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米大統領選挙 鍵はユーロが握る
持田直武 国際ニュース分析

2012年6月17日 持田直武

大統領選挙の投票日まで5ヶ月足らず、民主党のオバマ大統領と共和党のロムニー候補が四つに組む接戦となっている。支持率や選挙資金集めで両者はほぼ互角。現在の主戦場はテレビコマーシャルによる中傷合戦だが、勝敗を分けるのは今後の景気の成り行き。しかも、ユーロの動向が鍵になりそうだ。


・両候補は支持率、資金集めでほぼ互角

 ギャラップ世論調査所が6月14日に発表した調査結果によれば、支持率はオバマ大統領が46%、ロムニー候補が45%である。ロイター通信が12日に発表した調査結果では、オバマ大統領45%、ロムニー候補44%だった。1%の差は誤差の範囲内で実質的には同率である。ギャラップが4月から続けている月間の平均支持率調査でも、オバマ、ロムニー両候補は4月の月間平均支持率が46%で同じ、5月の月間平均支持率も46%でまったく同じだった。

 今後の選挙情勢を左右する資金集めでも両候補はほぼ互角だ。ロムニー候補の選挙対策本部7日の発表によれば、同選対本部と共和党全国委員会は5月の1ヶ月間に合計7,680万ドルの献金を集めた。一方、オバマ大統領の選対本部と民主党全国委員会が5月に集めた献金は合計6,000万ドルだった。ロムニー陣営が集める献金額がオバマ陣営を上回るのは初めてだった。ロムニー候補が5月から事実上の共和党候補となり、同党全国委員会が集める献金が同候補の選対に入ることになったためだ。

 現職のオバマ大統領に較べ、ロムニー陣営は組織つくりの面ではハンディがある。オバマ大統領は1年前から民主党の大統領候補として全国に選対支部を設立、地域の草の根支持者を取り込んだ。同選対本部には4月末の時点で合計1億4,000万ドルのキャッシュを蓄えた。これに対し、ロムニー候補は4月中旬まで党候補の指名を獲得するため予備選挙対応で手一杯だった。5月の献金総額がオバマ陣営を上回ったことで、手元のキャッシュも5月末の時点で1億700万ドルに増加、オバマ陣営とほぼ互角の態勢になった。


・主戦場はテレビコマーシャルによる中傷合戦

 こうして両陣営が献金集めに走る結果、今回の選挙費用は初めて20億ドルを越えることが確実だ。前回08年の選挙費用は、民主党のオバマと共和党マケイン両候補の合計が8億5,966万ドルだった。今回の選挙では両党候補の費用が増えるのが確実のほか、スーパーPAC(政治活動特別委員会)という第三者の団体も選挙戦に加わる。2年前の法改正で、候補や政党とは別の第三者が団体をつくり献金を集めて特定の候補を支援することができるようになった。選挙戦のプレヤーが増えれば費用も増える。その影響は接戦が予想される州のテレビコマーシャル枠の争奪戦にも現れている。

 CNNが4日に発表した調査結果によれば、接戦が予想される州はフロリダ州など7州ある。オバマ大統領はカリフォルニア州など19の州と首都ワシントンで優勢で大統領選挙人247人を獲得する可能性がある。当選に必要な選挙人は270人のため、同大統領が当選するには接戦の7州で選挙人をさらに23人確保する必要がある。一方、ロムニー候補は現在24の州で優勢で獲得する選挙人は206人。当選するには接戦州でさらに選挙人64人を獲得しなければならない。そこで接戦州のテレビ局が持つコマーシャル枠の争奪戦が起きた。

 6月8日付けのワシントンの政治誌ナショナル・ジャーナル(電子版)によれば、7州の中でも選挙人が29人と多いフロリダ州、18人のオハイオ州、13人のバージニア州の3州が当面の主戦場になった。オバマとロムニー両候補の選対、それに両候補をそれぞれ支持する多数のスーパーPACが地元のローカルTV局と今後数週間分のコマーシャル枠の購入契約を結び、その金額は合計5,490万ドルに達したという。選挙戦が加熱すればコマーシャル枠の購入はさらに増えるのは必至である。


・勝敗の鍵となるのは今後のユーロの動向

 こうして流される選挙コマーシャルも、その内容は保証の限りではない。かつては選挙の帰趨に影響を与えたと言われる良質な作品もあったが、最近はその場かぎりで消えるのが多い。ワシントン・ポストが5月28日からの1週間に放送されたコマーシャルを分析した結果によれば、内容が良質でポジティブと認められるのは37%、中傷や誹謗に近いネガティブが63%だった。コマーシャル枠の購入費は選挙費用の中で最大の支出額だが、当選に対する貢献度という点からみれば、額に見合っていないのは間違いない。

 米大統領選挙はコマーシャルよりも投票日の景気のほうが勝敗を左右すると言われる。投票日の頃、景気がよければ現職大統領に有利、景気が悪ければ不利だ。オバマ大統領の場合、今年春までは景気が上昇基調を辿り、失業率も8.1%と低下傾向だった。ところが、5月に入って欧州ユーロ圏の金融危機が拡大、その影響を受けて5月の失業率が8.2%に逆戻りし、株価も不安定で急落を繰り返している。このままユーロ圏の危機が拡大し続ければ、米経済も余波を受けて景気が腰折れしかねない。投票日まで5ヶ月足らずになってオバマ大統領の再選見通しに暗雲がかかった。欧州のユーロ圏が米大統領選挙の鍵を握ることになりそうなのだ。


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