アメリカ三面記事便り
Patty Hearst: Her Own Story

テレビが解決した誘拐事件

エリザベス・スマートちゃん(15)が、ユタ州ソルトレークシティの自宅寝室から、男にナイフで脅されて連れ去られたのは、昨年6月の事だった。寝たふりをしていた妹の証言で男の似顔絵が作られたが、警察は取り合わなかったという。家族はその似顔絵を、TV番組「アメリカズ・モースト・ウオンテッド」(FOX)に持ち込んだ。

番組で取り上げられた似顔絵を見た、ブライアン・ミッチェル(49)の前妻の子供達から、本名と写真が提供された。そして「テレビで見た誘拐犯が近くを歩いている」と通報があったのは、写真が放映された4日後だった。
ブライアン・ミッチェルとその妻は逮捕され、一緒にいたエリザベスちゃんは9ヶ月ぶりに家族のもとに帰ることができた。

TV番組「アメリカズ・モースト・ウオンテッド」は、毎回平均で900万人の視聴者が見る、15年も続く長寿番組だ。ホストのジョン・ウォルシュは、当時6歳だった息子を誘拐され、殺害され、しかも事件は未解決という経験を持つ、テレビ界とは無縁だった人物だ。番組は今までに、約2500件の未解決事件を取り上げ、700件以上も犯人逮捕につながる情報を得ているという。その中でエリザベスちゃんは、36人目の生きて発見されたミッシング・チルドレンとなった。

発見されるまでの9ヶ月の間、エリザベスちゃんは、長いガウンを着てベールをかぶり、顔をすっぽりと覆って、同じ格好をした犯人夫婦について歩いていたという。逃げようと思えばいつでも逃げられたはずなのに、自分を探す写真入りのポスターも見たはずなのに、なぜ発見された時に自分がエリザベスであるという事を認めず、自分の名前は「オーガスチン」で、「一緒にいるのは両親だ」などと偽ったのか。犯人のブライアン・ミッチェルが言ったという「エリザベスは自分を愛しており、2番目の妻となったのだ」という話は本当なのか?

加熱するメディアの前に、1974年に過激派に誘拐され、銀行強盗に加わった大富豪の娘パトリシア・ハーストが登場した。エリザベスちゃんが犯人夫婦に従ったのは、自分や家族を殺すと脅されたからで、そうせざるを得なかったからだと擁護するためだ。そして、エリザベスちゃんの心をこれ以上傷つけないためにも、絶対に彼女をマスコミにさらしてはいけないと、家族にアドバイスした。告訴は誘拐だけにとどめ、肉体的な虐待については触れないでおくべきだとも。事件で傷つけられた人格に、野蛮でひどい捜査の尋問を浴びせる事はないと。
エリザベスちゃんには、すでに100以上の執筆やTV・映画出演要請が来ていると伝えられているが、パトリシア・ハーストはそれをすると、パロディ映画やコメディ番組の格好の標的にされると、警告した。

メディアの力が解決した事件だけれど、そのまメディアに身をゆだねていたらどうなってしまうか。パトリシア・ハーストの話から容易に想像がつく。
発見された当日は、喜び一杯の様子を見せていたエリザベスちゃん一家だが、その後はぱたりとメディアに登場しなくなった。
追記:2003年11月にエリザベスちゃんの両親が書いた手記が発売され、この事件はテレビ映画化された。

written by 篠田なぎさ(⇒ プロフィール



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