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米大統領選挙 共和党はロムニーで勝てるか
持田直武 国際ニュース分析

2012年4月22日 持田直武

ロムニー候補が共和党大統領候補の指名獲得を確実にした。同候補は元マサチューセッツ州知事で65歳。もともと穏健派だが、党候補の指名争いにあたって保守派に鞍替えした。いわば、なりすまし保守派だ。これで共和党保守派が結束できるか、民主党生粋のリベラル派オバマ大統領に対抗できるのかなど課題は多い。


・ロムニー支持層は拡大するが不安定

 米大統領選挙の投票日(11月6日)まで残すところ6ヶ月余、世論調査ではロムニー、オバマ両候補がほぼ互角、またはロムニー候補がやや優勢だ。4月19日のギャラップ世論調査所の発表によれば、ロムニー候補支持が48%、オバマ大統領支持43%で、ロムニー候補が5%リードしている。ロムニー候補が主要メディアの調査で同大統領を5%リードするのは初めて。ロムニー候補は4月10日に共和党大統領候補の指名獲得を確実にしたが、それ以来支持層が拡大したことがわかる。

 ギャラップはこの調査にあたって、有権者登録をした共和党員と民主党員、それに無党派(インディペンデント)の有権者合計2265人にインタビューした。その結果、共和党員の90%と無党派の45%がロムニー候補支持を表明。一方、民主党員の90%と無党派の39%はオバマ大統領を支持した。本選挙では、無党派中間層の支持確保が結果を左右するが、今回の調査ではこの分野でもロムニー候補が45%対39%でオバマ大統領をリードする形勢であることがわかった。

 ロムニー陣営に有利な形勢だが、懸念も多い。その1つとして、18日のニューヨーク・タイムズ紙(電子版)は共和党有権者の熱気の無さを指摘している。同紙の調査によれば、ロムニー候補を「熱心に支持する」と答えた共和党員は33%。「支持するが、迷いがある」と答えた有権者が37%に上った。中でも、キリスト教福音派など保守派の草の根組織の関係者にはこの傾向が顕著だという。背景には穏健派から保守派に転向したロムニー候補に対する不信感がある。


・ころころ変わったロムニー候補の政治信念

 ロムニー候補は穏健派から保守派に転向した結果、主要な問題に対する主張が正反対になった。米政界では政治家が言を左右にすることをフリップ・フロップ(flip-flop) と言って軽蔑する。特に選挙戦では相手候補を攻撃する絶好の材料となる。今回の選挙戦でも、オバマ陣営はロムニー候補の主張の変遷をフリップ・フロップとして最大の攻撃対象としている。同候補のヒップ・フロップ発言のビデオを集めて編集、コマーシャルにして流すのである。以下はそのコマーシャルの例。

その1、保守派が神格化してやまないレーガン元大統領についての評価の変遷。
1994年10月25日、ロムニー候補がマサチューセッツ州から上院議員に立候補、投票日2週間前。
「レーガン政権当時(1981−89)、私は無党派で関係がなかった。上院議員に当選してもレーガン時代に戻るようなことはしない」と述べ、レーガン大統領に距離を置く立場を示した。マサチューセッツ州に多いリベラル派の有権者を意識した発言だった。
ところが、それから16年後の2010年5月25日、今回の大統領選挙立候補を念頭においた発言。
「レーガン大統領が実施した政治原則は現在でも真実である」とレーガン大統領を賞賛。

その2、保守派が反対する人工妊娠中絶について。
2002年10月29日、ロムニー候補がマサチューセッツ州知事に立候補、投票日1週間前。女性有権者を意識した発言。
「女性が子供を産むか、産まないかを決める」と述べ、女性が中絶の権利を持つことを支持した。
ところが、それから5年後の2007年12月16日、08年の大統領選挙立候補を念頭においた発言。
「人間の生命を尊重する第一歩は人工妊娠中絶を禁止することだ」と述べ、女性の権利を否定。共和党大統領候補の指名獲得を目指し保守派の主張に変わった。

その3、オバマ大統領が推進する医療保険改革法の実施をめぐる発言。
2009年6月24日、CBSテレビのインタビューでの発言。
「オバマ大統領が進めている国民皆保険の制度は、私がマサチューセッツ州知事時代に実施したものと同じだ。オバマ大統領が私の制度を真似るのは良いことだ」と述べ、オバマ大統領が皆保険制度を推進することを評価した。
ところが、それから2年後の2011年10月18日、今回の大統領選挙への立候補を念頭においた発言。
「オバマ大統領の皆保険制度は良くない。私が大統領になったら撤廃する」と述べ、一転して同制度に反対している保守派に同調した。


・オバマ大統領に対抗できるのか

 ロムニー候補が4月10日、共和党の大統領候補の立場を確実にしたあと各社が世論調査を実施した。その結果、有権者の間に同候補の政治信念に対する疑念が強いことが浮き彫りになった。CNNの調査では、オバマ大統領は自分の信念に忠実と考えている有権者が50%に上るのに対し、ロムニー候補の場合29%と低い。そして、47%がロムニー候補は政治的理由で主張を変えると考えている。選挙戦でオバマ陣営が上記のようなビデオを流すことが効果を挙げているのだ。

 共和党の予備選挙はロムニー候補が党の大統領候補指名を確実にしたことで事実上終わった。同候補が保守派の政治理念を受け容れることによって党候補の座が決まったのである。同候補はこれまで穏健派として民主党リベラル派と同じ主張もあった。しかし、今は共和党保守派の中でも超保守の主張を展開している。この結果、本選挙は民主党生粋のリベラル派オバマ大統領と共和党超保守のロムニー候補の対決になる。だが、共和党内ではロムニー候補はいわば、なりすまし保守派。保守派が一致して同候補を支持する態勢が生まれるのかとの疑問や、百戦錬磨のリベラル派オバマ大統領に対抗できるのかという不安もある。


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