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米国を悩ます銃犯罪(1)
持田直武 国際ニュース分析

2013年2月24日 持田直武

オバマ大統領が国民の銃所持を規制する方針を打ち出した。コネティカット州の小学校で児童20人が殺害される銃乱射事件が起き、対応策を迫られたのだ。だが、米国憲法は国民が銃を持つことを国民の権利として認めている。大統領はこの憲法の規定を尊重しつつ効果的な銃規制ができるか、手腕を問われることになった。


・米国民1人が1丁の銃を所持

 米国国勢調査局によれば、米国の人口は現在3億1500万人余りである。一方、米国の民間調査機関「ジャスト・ファクト」は、2010年の時点で米国には軍や警察を除く民間だけで約3億丁の銃があると推定した。国民1人が1丁の銃を所持している計算である。このうち数が最も多いのは拳銃、次がライフル銃、3番目がショット・ガンだ。所有の形態は「家庭で所有」が最も多く42%、次が「個人の所有」30%。所有者の政党別内訳は「共和党員」が41%、「民主党員」が23%、「無党派」27%だ。銃を所持する理由は複数回答で「犯罪に備えるため」が最も多く67%、射撃競技用が66%、狩猟用が58%である。

 銃が多いだけに銃を使った犯罪も多くなる。FBI(米連邦捜査局)の統計によれば、米国内では2008年1万6,277件の殺人事件が起き、このうち67%が銃を使った殺人だった。1年間に人口10万人あたり3.21人が銃で殺害されたわけで、同じような社会体制の英国に比べ実に45倍、先進国で最悪である。この状況を変えようとする動きがなかったわけではない。しかし、銃規制派と所持派がそれぞれの主張を掲げて争い、効果的な対策はとれていない。そんな中、コネティカット州の小学校で20人の児童を射殺する乱射事件が起きた。


・犯人は拳銃2丁とライフル銃を持って小学校に乱入

 事件は昨年12月14日ニューヨーク市から97キロのコネティカット州ニュータウンで起きた。住民2万8000人、過去10年間に殺人事件はわずか1件という平和な町である。その日午前9時30分、同町のサンデーフック小学校は児童456人が登校したのを見届けて玄関をロックした。その5分後、犯人が車で乗りつけた。黒ずくめの服装にグリーンのベストを着用、半自動式ライフル銃のほか拳銃2丁を持っていた。玄関では警備システムが作動し、訪問者は学校当局が用件を確認しないと入れなかったが、犯人はライフル銃でガラス窓を吹き飛ばし構内に入った。

 玄関近くの2つの教室で1年生が授業中だった。犯人はその1つに飛び込んで半自動式ライフル銃を乱射。女性教師と児童16人のうち女児(6)1人を除き全員を射殺した。女児は死んだふりをして難を逃れたのだった。犯人は最初の惨劇を終えると、次は隣の1年生の教室に移動、ここでも4人を射殺した。授業をしていた女性教師は銃声が聞こえると児童を教室内の戸棚に隠し、犯人に対し「子供たちは講堂に行った」と言って児童たちを守ろうとしたが、うまくいかず児童とともに射殺された。

 犯人は10分余り銃撃を続けたあと自殺して惨劇は終わった。死者は児童20人、教師と学校職員6人だった。犯人はアダム・ピーター・ランザ(20)。動機は不明だ。定職はなく、小学校から8キロ東の家で離婚した母親(52)と一緒に暮らしていた。事件後、警察が自宅を訪ねると、彼女はパジャマ姿で頭に4発の弾丸を打ち込まれ死んでいた。警察はランザが殺したものとみている。彼女の前夫は企業経営者で離婚にあたってかなりの慰謝料を払ったという。おかげで彼女は生活に困らず、近隣には銃器マニアとして知られていた。自宅には3丁の半自動式ライフル銃が残されていた。犯人のランザは教室に乱入した時、半自動式ライフル銃1丁と拳銃2丁を持っていたほか、ショット・ガン1丁を車内に置いていた。銃の所有者はいずれも母親だった。


・的をはずしたオバマ大統領の銃犯罪対策

 小学校を襲撃し20人もの児童を射殺した事件は米国でも初めてだった。オバマ大統領は事件が起きた日の夜、全米向けのテレビで「大統領権限の全てを使って事件の再発を防ぐ」と約束。2日後にはバイデン副大統領を議長とする銃犯罪防止対策委員会を組織した。そして4日後の演説では「銃規制をオバマ第二期政権の中心課題にする方針」を打ち出した。大統領の相次ぐ方針表明に応え、世論も沸騰。オバマ政権が設置したインターネットの意見表明欄には「銃規制支持」を表明する書き込みが事件後15時間に10万件に達した。

 だが、オバマ政権の対応はまもなく息切れする。オバマ大統領は1月16日バイデン副大統領がまとめた包括的な銃規制案を発表したが、新味がないと不評だった。提案は次のような項目が骨子となっている。

・半自動式ライフル銃と大容量弾倉の製造、販売を禁止する。
・すべての銃取引で購入者の犯罪歴の有無を確認する。
・犯罪者への銃販売に対する罰則強化。
・銃購入不適格者の情報拡充。

 銃犯罪を防ぐ上で最も効果があるのは民間の銃所持を禁止することだ。しかし、オバマ大統領が発表した銃規制案は半自動式ライフル銃の製造と販売を禁止するだけで、所持には触れていない。新規の購入はできないが、すでに所持しているライフル銃はそのまま所持できるという規制である。しかも、拳銃とショット・ガンの製造、販売は規制を受けない。このほか、銃規制案は銃を購入する側の犯罪歴の有無などを調査する、いわゆるバックグラウンド・チェックの強化を盛り込んでいるが、これも93年成立のブレイディ法などでテスト済みで効果については限界がある。


・銃マーケットは大盛況

 銃規制に賭けるオバマ大統領の思惑とは裏腹に民間の銃販売は前例のない大盛況を呈している。1月18日のワシントン・ポスト(電子版)によれば、オバマ大統領が製造、販売の禁止対象に挙げた半自動式ライフル銃が銃砲店で引っ張り凧になり、中には1年先の予約まで埋まる例もあるという。国民の中には規制案が実施されれば、半自動式ライフル銃はマーケットから姿を消すと考えるからだ。

 同形式のライフル銃はクリントン政権が1994年、10年間の時限立法で製造、販売を禁止したことがある。04年に時限立法の期限を迎えたが、当時のブッシュ政権は銃規制反対派の強硬な主張を容れて同法の延長を拒否。このため規制支持派は後継のオバマ政権に再禁止を要求してきた。オバマ大統領の規制案はこれら銃規制派の要求に答えたものだが、与党民主党内にも反対意見があり、議会を通過するか予断を許さない。
(2)へ続く


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