アメリカ三面記事便り
Legal Lynching: The Death Penalty and America's Future

連続射殺犯の17才少年は死刑になるのか

ワシントン近郊で起きていた連続狙撃事件は、41歳の元軍人とその養子とされる17歳のジャマイカ出身の少年が逮捕されて、ひと段落。街には活気が戻り、無能呼ばわりされていた警察署長は一躍人気者になった。

「署長が始めて笑顔を見せた」「大統領から祝福のメッセージが届いた」「皆が祝杯を上げに行く中、彼はひとり妻に会いに自宅に帰った」「署長の趣味は象の置物を集めること」など、微笑ましいレポートがメディアを埋める。
週明けからは、署長本人がテレビのスタジオに登場。美人インタビューアーに囲まれて捜査の苦労を語っている。13歳の少年が狙撃された時に、記者会見で思わず涙を見せてしまったことが、人気を煽っているようだ。

この事件で、容疑者が黒人であることが明らかになった時の衝撃は、何ともいえないものだった。今までのプロファイリングはすべて「ハズレ」となり、解説者たちは慌てて「人口比から考えても、連続殺人犯の十数パーセントは黒人であってもおかしくないのだ」などと言い始めた。肝心の動機がまだ明らかになっていないので、解説者の分析ごっこはまだまだ続きそうだ。

私が驚いたのは、容疑者のひとりの17歳の少年の扱いだ。指名手配の段階から名前が報道され、容疑確定後は二人で肩を組んでにっこりと笑っている写真がニュースのトップに出ている。もちろん、顔にボカシなんて入っていない。少年の生い立ちや、転々と移った学校の名前や、母親のインタビューや、友だちや先生のコメントもすべて、詳細に報道されている。

この事件は犯人逮捕の前から、捕まれば死刑は当然という風潮だった。検察当局は早々に、この少年を成人とみなし、極刑を求めていく方針であると発表した。 アメリカでは州ごとに、検事や裁判所の判断、容疑の種類で、容疑者を少年でも成人とみなすことができる例外措置規定がある。 フロリダでは先月、犯行当時12歳と13歳だった兄弟が成人として扱われ、父親殺しと放火で懲役30年の判決を下されている。世論調査では半数以上の人が、この連続射殺の17歳の少年を死刑にすべきだと答えている。

それに対して、銃の法的規制強化については、賛成が51%、反対が43%と反対も根強い。連続射殺犯逮捕の翌日にはオクラホマで高校生が銃を乱射し、2人を殺害し7人に重軽傷を負わせ、その2日後にアリゾナで、大学生が教官3人を射殺して自殺しているというのにだ。

連続射殺の少年は、未婚の母のもとに生まれ、面倒を見てくれる人もなく、母親の結婚と離婚に振り回されて、国を越えて学校を転々とし、やっと後見人が現れたと思ったら、2度離婚して3人の子供の親権で揉めている元詐欺師だったという生い立ちだ。
そんな少年が簡単に銃を持ててしまう事は許容し、人に向けて発砲したら殺してしまえと言う。自分の選択と行動には、とことん責任を持てというお国柄なのだろう。
こんな調子では、狙撃されるのも自己責任のうちだと言われてしまうのかもしれない…。空恐ろしい国に来てしまったなと、改めて思う今日この頃だ。


参考)

written by 篠田なぎさ(⇒ プロフィール



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