アメリカで食う見る遊ぶ
ヘルズキッチンが舞台の物語です。

ヘルズキッチンで食い倒れ

私が最初泊まっていた仮住まいのホテルは、ヘルズキッチンといわれるエリアの北端にあった。ブロードウエイの劇場が集中しているあたりから西の、ダウンタウンとセントラルパークの間のエリアだ。ゴッドファーザーのコルレオーネ一家がシチリアからやってきて最初に根をおろした所であり、ウエストサイド物語の舞台になった所でもある。ちょっと前までは物騒で、夜は弱っちい日本人なんてとても出歩けなかったらしい。
でも今は(たぶんわりと)大丈夫。特に45丁目よりちょっと北の10番街以東あたりは、街路樹が茂って道もきれいだし、ひとりでも入れる雰囲気の、小さめのレストランがたくさん並んでいる。

小腹を空かしてこのあたりをぶらぶらするのは本当に楽しかった。ニューヨークって世界中の料理が食べられる所だっていうのがよくわかる。イタリア、フランス、メキシコ、スペイン、ギリシャ、エチオピア、キューバ、ブラジル、中国、タイ、ベトナム、日本…。ひとつの通りにこれだけの国の料理店が並んでいる。そして、そのお店は正しくその国出身らしい風貌の人がやっている。混んでいる所を狙って、今日はイタリアン、明日はベトナム…。といろいろな店に行くことが出来た。

9thAvの50-51stにあります。
サカナ好きの私に嬉しかったのは、ギリシャ料理の「アンクルニックス」だ。 店の正面のウインドーには、氷を敷いた上に色とりどりのサカナがディスプレイされている。細長い店の片側はオープンキッチンになっていて、グリルの上でカバブが焼けている。 肉料理も魚料理も両方楽しめるので得した気分になれる。そして、付け合せの野菜のごった煮がおいしかった。ジャガイモやトマトがぐずぐずに煮崩れていて、家庭料理っぽいのがよかった。


こちらは9thAvの53-54st。
飲みたいし食べたいし雰囲気も楽しみたいなんていう時は、ジュリアンズがいい。イタリアンテイストのアメリカンキュイジーヌなんだそうで、テーブルでゆっくり食事をすることも出来るし、バーカウンターでつまみながら飲むことも出来る。
「軽く食べよう」とこの店に入って「梨とエンダイブのサラダ」と「ラムチョップ」を食べた。サラダはこくのあるゴートチーズがしゃきしゃきした梨にからみ、さらにくるみがコリコリと歯ごたえが良くて面白い味だった。ラムチョップは大きくて肉が柔らかくて、ぴりりとしたマスタードソースと付け合せの青臭いアスパラガスが味を引き立てていた。
他のテーブルに出ていたデザートもおいしそうで、「さっき見た、丸いカップに入ってベリーが載っていたのがほしい」と言ったら「クリームブリュレ」が出てきた。私が見たのとは違ったけれど、ブリュレの下半分がチョコレート味になっていて、上にちょぼちょぼと載ったイチゴとも良く合って、甘すぎずにほんのりビターな、大人の味だった。


こちらは9thAvの51-52st。
疲れてお腹やさしいものが食べたいな、というときにはベトナム料理のサイゴンファンに行った。ここのフォーは、スープにすごくダシがきいていて、お米の麺はつるつると喉を通り、ありがたかった。生春巻きはアメリカンサイズで赤ん坊の腕くらいの大きさだったけど、生野菜がたっぷりくるんであるのでパクパク食べられる。
お店はセンスあるシンプルな内装で、きれいで安い。時には油っこすぎる中華料理より、ベトナム料理はずっとヘルシーなので大好きだ。

9thAvの49-50st。
いくらでも徘徊して食べ歩きしたいヘルズキッチンだけど、そうそうお金も続かないよという時はデリが便利だ。私は無農薬野菜スーパー「アーミッシュ」のデリが気に入った。客足がひと段落する夜8時以降に行くとおまけしてくれるし、「これは何?」と聞くと、「アイルランドの料理なんだよ」なんて言いながら味見させてくれるし。
おまけが色々ついたお惣菜と、よく煮えてこくがさらに出たスープをカップに入れてもらってホテルの部屋に帰り、ワインとパンでTVディナーなんてのも、わびし楽しかった。

written by 篠田なぎさ(⇒ プロフィール



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