メインページへ戻る

朝鮮半島の緊張再燃 焦点は有事の核
持田直武 国際ニュース分析

2011年3月6日 持田直武

中東情勢が朝鮮半島に影を落としている。北朝鮮はリビアの実力者カダフィ大佐が核放棄をしたことが現在の窮地を招いたとみて核への執着を強めている。一方、米韓両軍は有事の際、特殊部隊を北朝鮮に侵入させて核兵器を撤去する演習を始めた。緊張が高まる中、韓国国内では核武装論が台頭している。


・北朝鮮はカダフィ大佐の核放棄を失敗とみる

 カダフィ大佐が最後のあがきを見せている。外国人傭兵を使って民主化要求のデモを実弾で鎮圧、逃げ残った首都住民に分厚い札束を与えて支持者に仕立てあげている。権力維持のためには手段を選ばないのだ。同大佐は8年前、核の放棄を決断して国際社会の賞賛をあびた。歴史に「もし」はないが、あの時、核を放棄しなかったら、今どうなったか。ニューヨーク・タイムズ(3月1日電子版)は米政府高官の見方として「同大佐は権力の座を維持するため核を使うと脅すだろう」と伝えた。

 米政府高官の間では「カダフィ大佐の核放棄はブッシュ政権の成果」として高く評価されている。ブッシュ政権が外交努力でカダフィ大佐を核放棄に追い込み、同大佐の切り札を奪ったとみるからだ。もし、失敗して、同大佐が核兵器開発を続けた場合、「世界は今頃悪夢を見ることになっただろう」という。カダフィ大佐が政権の座を維持するために「核兵器を振りかざして国際社会を脅迫するか、あるいは核物質や核技術をテロ集団に売るなどの行動に出かねなかった」とみるのだ。

 だが、カダフィ大佐は核放棄に応じた結果、今はどの行動もとれない。上記ニューヨーク・タイムズは「北朝鮮やイランは今の同大佐の姿をみて、核放棄は同大佐の致命的な失敗だったと結論づけるだろう」と伝えた。北朝鮮はかねてから、米は第一段階で北朝鮮の核放棄を実現し、第二段階で倒すことを狙うとして警戒してきた。カダフィ大佐はこの北朝鮮の主張が当てはまる典型的な例とみるに違いない。米は第一段階でリビアの核放棄を実現し、次の段階でカダフィ体制を倒すとみるのだ。


・北朝鮮は核兵器の使用も辞さず

 中東の混乱と軌を一にして、米韓両国は2月28日から2つの合同軍事演習を開始した。1つは、指揮訓練が目的の「キー・リゾルブ」で韓国軍約1万人と米軍2300人が参加。もう1つは、野外機動訓練の「フォール・イーグル」で韓国軍20万人と米軍1.5万人が参加。演習の一部は4月30日まで続き、米韓は公式には認めていないが、北朝鮮内部のクーデターや金正日総書記の突然の死去など有事を想定し、特殊部隊が北朝鮮に侵入して核兵器を撤去する訓練もあると言われる。

 また、韓国軍はこの合同軍事演習と並行して北朝鮮に大量のビラを散布する心理戦も展開している。ビラ散布は韓国の民間団体が情報統制下の北朝鮮住民に真実を知らせるとの目的で始めたが、韓国軍も昨年5月から参加。これまでに800万枚を風船などで北朝鮮上空に飛ばした。最近のビラでは、エジプトやリビアの反体制デモを取り上げ、北朝鮮の住民に「立ち上がれ」と訴えている。また、ビラとともに医薬品や下着類など日常生活の必需品もビラと一緒に飛ばしている。

 北朝鮮はこうした米韓の動きについて「わが国の急変事態を狙って体制崩壊を企む動き」と強く反発。北朝鮮軍の板門店代表部は27日の声明で、米韓の軍事演習が北朝鮮の核兵器を撤去する訓練も含むと言われることに言及し、「我々の核兵器を奪う演習に対し、我々は核抑止力で対決する」と強調。そして「米帝国主義者の軍事的占領体制(米韓安保体制)と逆賊輩徒の統治体制(韓国政府)を全面崩壊させるため総攻撃に出る」と表明して、初めて韓国も核攻撃の対象になることを明確にした。


・韓国内には北朝鮮に対抗する核武装論が台頭

 北朝鮮が強硬な姿勢を露わにする一方で、韓国の議会や新聞の論調には核武装論が台頭している。朝鮮日報によれば、2月25日の議会の代表質問で5人の議員が核武装を主張した。主張の1つは、北朝鮮に対抗して韓国も核兵器を開発するべきだという主張。もう1つは、米国の戦術核兵器の再持ち込みを促すという主張だ。一方、朝鮮日報(電子版)も3月1日の社説で「北朝鮮が核兵器を整然と積み上げていく一方で、韓国が丸裸でいることはできない」と述べ、核武装が必要だと論じた。

 これに対し、韓国政府は「核開発ではなく、外交努力で北朝鮮に核放棄を迫る」と答弁、これまでの立場を繰り返した。また、米国家安全保障会議のジェンセン副報道官も2月28日「米政府は韓国に戦術核兵器を再配備する考えはない。韓国の防衛に核兵器は必要ない」という声明を出した。しかし、ホワイトハウスの大量破壊兵器担当セイモア政策調整官は26日一部の報道陣に対し、「韓国が戦術核兵器の再配備を公式に要請すれば、米国は応じるだろう」という見解を明らかにした。

 韓国は91年12月、北朝鮮と非核化共同宣言に調印した。米政府も海外配備の戦術核兵器をすべて撤収していた。それから20年、韓国に核兵器はないが、北朝鮮は約10発の核兵器を保有し、さらに毎年1発ずつ製造することができるという。米韓の政府は外交努力で北朝鮮に核放棄を説得すると主張するが、北朝鮮が応じるとは考えられない。むしろ、カダフィ大佐が核を放棄して窮地に立った姿をみて同じ轍は踏むまいと核にますます執着するに違いない。丸裸の韓国があせりを募らせるのも無理はない。


掲載、引用の場合はこちらからご連絡下さい。


持田直武 国際ニュース分析・メインページへ

Copyright (C) 2011- Naotake MOCHIDA, All rights reserved.