アメリカ三面記事便り

ケーブルテレビがやってきた

 アパートが決まり、契約が済むと、ペンキ塗りたてのぴかぴかの部屋に、まずレンタルテレビがやってきた。電話も家具も無いがらんどうに、ごろんとひとつ置かれたテレビは、まるでこれからの私の生活を象徴しているようだった。

もちろん、他の家具も電話の取り付けも頼んでいるのだけど、工事が延期になったりスタッフが休みだからと配送がすごく先になったりとなかなか来ないのだ。アメリカの配送や取り付け工事のいいかげんさは誰もが経験するようだ。電話で何回も確認して強気で交渉しなくてはならないので「それで英語がうまくなるんだよー」とみんなに脅されている。

レンタルテレビだけはニュージャージーにある日系の会社に頼んだので早く届いた。電話をかけたら翌営業日の昼には持ってきてくれたので驚いた。注文は日本語でできて、大型テレビでも月10ドルでレンタルと安いので、とても便利だ。テレビには、音声が字幕で出るキャプション機能も付いている。耳では早い会話についていけない私には便利だと思ったのだが、その機能を使ってみて、目で字を追うのは耳で聞くよりもっと大変ということがわかった。

そして、思いかけずにケーブルテレビの工事の人がやってきた。前々日に1週間先に延期になったはずなのに。しかも予約していた時間より2時間も早い。外出でもしていたらこのチャンスを逃すところだった。ラッキーだ。
マンハッタンのアパートには、地上波放送受信のための配線が無い。付いているのはケーブルテレビのコネクターだけだ。簡易アンテナでTVの受信をしてみたけれど、周りが高層ビルばかりなせいか、電波障害がひどくて殆ど映らない。有料ケーブルTVに加入してからではないと、ここではTVを見ることができないのだ。
TVモニターさえあれば、とりあえず地上波は見られるという日本の状況に慣れている私には、それが何だか腑に落ちない。しかもケーブルテレビ受信代が、NHKの受信料に較べてもとても高いのだ。基本契約で月5千円くらい。取り付け代は別途かかる。日本語放送を見ようと思ったら+3千円。私には必需品のケーブルインターネット接続を追加するとさらに+5千円だ。

「日本語放送とインターネットが必要なら、マルチパックにするのと1ドルしか違いませんよ」とカスタマーサービスが言うので、そちらを選んだ。すると、プレミアムチャンネルの中から見たいものを選べという。リストにはずらーりと映画やショーのチャンネルが並んでいるけれど、すでに基本パックに130以上のチャンネルがあるのだ。これ以上増やしたって見るわけないのに…。

ケーブルテレビの設置にやってきたサービスマンは「さあ、これでやっときれいな映像で見られるようになったよ!」と陽気に言う。
リモコンの使い方を教えて貰いながら、チャンネルを飛ばしていく。 出るわ出るわ、色々な局が色々な放送をしている。デジタル放送で音楽だけを流すチャンネルも、ジャンル別に40もある。

「こんなにたくさん、家でも見ているの?」私が聞くと、
「うん、見ているよ。でも、最近チャンネル多すぎだよね」とサービスマンが言った。

地元の人ですらチャンネルが多すぎだと言うこのケーブルテレビを、私は払った分だけ見こなすことが出来るんだろうか。楽しみにしていた「ER」も、興味津々の「Sex & the City」も、どのチャンネルで何時にやっているのか探す方法もわからないので、偶然「アイアン シェフ」(こちらで大人気の英語吹き替え版『料理の鉄人』)を見た以外は、話題の番組にいまだに遭遇できずにいる。

written by 篠田なぎさ(⇒ プロフィール



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