をこまねいていたわけではない。景気刺激策をはじめ数々の対策を打ち出したのだが、下院で多数を占める共和党がそのほとんどを葬るか、棚上げしてしまった。同大統領が9月12日に議会に提示した4470億ドルの「雇用創出法案」もその1つである。オバマ大統領は法案の提示に先立って議会の上下両院合同会議で異例の演説をし、この法案の意義を与野党にアッピール。共和党のベイナー下院議長もこの席では「検討に値する」と好意的な反応だった。

 ところが、ホワイトハウスがこの演説内容を法案化し「雇用創出法案」として議会指導部に提示すると、共和党の態度が変わった。法案を実施した場合の財源4470億ドルの多くを富裕層などに対する増税で賄うことになっていたからだ。オバマ大統領は議会の演説で増税には一言も触れず、雇用を創出した企業への優遇税制や建設、教育部門の雇用拡大だけを強調した。共和党側は反発、「検討に値する」と評価したベイナー下院議長も態度を変えた。共和党は増税反対の議員が多数で、中でも草の根運動ティー・パーティ系の議員会派は増税反対で結束している。共和党が反対すれば、「雇用創出法案」が審議されることさえ難しくなる。

 米議会は各議員が法案の提案権を持っている。議員が法案を作成して議会に提出、これを与野党の院内総務が協議して審議するかどうか決める。ただし、決定権は多数党の院内総務が握っている。「雇用創出法案」の場合、ホワイトハウスが原案をつくり、下院はラーソン民主党議員会長が提出、上院はリード民主党上院院内総務が提出した。しかし、審議についての見通しは立っていない。オバマ大統領は法案の早期成立が国民に対する義務だと主張しているが、共和党が審議に応じたとしても増税を含む法案が成立する可能性はまずないとみられている。


・争いは来年の選挙が終わるまで続く

 「雇用創出法案」に見られる民主、共和両党の対立は昨年11月の中間選挙で共和党が下院の多数党になったあと際立ってきた。同選挙でティー・パーティ運動が支援した共和党議員が下院の主導権を握り、共和党幹部も同運動が主張する「小さな政府」、「政府支出削減」「増税反対」などの原則を無視できなくなった。「雇用創出法案」の場合も、共和党幹部は法案に増税が盛り込まれれば支持しないと事前に宣言していた。これに対し、オバマ大統領も富裕層に対する増税というかねてからの主張を変えなかった。民主、共和両党が来年11月の選挙を意識し、妥協できなくなっているのだ。

 来年の選挙では、正副大統領はじめ上院議員の3分の一、下院議員全員、地方自治体の首長と議員など、任期が来た公選公務員全員が選挙の洗礼を受ける。注目されるのは大統領選挙だが、今回は同時に下院議員選挙でティー・パーティ系の議員がどのような審判を受けるかも注目されている。同系の共和党議員は下院で80人余り、選挙の投票日は11月6日だが、その前に共和党の予備選挙で勝って党候補の指名を確保しなければならない。増税を含む「雇用創出法案」を支持したなどティー・パーティ運動の主張と相容れない記録が判明すれば、勝つことはできないに違いない。オバマ大統領の要請を受け入れて妥協すれば、議員生命を失いかねないのだ。9月28日のワシントン・ポスト(電子版)は「超党派の協調体制は死んだ。選挙が終わるまで協調はないだろう」と題する論評を掲載した。


・熱気が消えたオバマ支持の無党派層

 オバマ大統領が再選を1年1ヶ月後に控え、苦しい立場に立ったのは間違いない。米社会は9.1%という高い失業率に苦しみ、ギャラップ世論調査所の調査結果ではオバマ大統領の支持率は41%と低空飛行が続く。ワシントン・ポストの調査では「米国人の77%は米国が誤った方向に向かっている」と考えている。3年前、無党派層の若者たちがインターネットを駆使して10ドル、20ドルの小額献金を積み上げ、米国初の黒人大統領実現に貢献した。あの熱気は今はない。オバマ大統領の選挙対策本部が集める献金も4月からの3カ月間は8600万ドルだったが、7月からの3ヶ月間は約5500万ドルに減ったという。

 オバマ支持の無党派層に代わって登場したのが、保守系のティー・パーティ運動だ。全国の草の根を巻き込み、オバマ大統領を「大きな政府」の権化と決めつけ、打倒を叫んでいる。オバマ選対本部のアクセルロッド上級顧問は27日の記者会見で「前回の選挙では追い風に乗ったが、今回は向かい風に苦しんでいる」と語った。向かい風の1つがティー・パーティ運動だろう。この逆風の中で、オバマ大統領に幸いするものを1つ挙げるとすれば、力のある共和党の大統領候補が現れないことである。共和党の大統領候補はペリー・テキサス州知事はじめほぼ出揃ったが、共和党員の多数が満足する候補がいない。オバマ陣営も揺れているが、共和党も決して強い立場ではないのだ。


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