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米大統領選挙序盤戦
持田直武 国際ニュース分析

2011年7月17日 持田直武

共和党が債務問題でオバマ大統領を窮地に追い込んだ。共和党を突き上げているのは保守系の草の根運動ティーパーティ。このまま深追いすれば、米政府は債務不履行に陥り、影響は米国に止まらず、世界が震撼する。オバマ大統領の再選はティーパーティの狙いどおり難しくなる。


・オバマ対ロムニーの対決か

 米大統領選挙の候補者がほぼ出揃った。民主党は現職オバマ大統領と社会運動家のランドール・テリー氏の2人、共和党はロムニー元マサチューセッツ州知事など16人。両党とも、来年1月から5月にかけて州ごとに予備選挙と党員集会を開催し、党の大統領候補を選出する。現時点では、民主党がオバマ大統領を党の大統領候補に指名するのは確実。これに対し、共和党はロムニー元知事が現状では優勢。この情勢が続けば、来年11月6日の投票日は、オバマ対ロムニーの対決となる。

 世論調査では、両者の支持率は拮抗している。ABC放送が6月2日から5日にかけて実施した世論調査によれば、選挙がオバマ大統領対ロムニー元知事の対決となった場合、ロムニー支持は49%なのに対し、オバマ支持は46%だった。しかし、この世論調査の1週間後にNBC放送とウオールストリート・ジャーナル紙が共同で実施した調査では、オバマ支持が49%、ロムニー支持は43%だった。差は僅差、オバマ大統領は現職の強みがあるとは言え安心できない状況だ。

 この背景には、オバマ大統領の経済政策に対する有権者の不満がある。同大統領は就任して2年半だが、経済はリーマン・ショックの後遺症を払拭できず、失業率は9%超に高止まり、財政赤字は3年連続1兆ドルを超える。5月には、債務総額が法定の上限14兆2,940億ドルに達した。議会が8月2日までに上限引き上げを議決しなければ、オバマ政権は債務不履行に陥るという危機的状況に追い込まれた。大統領選挙序盤戦が共和党主導で展開することになったのはやむを得なかった。


・債務削減をめぐる争い

 債務総額の上限引き上げをめぐる民主、共和両党の協議は5月から始まったが、主導権を握る共和党は上限引き上げの条件として、オバマ大統領が大幅な債務削減を約束するよう要求した。そして、その財源として高齢者への医療費補助など政府の財政支出を大幅に削減するよう主張した。医療費補助など社会保障費の恩恵に与かる高齢者は民主党支持者が多い。共和党の要求が実現すれば、オバマ大統領は民主党支持層への補助金を大幅に削減して、債務削減の費用にあてなければならなくなる。

 民主党がこれを受け入れるはずがない。民主党は債務総額の上限引き上げは無条件で議決するべきだと主張したが、共和党が条件付きを主張して譲らないため、民主党も債務削減策の対案を出した。民主党はその中で、医療費補助など社会保障費の大幅削減を拒否、代わりに富裕層への増税などで財源を確保するよう提案した。富裕層には共和党支持者が多い。民主党の提案は債務削減をする場合、共和党支持層に対する増税で債務削減の主要な財源を確保することになる。

 共和党がこれを受け容れるはずはない。特に選挙を控えた段階で増税には絶対反対だ。共和党内では民主党との協議の過程で保守派が次第に主導権を握った。そして、債務総額の上限引き上げに反対するだけでなく、「政府支出を削減し、予算に上限を設け、憲法を修正して均衡予算を法制化する」という憲法修正を提案。13日時点で共和党上院議員12人と下院議員36人が共同提案者として署名した。大統領候補に名乗りを上げた16人のうち、ロムニー元知事はじめ6人も賛成した。


・草の根運動ティーパーティの狙い

 この共和党の強硬姿勢は保守系の草の根運動ティーパーティの圧力抜きには考えられない。同運動は反税金を掲げる保守派の運動だったが、昨年11月の中間選挙で共和党の下院議員87人を当選させ、同党が下院の指導権を握るのに貢献した。その主張は共和党が掲げる「小さい政府」と同じで、政府支出を抑えることを基本とし、赤字国債や増税には反対する。今回の債務の問題についても、同運動の活動家は上限の引き上げや増税による財源の確保には絶対反対の立場を示している。

 ティーパーティ系の議員がこの立場に反する活動をするのは難しい。昨年当選した下院議員も来年11月の選挙でオバマ大統領とともに改選を迎える。選挙区の有権者は改選議員の議会活動をきびしく詮索するのは間違いない。共和党の指導部がオバマ大統領の提案に歩み寄ろうとしても、提案がティーパーティ運動の主旨に反する内容だった場合、同運動系の議員は指導部に協力しないに違いない。ワシントンの判断と草の根の世論の間に溝がある。債務問題が一向に解決しない理由の1つだ。

 とは言え、8月2日の債務不履行の期限は確実に近づいてくる。米格付け会社スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は14日、現在最高水準の米国債の格付け「トリプルA」を『ネガティブ(格下げ方向)』に見直したと発表した。米債権の大口購入国である中国外務省報道官は14日「米政府は投資家の利益を保証する責任ある姿勢を示すよう希望する」と釘を刺した。債務不履行になれば、影響は米国内に止まらず、世界経済を震撼させる。オバマ大統領の立場は揺らぎ、ティーパーティの狙いどおり、再選は難しくなる。


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