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米大統領選挙 草の根運動の実力
持田直武 国際ニュース分析

2011年11月6日 持田直武

9月に登場した草の根組織、ウォール街占拠運動が勢力を拡大、次の行動計画として大統領候補の選挙事務所を占拠する計画を打ち出した。運動参加者の60%は前回選挙でオバマ支持だったが、来年の再選を支持するのはわずか36%。同大統領がウォール街から多額の献金を受けるなど、占拠運動の主張と相容れなくなったからだ。オバマ大統領が再選を果たすには草の根の支持が不可欠。占拠運動が同大統領に背を向ければ再選は難しくなる。


・仕掛け人はカナダの消費者運動活動家

 ウォール街占拠運動は9月17日最初のデモを敢行、その後世界各地にさまざまな形で拡大した。その発端はカナダ・バンクーバー市の消費者運動専門誌アドバスターズの呼びかけだった。同誌が2月2日キョウコ・マツ執筆の社説を掲載し「中東で起きている民衆の蜂起を西側でも起こし、ウォール街を百万人のデモで埋めよう」と呼びかけたのだ。この前日、エジプトのムバラク大統領が民主化要求のデモで再選辞退に追い込まれていた。

 アドバスターズ誌は無広告の隔月誌で部数12万部だが、消費者の立場に立って貧富の格差拡大など市場経済の矛盾を衝くキャンペーンを展開し、読者はカナダだけでなく欧米にも多い。これまでにも「買い物をしない日」や「テレビを見ない週」を提案して高い評価を受けた。また、リーマン・ショック後の経済危機では、大手銀行が公的資金のおかげでいち早く立ち直りながら、経営陣は危機を起こした責任を取らないなどと厳しく批判した。百万人デモによるウォール街占拠運動はこのキャンペーンの延長線上の構想だった。

 同誌が7月13日にネット配信した運動計画などによれば、主旨は「経済格差の是正」である。米国では国民の1%の富裕層が国家の富の40%を所有して99%の国民を支配していると主張。この格差を是正するため、99%の国民が富の中枢であるウォール街を占拠しようと訴えたのだ。最初のデモは9月17日の米国憲法制定記念日に開始し、10月中旬には全米70の主要都市と600余のコミュニティーに拡大した。また、この米のデモが契機となって世界各国900箇所余りでも同じ主旨のデモが起き、現在も続いている。


・次の占拠は大統領候補の選挙事務所

 占拠運動の発端はカナダの消費者運動だが、米では大統領選挙戦を巻き込む草の根運動になった。カナダが発信した構想では、運動は個人の意見表明の場とし、リーダーを置かず、支持政党も決めないという設定だった。しかし、米では占拠運動がウォール街から全米各地に広がるに従って地域の活動家や参加組織のリーダーが影響力を増し、運動も大統領選挙と無関係では済まなくなった。10月31日のCNN(電子版)によれば、占拠運動の活動家たちの間では、ウォール街占拠運動に続く次の行動として大統領候補者の選挙事務所を占拠する計画が進んでいる。

 米大統領選挙は1月3日のアイオワ州の党員集会を皮切りに全米50州で党員集会と予備選挙を順次開催し、それが約半年にわたって続く。候補者は各州に選挙事務所を設置し、党員集会と予備選挙当日は現地に出向いて投票を呼びかけるのが慣例だ。占拠活動家の計画では、この候補者の選挙事務所を1週間にわたって占拠するという。最初の占拠は、全米で最初に党員集会を開くアイオワ州で各候補者の選挙事務所を集会開催日の1週間前から集会当日まで占拠、候補者との対話を要求する。そして、もし候補者が応じなければ、選挙事務所の出入りを阻止するという。占拠する対象には共和党の各大統領候補の選挙事務所のほか、再選を目指すオバマ大統領の選挙事務所も含まれる。この行動の狙いは候補者の公約を確認し、有権者が党員集会や予備選挙で投票する際の判断材料にするほか、候補者が当選した場合は公約を守るかどうか監視するのだという。


・占拠運動が反オバマに転じる恐れ

 占拠運動が拡大するのに並行して、運動参加者の政治姿勢も明らかになってきた。ニューヨークのフォーダム大学が運動参加者301人を面接調査した結果によれば、参加者の政治的傾向はリベラル派が72%と圧倒的多数。また、運動参加者の60%は前回08年選挙ではオバマ大統領に投票したが、来年の再選を支持するのは36%に減少した。減少した理由の第1は経済政策に対する不満のためで、78%が経済は1年前に比べ悪化したと答えた。リベラル派は前回08年の大統領選挙で若手中間層を基盤とする草の根運動を展開、オバマ大統領誕生の中心的役割を果たした。しかし、最近は同大統領の経済政策に失望、一転して占拠運動の中心的担い手になったとみられている。

 オバマ政権内には占拠運動が登場した当初、運動にリベラル派の活動家が加わったのをみて歓迎する雰囲気もあった。リベラル派がオバマ再選に再び立ち上がったと受け取ったからだ。しかし、占拠運動はその後ウォール街と政治家の癒着に対する批判を強め、オバマ政権の期待に反する動きを始めた。オバマ大統領は08年選挙では中間層の草の根献金を大量に集めて当選したが、同時にウォール街にも太いパイプを築いた。そして、今回の再選では前回の2倍近い10億ドルの献金を集める予定で、ウォール街からも巨額の献金を期待している。このため、占拠運動が大統領候補者の選挙事務所の占拠などで政治家と金融界の癒着を追求する運動に拡大すれば、オバマ大統領の選挙戦略も狂いかねない。


・占拠運動がオバマ大統領当落の鍵を握るか

 ウォール街占拠運動は9月に登場すると全米に拡大し、既存のキリスト教福音派やティー・パーティ運動と並ぶ全国的規模の草の根組織となった。政治的立場は福音派やティー・パーティ運動が共和党系なのに対し、占拠運動は民主党系とみる向きもあった。民主党に多いリベラル派活動家が占拠運動に多数参加しているからだ。しかし、選挙事務所の占拠計画にみられるようにオバマ政権や民主党の期待どおりに動くとは限らないことが次第に明らかになっている。今後、占拠運動が選挙事務所の占拠を計画どおり実行すれば、オバマ政権との対立は避けらないに違いない。その場合、オバマ大統領再選も難しくなる。


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