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北朝鮮の平和攻勢
持田直武 国際ニュース分析

2009年9月27日 持田直武

北朝鮮の金正日総書記が中国の特使との会談で、朝鮮半島の非核化を目指す方針は変わらないと主張した。また、北朝鮮の核問題については、2国間または多国間の対話で解決したいと述べた。だが、この発言が核兵器の放棄や6カ国協議への復帰を意味すると考えるのは早計のようだ。


・金正日総書記が多国間協議に言及した真意

 金正日総書記は9月18日、中国の胡錦濤国家主席の特使として訪朝した戴秉国国務委員と会談した。新華社通信によれば、金正日総書記はこの席で「DPRK(北朝鮮)は朝鮮半島の非核化を目指し、今後も同地域の平和と安定を維持するために努力する。また、核問題解決のため、2国間または多国間の対話に喜んで応じる」と述べた。文字通り受け取れば、核兵器の破棄を目指し、米国との2国間対話や6カ国協議など多国間の対話に応じるという姿勢の表明である。

 だが、金正日総書記の発言はそんな楽観を許すものではなかった。中国の胡錦濤主席は国連出席中の23日、韓国の李明博大統領と会談し、金正日総書記と戴秉国国務委員の会談について説明した。毎日新聞によれば、胡主席は金総書記の発言について「北朝鮮が米との2国間対話、あるいはどんな形式であれ多間間対話を進める意思を持っているように感じた」と説明。さらに同主席は「参加国が努力すれば、北朝鮮が6カ国協議に復帰する可能性もまだある」と語ったという。

 胡錦濤主席は、金正日総書記が言及した多国間対話を即6カ国協議と受け取っていないことがわかる。北朝鮮は昨年12月、6カ国協議が決裂したあと、4月のミサイル発射、5月の核実験と挑発行為を続け、国連安保理が厳しい制裁を科した。北朝鮮はこの制裁に反発、6カ国協議には復帰しないと再三にわたって宣言している。今回、金正日総書記が多国間対話に言及したのは、6カ国協議の議長国である中国に配慮したためで、真意は6カ国協議への復帰拒否と見た方がよい。


・北朝鮮が主張する朝鮮半島非核化の意味

 金正日総書記が主張する朝鮮半島非核化についても、直ちに北朝鮮の核兵器放棄を意味すると受け取る向きはない。北朝鮮は金日成主席当時の1991年、韓国と南北非核化共同宣言に調印。その後、朝鮮半島非核化は同主席の遺訓として守るとの立場を表明してきた。その一方で、北朝鮮は米の敵視政策と対決するためとして核兵器開発を推進し、06年10月に最初の核実験、今年5月には2回目の核実験を敢行。最近は米に対し核保有国としての立場を認めるよう要求している。

 金正日総書記が「2国間または多国間の対話に応じる」のも、狙いは北朝鮮を核保有国として認知させるためだと考えるべきだ。北朝鮮は9月3日、国連制裁に関連して安保理議長に送った書簡で、「使用済み核燃料棒の再処理が最終段階に入り、抽出したプルトニウムの兵器化も進行している。また、ウラン濃縮実験も成功裏に進んでいる」などと核兵器開発の現状を誇示した。北朝鮮がすでに核保有国であることを国連安保理に通告し、核保有国として認知するよう要求したのと同じだ。

 北朝鮮はこれまで核交渉に必ず補償要求を絡ませたが、今回はそれがないのも注目に値する。北朝鮮が今後の交渉の目標を核保有国としての立場の認知に置くことと無関係ではないだろう。北朝鮮が6カ国協議を忌避する理由とも関連している。6ヶ国協議に復帰すれば、核施設の無能力化や核申告の検証など、数々の古証文を突きつけられ、非核化への道を歩むことを余儀なくされるに違いない。北朝鮮はこれを回避する方策として米朝との直接対話に賭けているのだろう。


・朝鮮半島非核化は核なき世界に向けての試金石

 この北朝鮮の動きに対し、米は6カ国協議再開の立場を崩さない。オバマ大統領と胡錦濤主席は9月22日ニューヨークで会談、北朝鮮問題を検討した。産経新聞によれば、両首脳はこの席で「6カ国協議を継続することを確認した」。両首脳はさらに「北朝鮮が核放棄に向けた6カ国協議の合意を遵守する必要があるとの認識も確認した」。また、オバマ大統領は米朝直接対話について「6カ国協議の枠組みの回復につながれば有効かもしれない」と述べたという。

 このオバマ大統領の発言と金正日総書記の違いは明白である。背景には、両者が対話で何を狙うかの違いが潜んでいる。金正日総書記は米朝2国間対話で北朝鮮を核保有国として認知させることを狙い、6カ国協議は念頭にない。米が認知すればインドやパキスタンと同様、核保有国として国際的にも認知されると見ている。これに対し、オバマ大統領は6カ国協議を再開し、同協議が05年9月の共同声明で打ち出した北朝鮮の核放棄と朝鮮半島非核化を実現することを目指している。

 オバマ大統領は米大統領として初めて核兵器全廃の目標を設定。国連安保理は9月24日、同大統領提案の「核兵器のない世界」実現を目指す決議を全会一致で採択した。北朝鮮の核放棄と朝鮮半島の非核化はイランの核問題と並び、核兵器のない世界を築く上でも重要な柱の1つ。オバマ大統領は、安保理が決議案を採択したあと記者団に「核兵器のない世界を困難なしに実現できるとは思っていない」と語ったが、北朝鮮の核問題がまずその最初の試金石となるのは間違いない。


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