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イラン制裁の問題点
持田直武 国際ニュース分析

2006年9月11日 持田直武

イランがウラン濃縮を続け、核兵器開発の疑惑を深めている。これに対し、米は9月中にも制裁を発動する構えで、関係国に働きかけている。中ロやEU内には、交渉を優先するべきだとの主張が強いが、イランが今後も濃縮を続ければ、米の強硬論が有利になる。レバノンの戦闘がようやく終わり、原油価格も落ち着いたと思った矢先、また暗雲がひろがる気配だ。


・現在は制裁慎重論が支配的

 ブッシュ大統領は9月6日中間選挙の応援演説で、イランの指導者を「暴君」、「テロ組織アル・カイダと同じように危険」と決め付け、彼らに核兵器を持たせてはならないと強調した。国連安保理がイランに対し「8月31日までにウラン濃縮の中止を要求、中止しない場合、制裁を検討する」と決議した。しかし、イランは従わず、濃縮を続けている。ブッシュ大統領の厳しい調子は、この国連決議に従って制裁に持ち込もうとする米の強硬姿勢の表明だった。

 だが、国連安保理は米の思惑どおりに必ずしも動かない。このブッシュ演説の翌日、安保理5カ国とドイツの代表がベルリンで会合。イラン制裁の検討を開始した。APによれば、この席上、米のバーンズ国務次官は「国連決議に従って、9月中に制裁を開始するべきだ」と主張した。しかし、中国とロシアは「性急すぎる」として、この提案には同調しなかった。また、英仏独3国はEUのソラナ外交代表がイランの核交渉責任者ラリジャニ最高安全保障委員会事務局長と会談する機会を探っているため、この結果を見守る姿勢を示した。

 こうした各国の動きと並行して、国連のアナン事務総長も2日発行のフランス紙ル・モンドとのインタビューで、「制裁がすべての問題の解決につながるとは思わない」と述べ、米の強硬論を牽制した。また、IAEA(国際原子力機関)のエルバラダイ事務局長も8月29日、外務省の金田副大臣との会談で「イランが濃縮活動を完全に停止することは内政的に困難」との見方を示した。そして、「NPT(核拡散防止条約)脱退や査察官の追放に至った北朝鮮のような事態の再来を招かないよう対応するべきだ」と述べ、制裁には慎重な姿勢を示した。


・イランの動き次第で強硬論にも出番

 慎重論の一方で、イランの非協力的な姿勢に不満を持つ国は多い。ドイツのメルケル首相は6日議会で、「イランが安保理決議を無視するのを黙って見てはいられない」と不満を表明。また、ロシアのラブロフ外相も6日、「制裁を支持することも考えている」とイランを牽制する発言をした。安保理常任理事国とドイツが6月、経済支援などを含めた包括的解決策を提案したのに対し、イランは満足な回答をしていない。ラリジャニ事務局長がソラナ代表と会談を約束しながら直前にキャンセルを重ねたなどの不満があるのだ。不満がさらに広まれば、米の強硬論の出番になる。

 米は11日にも、国連安保理で制裁決議案の作成に入るべきだと主張しているが、今のところ他の理事国の反応は鈍い。このため、米財務省はこうした安保理の動きとは別に、独自の制裁に向けて動き出した。同省のレビー次官が8日明らかにしたところによれば、財務省はイラン国営のサデラト銀行関連の業務を米金融システムから排除する措置を取った。イラン政府が同銀行を通じ、レバノンのヒズボラやパレスチナのハマスなどに活動資金を送ったという理由だ。米財務省は今後、イランの核開発やミサイル開発でも、関係銀行や企業にこうした措置を取るという。

 レビー次官は11日からヨーロッパを訪問、各国の金融機関に対しても、イランとの取引を停止するよう呼びかける。レビー次官は、昨年9月から北朝鮮に対して発動した金融制裁の責任者としてよく知られている。同次官がイラン制裁にも登場したことは、ブッシュ政権が同次官の対北朝鮮金融制裁を如何に高く評価しているかを示している。しかし、年間貿易額が数十億ドルの北朝鮮に較べ、イランは石油輸出大国。金融制裁によって如何なる影響が出るか、無関心ではいられない。


・国際世論は外交解決を期待

 ロシア原子力庁のキリエンコ長官は8日、ロシアがイランのブシェールに建設している原子力発電所が来年9月に完成すると発表した。イラン念願の原発1号基だ。当面、核燃料はロシアが供給、使用済み燃料棒は灰とともにロシアが引き取る。しかし、イランはこれに不満で、独自に核燃料を作ると主張し、その一歩としてウラン濃縮を続けている。自前の核燃料を使用する段階になれば、密かに一部を核兵器に転用する機会も増えることになり、米欧に焦燥感が増すのは間違いない。

 米の世論調査機関ドイツ・マーシャル基金が6日に発表した調査結果によれば、米欧の市民の大多数はイランの核問題は外交で解決するべきだと考えている。調査は6月6日から24日まで、米国とヨーロッパ12カ国の市民1,000人を対象に電話と聞き取り調査を実施した。その結果、外交で問題を解決するべきだという答は、ヨーロッパでは84%。米国では79%に上った。もし、外交で解決できなかった場合、どうするかという質問では、力を行使するべきだという答が、米国では45%。ヨーロッパでは37%だった。

 ブッシュ大統領は今後の方針として、外交解決を目指すが、軍事力の行使も選択肢の1つという立場を変えない。政権内では、空爆によってイランの核施設を破壊する計画を立案中などの情報も絶えない。しかし、軍事行動に出れば、イランは反撃し、石油ルートが混乱。世界経済は麻痺し、イランも大打撃を受けるだろう。経済制裁の動きが出るだけでも、原油価格が高騰しかねない。実は、イランは核兵器を開発すると言ったことはない。また、米に対しては公式、非公式に対話を要求している。対話の余地があることは明らかで、米は応じるべきである。


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